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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第十二話 対等な距離

ゼルヴァ王国からの使節として、アシュレイ・ゼルヴァは数日前から皇城に滞在していた。


表向きは、産業と貿易に関する協議のための訪問。

その合間に、城内を歩くことも多い。


来訪の報は、事前に届いていた。

だが、それを断る理由はない。


レオニスは椅子に座ったまま、わずかに視線を上げる。

扉が開く。

足音は一定。

迷いはない。

入ってきた男は、そのまま数歩進み、立ち止まった。


「急な訪問、失礼する」


軽い口調だった。

だが、崩れてはいない。

レオニスは、視線だけを向ける。


「構わない」


短く返す。

それで十分だった。

間を置かず、男は続ける。


「厄介な男がいるな」


前置きはない。

レオニスの表情は変わらない。


「……ノエルのことか」


確認だけを返す。

男は、わずかに肩をすくめた。


「他にいるなら、それはそれで問題だな」


冗談のように言う。

だが、目は笑っていない。


「止まらない」


一言、落とす。

断言だった。


「止めたところで無駄だ」


それ以上の説明はない。 必要がないからだ。


レオニスは、わずかに視線を細める。

否定はしない。

すでに理解している。


「助かった」 


短く告げる。

それが礼だった。

だが――

男は首を横に振る。


「礼はいらない」


あっさりと切る。


「勝手に見ただけだ」


事実だけを置く。 

それで終わり。


レオニスは、それ以上踏み込まない。必要がない。


「……面白いものを見た」


ふと、男が言う。

視線が、わずかに逸れる。皇城の奥へ。

その先にいるものを思い浮かべるように。


レオニスは、何も言わない。

言葉にする必要がない。


「囲っているつもりはないんだろうが」


小さく笑う。


「結果は同じだ」


指摘だった。淡々とした。

レオニスは、否定しない。


「……それで」


短く促す。本題を求める声。

男は視線を戻す。

軽く息を吐く。


「取引をしよう」


迷いはない。最初から、それが目的だった。


レオニスの視線が、わずかに変わる。

興味。あるいは、評価。


「我が国との貿易において、優先権をいただきたい」


現実的な条件だった。

無理はない。


「有事の際には、相応の助力を約束する」


続ける。軽く言っているようで、その意味は重い。


それでも押しつける気はない。

ただ、置くだけ。


「それと――」

一瞬、間がある。


「機会があれば、あの女の知識を共有してもらえると助かる」


軽い言い方だった。

だが、狙いは明確だった。


レオニスの視線が、わずかに止まる。

ほんの一瞬。

だが、確かに反応した。

男は、それを見逃さない。


「無理にとは言わない」


あくまで余白を残す。

それ以上は踏み込まない。

レオニスは沈黙する。


考えているわけではない。すでに、選択は終わっている。


「……いいだろう」


短く返す。それで成立する。

男は、わずかに笑った。


「話が早いな」


満足とも、評価とも取れる声音。

それで終わりだった。


用件は済んだ。

それ以上はない。

男は一歩引く。


「では、この辺で」


軽く告げる。

踵を返しかけて――一拍、止まる。

空気が、わずかに変わる。


男は振り返る。

先ほどまでとは違う声音で、言葉を落とした。


「本日は、時間を頂いたことに感謝する」


わずかに頭を下げる。

形式として、十分な礼。


「ヴァルカ帝国皇帝陛下」 


呼び方も崩さない。

その一瞬だけ、完全に“王子”だった。


そして――口元に、わずかな笑みを浮かべる。


「――良い取引だった」


軽く言い残す。

それで終わり。


アシュレイ・ゼルヴァは、そのまま部屋を後にした。


扉が閉まる。静寂が戻る。

レオニスは、動かない。


ただ、視線だけがわずかに残る。

思考ではない。

確認でもない。

ただ――


「……面白い」


小さく、落とす。

それだけだった。

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