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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第五話 逃げ場のない距離

レオニスは、すでに知っていた。


足音が届く前から。

気配が近づくよりも前から。


来ると分かっていた。

それだけだった。


執務室は、いつもと変わらない静けさに満ちている。


整えられた机。

揺れない光。

乱れのない空間。

すべては、普段通り。

だが――


その中で、導線だけが変えられていた。


見えない位置に配置された兵。

閉じられた通路。

開かれたままの、限られた道。


進める場所は、最初から決まっている。


「入れ」


短く落とす。

命令は、それだけだった。


誰も動かない。

それで十分だった。


皇城の奥へ、ノエルは足を踏み入れていた。


迷いはない。

進むべき場所は、分かっている。

だが――


「……静かだな」


小さく呟く。


人の気配が、あまりにも薄い。

本来ならば、もっと警備があるはずだ。

巡回の足音も、視線も、どこかにあるはずなのに。


それが、ない。

不自然だった。

だが――


足は止まらない。

止める理由がない。


「……関係ない」


低く落とす。

そのまま進む。

進める。

阻まれない。


だからこそ、違和感が残る。


(……違う)


思考の奥で、何かが引っかかる。

だが、それでも――


止まらない。

進むしかない。

気づいた時には、遅い。

戻る意味はない。

別の道もない。


選択肢は、すでに消えていた。

扉の前で、足が止まる。


そこだけが、明確に用意された場所だった。


迷いなく、開ける。

室内は、静かだった。


そして――

そこにいた。

レオニス・ヴァルカ。


椅子に座ったまま、動かない。


視線だけが、まっすぐに向けられている。

逃がさないように。


最初から、そこにいたかのように。


「……来たか」


低く落ちる。

ノエルの空気が、わずかに張り詰める。


「……やはり、か」


短く返す。

理解した。

この状況の意味を。


「来ると思っていた」


レオニスは、淡々と言う。

それだけだった。

だが――

それで十分だった。


ノエルの視線が、鋭くなる。


「……読んでいたとでも言うつもりか」


低く問う。

レオニスは、わずかに目を細める。


「読んでいたわけではない」


静かに返す。


「お前は来る……」


「そういう顔をしていた」


空気が、わずかに揺れる。

ノエルの呼吸が、ほんのわずかに変わる。


否定できない。

あの時から、すでに決まっていた。


自分で選んだはずの行動が、最初から見えていたかのように。


「……それで」

低く落とす。


「どうするつもりだ」


レオニスは動かない。

視線だけが、そのまま向けられている。


「何もしない」

短く答える。


ノエルの眉が、わずかに寄る。


「……何だと」


「すでに、終わっている」


それだけだった。

言葉の意味を、理解するまでに一瞬かかる。


その間に、すべてが揃う。

位置。距離。状況。

逃げ場はない。


「……囲ったか」

低く呟く。


レオニスは答えない。

否定もしない。

それで、十分だった。


沈黙が落ちる。

だが、それは途切れたものではない。

確かに続いている時間。


ノエルは動かない。

動けないのではない。

動いても意味がないと、理解したからだ。


レオニスもまた、動かない。

ただ、そこにいる。

それだけで、場は支配されている。


距離は、詰まっている。

だが――

逃げ場はない。

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