第三話 届かない距離
皇城の外は、いつもと変わらない喧騒に満ちていた。
人の流れは絶えず、声も、音も、止まることはない。だが、その中にあっても、ノエルの意識は一箇所に固定されていた。
皇城。
その奥。
視線は向けていない。
だが、思考は離れない。
「……会えない」
小さく呟く。
それだけのことだった。
だが、その事実は、思った以上に重い。
呼び出しはない。
訪問の許可も降りない。
理由は明確だった。
「……囲ってるつもりか」
低く吐き出す。
理解している。
あの距離。
あの空気。
あれを見れば、誰でも分かる。
「……あれは」
言葉が途切れる。
胸の奥に沈んでいるものが、うまく形にならない。
焦り。
苛立ち。
そして――
「……渡す気はない」
はっきりと、言葉になる。
初めてだった。
それを、自分で認めたのは。
ノエルは視線を落とす。
拳が、わずかに強く握られている。
「……このままじゃ」
考えは、まとまっていない。
だが、結論だけは見えている。
「動くしかない」
静かに呟く。
決意だった。
理屈ではない。
正当性もない。
ただ、それしか選べない。
その時だった。
「やめておけ」
声が落ちる。
ノエルの動きが止まる。
振り向く。
そこにいたのは――
アシュレイだった。
壁にもたれかかるように立ち、腕を組んでいる。
視線は、まっすぐにノエルへ向けられていた。
「……何のつもりだ」
低く問う。
アシュレイは肩をすくめる。
「見ていれば分かる」
軽く言う。
だが、その目は笑っていない。
「顔に出ている」
ノエルの眉が寄る。
「関係ない」
短く切り捨てる。
アシュレイは一歩も動かない。
「関係あるさ」
静かに返す。
「それをやれば、終わる」
言葉は軽い。
だが、内容は重い。
ノエルの視線が鋭くなる。
「……止めるつもりか」
アシュレイは、わずかに目を細める。
「必要ならな」
即答だった。
迷いはない。
ノエルの空気が変わる。
張り詰める。
だが――
アシュレイは動じない。
「勘違いするな」
声を少し落とす。
「俺は、あれがどうなるか見たいだけだ」
本音だった。
歪みはない。
「だが」
「壊すのは違う」
はっきりと言い切る。
ノエルは、何も言わない。
言葉が出ない。
ただ、視線だけが動く。
アシュレイを見ている。
測るように。
「……邪魔をするな」
低く吐き出す。
アシュレイは、わずかに笑う。
「するさ」
軽く答える。
「その時はな」
それで終わりだった。
それ以上は言わない。
ノエルは、視線を外す。
思考が揺れる。
止めるべきか。
進むべきか。
――答えは出ている。
「……関係ない」
もう一度、呟く。
だがその言葉は、先ほどよりもわずかに重かった。
アシュレイは、それを見ていた。
何も言わない。
ただ、理解している。
止まらないことを。
そして――
止める必要があることを。




