164 最初に帽子を置いた者
この世界に最初に帽子を置いた存在。
言われても、私は訳がわからなかった。うーんと、
「えっとそれって、この世界で帽子を発明した人ってこと?帽子って神様が発明したの?」
「違うよー。シホも知ってるでしょ、この世界の始まりのこと」
何もない暗闇に帽子が置かれた。
この世界の始まりはそう言われている。そのことはすぐに思い出した。が、それが何かというのがピンとこない。
ホリィが平坦な声で言う。
「神々のうちの一柱、事始めの魂よ」
事始めの魂。
「それって、この世界を作った神様ってこと?」
「作った、というか、始めた、というべきかな」
ラヴィが面白くなさそうに言う。
「とりあえず、シホは羽衣を放して。邪魔はしない方がいい」
私は羽衣を手放した。羽衣はしゅるしゅると丸まるように動き、黒い靄を完全に包んだ。
そしてガリエス先輩がその場に倒れた。私は先輩に駆け寄る。魔素を操って先輩の体を浮かせようとするが、うまくいかない。何かが先輩の体をピンで刺したように地面に張り付けさせている。
私は先輩を動かすまいとする力の気配を探った。魔力に似た気配が幾つかあった。
「王都から返事があった。すぐにレクスさんが来る」
そう言いながら空から降りてきたファラーグ先輩に、私は言った。
「先輩、私が今から言うところを魔力で射てもらえませんか」
力の大元を指さしながら私はファラーグ先輩に指示を出した。先輩も妙な力の存在には気付いたようで、私の指示はいらないと言いながら、魔力でガリエス先輩に纏わりつく力を打ち消していく。
最後の一つが消えようというとき、突然ガリエス先輩が目を開け、私の首もとに手を伸ばすと、締め上げてきた。私はガリエス先輩の手をつかみ返すと、そこから魔素を操って電撃を流し込んだ。先輩は大きく痙攣すると、その手から力が抜けていった。
同時に、ガリエス先輩を押さえつけていた力の最後のひとかけらも消えた。
「あとは、あれだけだね」
ラヴィが言う。
羽衣はまだ黒い靄をくるんだままだった。その大きさは段々と小さくなっていった。
「大丈夫そうだね」
私が漏らした感想に、ラヴィはため息をつき、
「そうかなあ。事始めは前も詰めが甘くて逃したからねえ」
「前も?」
「そう。前も、あれがおかしな動きをしたときに、自ら出てきて消滅させようとしたんだけど、最後の最後で逃したんだよ。……ああ、やっぱり今回もか」
私はラヴィに追加で訊こうとしたが、その私の耳に、声が聞こえた。ユゲリアのものだとわかった。
何でお前ばかりが……。あのときあの場所に私がいたら、私が世界を始めていたのに……!
「やっぱり今回も詰めが甘いんじゃん。こんな声を外に漏らさせるなんてさー、自分でやりにくかったら、僕が最後の引導を渡してあげてもいいよ?」
尻尾をひょいと上げながらラヴィが言う。それに対して羽衣は、ぎゅっと一気に縮まった。
ユゲリアの声は聞こえなくなった。
「とりあえずは、あれは消えたってことでいいのかしらね?」
ホリィが言い、ラヴィが頷く。
「うん、それでいいと思うよ」
「じゃあ、羽衣は仕舞うわ」
そうホリィが言うと、羽衣は一瞬ほどけたが、次の瞬間、私めがけて一直線に飛んできた。そして、そのまま私をくるんだ。




