第二十一話 外れる枷
静寂は、変わらない。
音はない。
光も、乏しい。
時間の感覚は、すでに意味を失っている。
ノエルは、立っていた。
座っていたわけでも、眠っていたわけでもない。
ただ――
待っていた。
「……遅い」
小さく、落とす。
誰に向けた言葉でもない。
だが、確信している。
ここで終わるわけがない。
終わる理由がない。
「……」
視線が、わずかに動く。
扉。
そこに、変化はない。
鍵も、音も、乱れもない。
それでも――
十分だった。
一歩、踏み出す。
迷いはない。
止める理由がない。
「……関係ない」
低く、呟く。
拘束。
命令。
家。
すべて、意味を失っている。
残っているのは――
「……セレス」
その名だけだった。
それでいい。
それだけでいい。
指先が、扉に触れる。
冷たい。
だが、関係ない。
力を込める。
軋む音が、小さく響く。
止まらない。
止められない。
「……」
もう一度、力をかける。
鍵はある。
だが――
意味はない。
外側の理屈は、内側には届かない。
わずかな隙。
それだけで十分だった。
音が、ずれる。
構造が、外れる。
「……行く」
低く、落とす。
確認ではない。
決定だった。
扉が、開く。
外の空気が流れ込む。
止まらない。
そのまま、踏み出す。
足取りは一定。
迷いはない。
廊下は静かだった。
誰もいない。
気配もない。
だが――
関係ない。
視線は前へ。
それだけでいい。
その瞬間――
「そこまでだ」
低い声が落ちる。
止まらない。
止まる理由がない。
一歩。
さらに一歩。
「ノエル」
名を呼ばれる。
それでも、止まらない。
「……遅い」
小さく、呟く。
その瞬間だった。
影が、動く。
複数。
一斉に、間合いを詰める。
速い。
だが――
ノエルの動きも止まらない。
捕らえられる。
腕を取られる。
押さえ込まれる。
床に叩きつけられる。
鈍い音が響く。
それでも――
「……関係ない」
低く、落とす。
抵抗はしない。
必要がないからだ。
結果は、変わらない。
止められたわけではない。
遅れただけだ。
「……行く」
もう一度、呟く。
視線は、前を向いたまま。
その先にあるものを、見据えるように。
拘束が強まる。
動きは完全に止められる。
だが――
止まってはいない。
「……次は」
小さく、落とす。
それだけで十分だった。




