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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第三章 囲い込み

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第二話 揃わない思考

部屋が変わっても、やることは同じだった。


決められた時間に起き、決められた順序で支度を整える。

無駄のない動線で動き、無駄のない判断を積み重ねる。


変わる理由はない。

――はずだった。


ほんの一瞬、手が止まる。


セレスティナは、そのまま視線を落とした。


整えられているはずの配置。

選び取るべきもの。


判断は、すでに終わっている。

それでも。


「……順序がずれていますね」


小さく呟く。


やるべきことは同じ。

だが、優先順位がわずかに揺らぐ。


先に行うべきか、後に回すべきか。

一瞬だけ、判断が重なる。


「非効率です」


即座に評価する。

修正は可能か。

――可能。


だが――

次の動作に移るまで、わずかに時間がかかる。


「……遅れていますね」


指先を見る。


問題はない。

精度も落ちていない。


それでも――

完全に一致しない。

以前の自分と。


「許容範囲です」


結論を出す。

問題はない。

そのはずだった。

だが――


次の動作でも、同じ現象が起きる。


わずかな遅れ。

ほんの一瞬の重なり。


思考と行動が、完全に重ならない。


「……原因は明確ですね」


今度は、少しだけ間を置いて呟く。


視線が、わずかに横へ流れる。


何もないはずの空間。


だが、そこに“存在”を感じる。


背後ではない。


この部屋そのものに、残っているような感覚。


「影響が残っています」


静かに言葉にする。

距離だけではない。


空間ごと、変えられている。


セレスティナは、ゆっくりと息を吐く。


思考を整える。

優先順位を再構築する。

不要な要素を切り捨てる。


「……問題ありません」


改めて結論を出す。


完全ではない。

だが、支障はない。


そう判断する。


そのまま、次の動作へ移る。


今度は止まらない。

遅れもない。


一致する。

元に戻る。

――はずだった。


ほんのわずかに。

また、ズレる。


「……継続していますね」


小さく呟く。

修正はできる。


だが、消えない。

完全には。


セレスティナは、それ以上考えない。


「問題ありません」


繰り返す。

確認するように。

誰にでもなく。


そのまま、手を動かし続ける。

整えられたはずの思考の中に、ほんのわずかなズレを残したまま。

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