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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第四章 断絶

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第三話 歪みの正しさ

拘束は、完全だった。

逃げ場はない。

動きも封じられている。


だが――ノエルの視線は落ちていない。

前を見ている。

何もない空間を。


「……失敗しただけだ」


ぽつりと、落ちる。

誰に向けた言葉でもない。ただ、思考がそのまま形になっただけ。


「途中だった」


その一言に、わずかな間が落ちる。

雨が、強く打ちつけていた。


足元が滑る。

視界が揺れる。

逃がさないように、押さえつける。


「……っ」


抵抗される。

思ったよりも強く、体勢が崩れる。

腕を掴み、引き戻す。

そのまま――

落ちる。鈍い音。

動かない。


――そこで、終わった。


「……手に入れれば」


現実へ戻るように、声が続く。


「それで、終わるはずだった」


間が落ちる。


「そうすれば――」


わずかに、息を吐く。


「正しくなる」


結論だった。

揺らがない、彼の中での“正しさ”。


「怖がっていただけだ」


静かに重ねる。


「分かっていなかった」


セレスのことを言っている。

その認識に疑いはない。


「だから――」


ほんの少しだけ、間。


「俺がやる必要があった」


完成された答え。

迷いはない。

沈黙が落ちる。

だが思考は続いている。


「今度は違う。最後までやる。それでいい」


それが正しいと、疑っていない。


「……そうか」


低い声が返る。

レオニスだった。


短いが、軽くはない。

否定もしない。

肯定もしない。

だが――結論は出ている。


視線がノエルへ向く。

冷静なまま、わずかに温度が違う。


「理解した」


宣言だった。

判断は終わっている。

あとは、処理だけ。


「なるほど」


もう一つの声が入る。

アシュレイ。

壁にもたれ、興味深そうに見ている。


「綺麗に繋がっているな。記憶も、認識も、すべて」


一歩だけ踏み出す。


「都合よく揃っている」


ノエルを見下ろす。


「君の中では、完璧だ」


否定ではない。

事実確認。


「だからこそ、壊れない」


静かに落とす。

沈黙が戻る。

誰も動かない。

だが――すでに、すべては決まっている。

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