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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第十九話 動き出す判断

静寂は、意図的に保たれていた。


誰もが声を潜めているわけではない。

ただ、無駄が削ぎ落とされている。


必要な音だけが、そこにある。

レオニスは動かない。


書類に目を通している。

だが、視線の先は紙面ではない。

思考は、別の場所にある。


「報告は以上です」


控えめな声が落ちる。

側近の言葉だった。

内容は単純だ。


セレスティナの異常。

ノエルの行動。

現在の拘束状況。


それだけ。

だが――

十分だった。 


「……そうか」


短く返す。

それ以上の言葉はない。

側近は一礼し、下がる。

扉が閉まる。

静寂が戻る。


レオニスは、わずかに視線を下ろす。

思考が、整理される。


ひとつずつ、順に。

セレスティナ。

崩れた。


だが、戻っている。

完全ではない。

違和感が残っている。

ノエル。


拘束下にありながら、動いた。

止まっていない。

意志がある。

外からの言葉。


――それが、本当に君の記憶か。

一瞬だけ、思考が止まる。

そして、繋がる。


「……」


完全ではない。

だが、線は引ける。


無関係ではない。

それだけは、確定している。


「ノエルが原因か」


独り言のように落とす。

断定ではない。

だが、外してもいない。


「……いや」


わずかに、否定する。

まだ足りない。

確証がない。

だからこそ――


「外すな」


低く、落とす。

命令だった。


誰に向けたものでもない。

だが、必要な位置に届く。


「セレスティナから」


続ける。

それで十分だった。


守る。

だが、囲わない。

観察する。

だが、放置しない。


その均衡、それを保つ。


「……動くな」


小さく、落とす。

これは、自分に向けたものだった。


まだ、動かない。

今ではない。

だが――

準備は整う。


「……近いな」


わずかに、視線を上げる。

その先にあるものを、見据えるように。


静かに。

確実に。

崩れ始めている。

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