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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第十七話 閉ざされた場所

音が、なかった。

完全に遮断されているわけではない。


だが、外の気配はほとんど届かない。

足音も、声も、遠い。

時間の流れすら、曖昧になる。


ノエルは、壁にもたれるように座っていた。


拘束はされていない。

逃げられないだけだ。

それで十分だった。


視線は落ちている。

だが、何も見ていない。

思考だけが、繰り返されている。


「……間違っていない」


小さく、落とす。

確認だった。


誰に向けたものでもない。

ただ、自分の中での答えをなぞる。


あの時、自分は手を伸ばした。


掴んだ。

離さなかった。

守ろうとした。

それだけだ。


「……間違っていない」


もう一度、繰り返す。


言葉にすれば、形になる。

形になれば、揺らがない。

そう理解している。

だから、繰り返す。


それでいい。

それが正しい。


「……」


沈黙が落ちる。

時間は進んでいるはずだった。


だが、その実感はない。

ふと、わずかな音が届く。

遠くから、誰かの声。

はっきりとは聞こえない。

だが――


「……家督は」


断片だけが、耳に残る。


「……弟に」


続きは、聞こえない。

それで十分だった。


ノエルは動かない。

反応もしない。


驚きも、怒りもない。

必要がないからだ。


意味がない。

価値もない。

それよりも――


「……セレス」


小さく、名を落とす。

それだけが、はっきりしている。

 

思考は、そこへ向かう。

切り替わる。

迷いはない。


「……必要だ」


理由はない。

説明もいらない。


ただ、それだけが残る。

胸の奥に、確かな感覚として。


「……」 


ゆっくりと、顔を上げる。

視線が、前を向く。

何もない空間。


だが、見えている。

そこにいないはずのものが。


「……取り戻す」


静かに低く、落とす。

だが、揺らぎはない。


あの時は、途中だった。

だから、失敗した。


今度は違う。

最後までやる。

それだけだ。


「……行く」


立ち上がる。

足取りに迷いはない。


止めるものはない。

止められるものでもない。


閉ざされた場所。

だが――

ここで終わる理由にはならない。

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