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142 お泊まり会

 結局ジェニファにプレゼントを渡せたのは、パーティが終わって、その日泊まる部屋に案内されて、風呂に入ったりなんだりして寝支度を終え、私とマリちゃんが泊まる部屋にジェニファが一緒に泊まりに来たときだった。

 そう、その日は結局王宮に泊まることになったんだよねー。これはかなり誤算だった。てっきりジェニファの家に泊まると思っていたので、もし忘れ物をしてもすぐに家に取りに行けばいいか、くらいに考えていたのだ。当てが外れた。

 それはとにかくとして、私はジェニファに誕生日プレゼントを渡した。それは、お化け百合の花びらで作ったブローチだった。ラヴィの鱗の材料として取り寄せられたお化け百合の花びらのうち、結局足りたからと加工されなかったものをクラリィ婆ちゃんに頼んでひとかけらほどもらい、表面に千本杖の象徴とされる百合の花を彫り込んで作ったのだった。

「まあ、ちょっとした防具みたいなものね。敵に心臓を狙って魔素とか魔力を打ち出されたときに、心臓の位置にこれを着けていれば跳ね返してくれるわ」

「ありがとう。……なんか、シホちゃんらしいわね」

 ジェニファは何か可笑しそうに笑った。どういうことかと訊くと、

「だって、普通にアクセサリかと思ったら、実は実用的なんだもの」

「そう?高原ではこういうものを贈るのは普通だけど」

「まあ、高原ではそうなんでしょうね。……そうだ、さっきここに来る前に兄様と少し話せたのだけど、私は高原には行かせてもらえないらしいわ」

 ジェニファはすまなそうに私に言った。

「魔力の制御が甘いから駄目だって。資格がないって言われたわ。私だと世界の調節はできないって言われたわ」

「そりゃそうでしょ。ただ魔力を流せばいいってもんじゃないんだし」

 ホリィが呆れたように言う。

「あんたみたいなただでかい魔力の持ち主が役に立つのは、世界がいよいよ縮んでなりふり構わず空間の維持をしないといけないってときよ。まあそういうことが万が一起きたときのために温存されていると思ったらいいんじゃないの」

「そういうことになっては欲しくないんですけど」

 落ち込みながらも言うジェニファに、私は肩を竦めてみせる。

「まあ、行かない方がいいと思うよ。高原に行くっていうだけでも大変なのに、今回の目的地は神域なんだもの。かなり厄介よ」

「そうなの?」

「そうだよ。高原の民に挨拶して行くのならそんなに問題はないけど、今回は知られないように行けっていうことでしょ。少人数でものすごく迅速に通り過ぎないと無理だわ」

「もし見つかったらどうなるの?」

「んー、多分殺されたりはしないと思うけど。拘束されてそのまま高原を追い出されるとかかな。いや、その前に果たし合いになりそうかな?それで勝てば神域に行けるか」

「果たし合いって……」

「魔素術師同士ならよくあることだよ。ただ、もし王宮が魔法使いを送り込もうとしてるんだったら、高原の民の対応のときにはこっちに不利になるわ。魔法使いは魔法で人間を攻撃できないし。神使に監視者としてついてもらえれば話は別だけど」

 言いながらホリィをみたが、ホリィはあっさりと、

「今回、そんなのはつかないわよ。私もシュルもそういう役目をやれとは言われてないし。それに、監視者がついたところで、やってはいけないことをやっていいっていう風にねじ曲げるわけじゃないからね。駄目なものは駄目で、厳格にとりすぎだなのをお目こぼしする程度でしかないんだから」

 そっか。じゃあ、魔法使いを減らして魔素術師を連れて行くとか?でも、高原の民に勝てる魔素術師が高原以外の場所にどれほどいるかというと……。人形師のうち上師なら高原の民の基準でもかなり上位にランクされる程の魔素術の腕前だけど、戦闘向きかというと疑問だし。

 でも、魔法使いを連れて行くメリットはある。魔素術師では対応できない問題に対応できるのが魔法使いというものだ。

「高原の民との協力っていうのは無理なのかしら。事告げ様は、高原の民は今担っている使命をこなすのに精一杯だと言っていたけど、それを伝えておとなしく通してくれるように頼むとか」

