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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第九話 手の中のもの

室内は、静けさを取り戻していた。


先ほどまでの緊張も、気配も、すでに消えている。


だが――

完全に消えたわけではない。

残っている。

見えない形で。


レオニスは、動かない。

椅子に座ったまま、視線をわずかに落としている。


思考しているわけではない。

整理する必要がないからだ。


すでに、すべては決まっている。


「……戻したのですか」


控えていた者が、低く問う。

確認の言葉だった。


レオニスは答えない。

沈黙。

それだけで、十分だった。


戻した。

だが――

解放したわけではない。


「監視はつけておけ」


短く告げる。

それ以上の説明はない。

必要がないからだ。


「はい」


それで終わる。

ノエルは帰る。

だが、終わっていない。

むしろ――

ここからだ。


レオニスは、わずかに視線を上げる。

思考は、すでに別へ移っている。


「……セレスティナは」


ふと、口にする。

名を呼ぶ理由はない。

だが――

呼んでいた。


控えていた者が、すぐに答える。


「通常通りでございます」


短い報告。

それだけだった。


変化はない。

問題もない。

それで十分なはずだった。


だが――

レオニスは、わずかに沈黙する。


思考ではない。

引っかかりだった。

変わらない。

そのはずなのに。


「……そうか」


短く返す。

それで終わる。

それ以上は問わない。


必要がない。

理解できないものに、意味はない。

だが――


視線は、わずかに残る。

消えない。

理由は分からない。


ただ――

離れない。


「下がれ」


静かに告げる。

控えの者が退出する。


室内には、再び静けさが戻る。


レオニスは、動かない。

ただ、そこにいる。


それだけでいい。

それが正しい。

そのはずだった。

だが――


「……」


わずかに、目を細める。

思い出すのは、ひとつの光景。


揺れない視線。

乱れのない動き。

感情の見えない応答。


すべてが、異質だった。

理解できるものではない。

制御できるものでもない。

それでも――


「……目を離すな」


誰に向けた言葉でもない。

だが、確かに落ちる。


命令ではない。

確認でもない。

ただの事実だった。


レオニスは、再び視線を落とす。


思考は止まらない。

だが、それを追う必要はない。


すでに、手の中にある。

逃げることはない。


触れなくても、離れない。

それで十分だった。

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