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164/166

164 最初に帽子を置いた者

 この世界に最初に帽子を置いた存在。

 言われても、私は訳がわからなかった。うーんと、

「えっとそれって、この世界で帽子を発明した人ってこと?帽子って神様が発明したの?」

「違うよー。シホも知ってるでしょ、この世界の始まりのこと」

 何もない暗闇に帽子が置かれた。

 この世界の始まりはそう言われている。そのことはすぐに思い出した。が、それが何かというのがピンとこない。

 ホリィが平坦な声で言う。

「神々のうちの一柱、事始めの魂よ」

 事始めの魂。

「それって、この世界を作った神様ってこと?」

「作った、というか、始めた、というべきかな」

 ラヴィが面白くなさそうに言う。

「とりあえず、シホは羽衣を放して。邪魔はしない方がいい」

 私は羽衣を手放した。羽衣はしゅるしゅると丸まるように動き、黒い靄を完全に包んだ。

 そしてガリエス先輩がその場に倒れた。私は先輩に駆け寄る。魔素を操って先輩の体を浮かせようとするが、うまくいかない。何かが先輩の体をピンで刺したように地面に張り付けさせている。

 私は先輩を動かすまいとする力の気配を探った。魔力に似た気配が幾つかあった。

「王都から返事があった。すぐにレクスさんが来る」

 そう言いながら空から降りてきたファラーグ先輩に、私は言った。

「先輩、私が今から言うところを魔力で射てもらえませんか」

 力の大元を指さしながら私はファラーグ先輩に指示を出した。先輩も妙な力の存在には気付いたようで、私の指示はいらないと言いながら、魔力でガリエス先輩に纏わりつく力を打ち消していく。

 最後の一つが消えようというとき、突然ガリエス先輩が目を開け、私の首もとに手を伸ばすと、締め上げてきた。私はガリエス先輩の手をつかみ返すと、そこから魔素を操って電撃を流し込んだ。先輩は大きく痙攣すると、その手から力が抜けていった。

 同時に、ガリエス先輩を押さえつけていた力の最後のひとかけらも消えた。

「あとは、あれだけだね」

 ラヴィが言う。

 羽衣はまだ黒い靄をくるんだままだった。その大きさは段々と小さくなっていった。

「大丈夫そうだね」

 私が漏らした感想に、ラヴィはため息をつき、

「そうかなあ。事始めは前も詰めが甘くて逃したからねえ」

「前も?」

「そう。前も、あれがおかしな動きをしたときに、自ら出てきて消滅させようとしたんだけど、最後の最後で逃したんだよ。……ああ、やっぱり今回もか」

 私はラヴィに追加で訊こうとしたが、その私の耳に、声が聞こえた。ユゲリアのものだとわかった。

 何でお前ばかりが……。あのときあの場所に私がいたら、私が世界を始めていたのに……!

「やっぱり今回も詰めが甘いんじゃん。こんな声を外に漏らさせるなんてさー、自分でやりにくかったら、僕が最後の引導を渡してあげてもいいよ?」

 尻尾をひょいと上げながらラヴィが言う。それに対して羽衣は、ぎゅっと一気に縮まった。

 ユゲリアの声は聞こえなくなった。  

「とりあえずは、あれは消えたってことでいいのかしらね?」

 ホリィが言い、ラヴィが頷く。

「うん、それでいいと思うよ」

「じゃあ、羽衣は仕舞うわ」

 そうホリィが言うと、羽衣は一瞬ほどけたが、次の瞬間、私めがけて一直線に飛んできた。そして、そのまま私をくるんだ。


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