「そんなことしたら逆に怒らせることになるよ。連中からすると自分たちの力不足をあてこすりみたいに言われたと感じるだろうから」

 ジェニファは小さくため息をついて、

「高原の民ってそういう人たちなのね……。高原に行くのに、シホちゃんは誰について来てほしいの?」

「まあ、ぶっちゃけて言うと、タロちゃんと私の二人で行くのが一番簡単だけど」

「待ってよ、シホちゃん。魔法で人間を直接攻撃することはできないけど、魔法を使うことで周りの環境を変えることはできるんだから、魔法使いを連れていくことには意味があると思うよ。それに、神域で世界の調律をするときには魔力の使い手が必要なんだから、誰かは連れていかないと」

 そうよ、とホリィも言う。

「あんたが羽衣を使って、タロスも神衣を着て、それで魔法を使ったとして、それで足りるかどうかは微妙ね。あんたたちは効率的に世界の調節をできるでしょうけど、あと一人は強力な魔法使いを連れていった方が確実だわ」

「だったら、クロウかなあ。魔素術も使えるし」

「強力なのがいるって言ったでしょ。魔法の使い手としてはあの子はちょっと足りないわ」

「うーん……。ジェニファは駄目なんでしょ。魔力量だけだったらあとはアンリウォルズ先輩か。それ以外だと第三王女殿下?でも、無理だよねえ……」

「母様については訊いてみないとわからないけど、でも多分無理なんじゃないかな。高原の神域で世界の調節をするときにはレオナルドの装置の調整も同時にして釣り合いを保てるようにしないといけないらしいから、母様はこの前のときと同じように王宮の装置につくことになるんじゃないかしら」

 マリちゃんが訊いてくる。

「あの、神々の煉獄に囚われていた人たちが今回の世界の調節のために解放されるんでしょう?それって、ガリエス先輩のお兄さんも解放されるってことよね……?」

「まあ、そういうことになるわね」

「だったら、煉獄から解放されたガリエス先輩のお兄さんの力を借りられるっていうことなんじゃないの?」

 マリちゃんの言葉に、ジェニファが心配そうに私を見た。

 マリちゃんは私を静かに見つめながら言う。

「あのね、私、あのとき怖い思いをしたけど、ガリエス先輩のお兄さんが家の中でどういう状況にあったのか治癒術師局できいて、あの人も気の毒だったなって思うようになってきたの。だから、前ほどあの人の話をきいても震えたりしないっていうか。あのときに直接対決したシホちゃんはそういう気持ちにはなれないかもしれないけど、シホちゃん自身が助かるために、あの人の力を借りる方がいいと思うの。とても力のある魔法使いなんでしょう」

 ジェニファも考え込みながら、

「シホちゃんがガリエス先輩のお兄さんのことを嫌がる気持ちはわかるけど、受け入れた方がいいんじゃないかなって私は思っているの。魔法で人間を攻撃して神々の煉獄に収められた人たちは、最初に収監された王子みたいにうっかりでやってしまったとか、ガリエス先輩のお兄さんみたいに錯乱して、っていう人ばかりではなくて、悪意を以て攻撃をした人たちもいるの。人間性に問題があるというか……。そういう人たちに対処する必要があるから、レイドール公爵は人を出すって言ってくれてたんだと思うけど」

 つまり、煉獄に収監されていた貴族には結構な高確率でやばい連中が含まれているということだ。でも、

「心配ないよ。そんなことにはならないと思うから」

「シホちゃん、もっと深刻になってよ」

「あのね、煉獄の中で受ける試練のことを事告げ様が言ってたでしょ。あれはそういう人間を更正させるためにあるのよ。試練をくぐり抜けて出てきたら、人間性が変わってるわよ」

「変わってなかったら?」

「試練を乗り越えることができなかったってことで、無事にこの世界に復帰できない。つまり、ジェニファが心配するようなやばい人は生きて煉獄から出ることはできないってことよ」

