143 登場人物が全員美形な件
「マリちゃんって、本当にガリエス先輩のお兄さんのことが大丈夫になったのね」
ジェニファが言うのに、マリちゃんが困ったような声で、
「大丈夫っていうか……。前ほど怖くはなくなったっていう感じかな」
「そっか。あのね、マリちゃんたちが怒るかなと思って言えなかったんだけど、実は、ガリエス先輩のお兄さんのレクスさんって、魔法科の女子に人気があるんだよ」
「どういうこと?」
「オリエンテーションのとき、ダリルム先生の魔法で攻撃者の姿をあの場にいた人は皆が見たのだけど、そのときに魔法科の女子であの人に夢中になる人が結構出て」
「は?」
マリちゃんは少し声が裏返っていた。ジェニファは慌てて、
「いやあのだって、見た目はものすごく素敵じゃない?だから、あの魔法使いは誰なんだろうって魔法科の中では話題になってて」
「攻撃されたのに?シホちゃんが一生懸命に戦ってたのに何なの?頭の中足りてないの?見た目が良ければそれでいいってわけ?」
「いやその、ええっと」
ジェニファはしどろもどろになっている。
でもそこでマリちゃんは冷静になって、
「でも、それだけみんなあの人の姿を見ていて、ガリエス家の人だってわからなかったの?」
「ああ、それは……。ガリエス家はもともと社交をやらない家で、しかも先代の奥方が亡くなる少し前からそういう場から遠ざかっていたから、ガリエス家の子息に会ったことがある人はほとんどいなくて。あ、でも、レイドール公爵令嬢はずっと昔に、レクス・テウル・ガリエスと会ったことがあるってきいたわ」
「え、そうなの?」
「うん。何代か前にレイドール公爵家とガリエス家にそれぞれ王女殿下が降嫁されて、二人が仲が良い姉妹だったことが縁で、ガリエス家はレイドール公爵家とは他の家よりも繋がりがあるんですって。そのときには兄弟全員が先代侯爵と一緒に公爵家を訪ねてきたそうよ」
「じゃあ、公爵令嬢は昔からガリエス先輩を知っていて、その頃から想いを寄せていたってこと?」
「どうなのかしらね。ちなみにそのときにはアンリウォルズ公爵家もレイドール公爵家を訪ねてきていて、ガリエス家とアンリウォルズ家とレイドール公爵家の子どもたちとで一緒に遊んだっていうことだったから、その場にはアンリウォルズ先輩も一緒にいたんじゃないかしら」
うーん、なんか登場人物全員が美形なんですけど。浮き世離れしてるなあ。
マリちゃんが考え込むような声で、
「レイドール公爵家は神々の煉獄の囚人について情報を持ってるって言っていたけど、それって本当のことなの?」
「ええ。最初に煉獄に収監された王子の母親がレイドール公爵家の人だったの。その関係で、自主的に始めたことときいているわ」
「そうなんだ……。あのね、ジェニファ、違っていても笑わないでほしいんだけど、タロスさんって、実はやんごとない人だったりする?」
「何でそんなことを?」
ジェニファの声がすっと冷静になった。マリちゃんは少し息を呑んで、
「ううん、ごめんなさい、変なことをきいて」
マリちゃんは引き下がり、ジェニファはもう寝ようか、と言った。
寝たふりをしながら、私は、何でそこで話をやめるのよ、と思った。そして、何でマリちゃんがそんなことを思ったのか、根拠をききたかった。
翌日、私とマリちゃんは朝食後に王宮を辞去した。
高原へ行くメンバーについて、決まったら知らせるということだったが、その次の週が終わっても知らせがなかった。
どうなっているのかなあと思いながら週明けに学院に行く。時折魔法科の生徒とすれ違ったときに、以前より向こうの視線が私に向いているような気がしたが、気にしないことにした。いつも一緒にいるマリちゃんの方が気にしていて申し訳なかったけれど、これはどうしようもない。
その日の放課後、いつものように魔法科の傍の練習場に行くと、ジェニファ以外に何故だかガリエス先輩とファラーグ先輩がいた。ファラーグ先輩はいつもと様子が変わらなかったが、ガリエス先輩は明らかに顔色が悪かった。
「どうかしたんですか?」
私が訊ねると、ファラーグ先輩が少し困ったように眉尻を下げながら、
「まあ、ちょっとフロリゼルがシホちゃんに話したいことがあるんだって。きいてやってくれないかな」
私がガリエス先輩に目を向けると、先輩は思い詰めた様子で言った。
「頼む、シホから兄上の高原行きを断ってくれないか」
何の話ですか、それは?




