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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第七話 選ばされる位置

空気は、変わっていなかった。


動いた者はいない。

音もない。

だが――


すべては、すでに終わっている。


ノエルは動かない。

動けないのではない。

動く意味がないと、理解しているからだ。


レオニスは、椅子に座ったまま、わずかにも姿勢を崩さない。

立ち上がる必要すらないとでも言うように。


視線だけが、まっすぐに向けられている。

逃がさないように。


だが、追い詰めるでもなく。

ただ、そこにいる。


それだけで、場は支配されていた。


「……どうするつもりだ」


ノエルが低く問う。

声は抑えられている。


だが、その奥には、確かな緊張が滲んでいた。

本来ならば、許されない言葉だった。

だが――


咎める声は、どこにもない。

レオニスは、すぐには答えない。


一拍の沈黙。

それだけで、十分だった。


「帰ることもできる」


静かに告げる。

ノエルの眉が、わずかに動く。

予想外だった。


「……何だと」


思わず、言葉が漏れる。

捕らえられると思っていた。


あるいは、力で抑え込まれると。

だが――違う。


「帰ることもできる」


レオニスは、繰り返す。

淡々と、感情はない。


「ただし」


その一言で、空気が止まる。

ノエルの視線が鋭くなる。


レオニスは、わずかに視線を下げた。

考える仕草ではない。

すでに決まっているものを、ただ言葉にするだけの動きだった。


「もう二度と、関わるな」


短く、告げる。

それで終わりだった。


選択肢は、二つ。

だが――


どちらを選ぶかなど、分かりきっている。

ノエルの呼吸が、わずかに乱れる。


一瞬だけ、沈黙が落ちる。

その間に、すべてがよぎる。


父の言葉。

ディオンの視線。

そして――今、目の前にいる男。


すべて理解している。

一歩踏み込めば、終わる。

家も、立場も、何もかも。

それでも――


「……断る」


低く、落とす。

迷いはなかった。


レオニスは、わずかに目を細める。


「そうだろうな」


短く返す。

最初から、分かっていた。

ノエルは、そういう人間だ。


選ばない。

選ばされても、従わない。

だからこそ――


「なら、もう遅い」


静かに告げる。

その言葉に、揺らぎはない。


すでに、終わっている。

選択の余地など、最初からなかったのだと。


ノエルは、何も言わない。

言えないのではない。

言う必要がないと、理解したからだ。


距離は、変わらない。

だが――

その間にあるものは、決定的に変わっていた。


逃げ場はない。

そして――

戻ることも、できない。

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