「何でそんな自信たっぷりで言えるのよ」

「だって高原の民には常識だから」

「そんな常識、知らないわよ」

 ジェニファが呆れたように言う傍で、マリちゃんが心なしか暗い表情になっているように見えて、私は声を掛けた。

「マリちゃん、どうかした?」

「ううん。私もついていけたらと思って。でも、無理かなって」

「気持ちはありがたいけど、断固として断る、って感じだね。マリちゃんみたいな子が高原に行って氏族の連中に見つかったら、狙われて戻ってこれないよ」

「殺されるってこと?」

「違う。氏族の誰かに嫁がせるためにとどめ置かれるってこと。マリちゃんの意思なんて関係なく無理矢理ね。あそこの連中は新しい血を入れることも欲しているから。マリちゃんみたいに優秀な癒しの力を持っていたらなおのこと、一族に取り込んで子どもを産ませる!ってなるよ」

「それって、女性の魔法使いを派遣しても同じことになるってこと?」

 心配そうにジェニファが訊いてくるが、

「それは大丈夫。少なくとも嫁にはしようとしないわ。貴族との間に子どもができることはまずないと彼らは知っているから。彼らにとっては子どもを作れるかどうかが最優先なの。子どもを作れないとなったら、その女性がどんなに美人でも意味を為さないのよ」

 それに、高原は資源が限られているので、余分な人員を囲い込むことはできないのだ。よって外から来た子を産むこともない女性を愛人とすることもできない。もしそんなことをしたら氏族全体から白眼視され、次に追い出される家の候補の筆頭となってしまう。

「その……捕らえた人を奴隷にするとかは?」

「それもない」

 と私は断言した。 

「なんか、平地ではそういう噂が出回ってたりするけど、そういうのはないんだよ。奴隷を沢山持ったって、そんなにやらせる仕事ないし。奴隷を食べさせる方が無駄っていうか」

「そうなんだ……」

「そう。だから、連中には、一族として取り込むか、そうでなければ捕らえて高原の外に追い出すか殺すかっていう選択肢しかないの」

 まあ、殺す前に捕らえた人間をいたぶって遊ぶ、ということはあるけど。それはここでは伝えまい。

「うーん……今きいた話だと、シホちゃんとタロスの二人で行くのが最適ってことになるかもしれないけど……。でもそれって、二人が高原の民に見つからないっていうことを前提にしているよね?」

「そうだね。もし見つかったら撤退するしかないけど、私たち二人なら逃げきれると思うよ」

「でもそれじゃ、神域には行けないでしょう?やっぱり他にも助けが必要よねえ……」

「おじさまは?」

 マリちゃんが言う。

「シホちゃんのお父さん。駄目かしら」

「駄目じゃないけど、父さんは高原氏族相手だとやりづらいと思うよ」

「それは、やっぱり出身の一族だから?」

「まあそれもあるけど」

「じゃあ、クラリィ師も駄目ってこと?」

 ジェニファが困ったように言う。

「いや、婆ちゃんは大丈夫。あの人は揺るがないから。……ていうか、何でジェニファがそこまで一生懸命になって考えてるの」

「実は兄様から宿題を出されてて。シホちゃんとタロスに誰を同行させたらいいか考えてきなさい、って」

「それってそのまま採用されるの?」

「多分されないと思う。でも、いざというときのための考える訓練っていうか」

 そうか、この子は王位継承権を得たんだった。ということは、将来王様になる可能性があるっていうこと。だったらいろいろ考えるようにならないと……。いや、何でヨハンがそんな問題をジェニファに出してるの。ヨハンも同じ立場じゃないの。

 もしかして、次の国王ってヨハンになるのかしら。でも、今の国王の娘たちも王位継承権は持っている。第二王女は降嫁したときに放棄したけれど、そのほかの王女たちは持ったままだ。

 あと、ハーヴェロイ王子。あの顔だけ王子も王位継承権を持っているよね。でも、あれは無理か。誰もついてこないよねえ。

 あれ、継承権って順位があるんじゃないの。どうなってるんだろう。国王の子どもたちの方が上位だよね、きっと。それで年齢順っていうことなら第一王女が次の王様ってことになるけど、そんな話はきかない。この国の王位継承権ってどういう仕組みになっているんだろう。

 そんなことを考えているうちに私はうとうとしていたらしい。気がついたときには、私抜きでマリちゃんとジェニファとが小声で話しているのがきこえた。

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