123 チートかもしれない攻略法
翌朝、朝食を食べてしばらくして、私は昨日と同じメンバー、同じ方法で結界に行った。
ただ、現地にたどり着いてみると、昨日とは違う面子がいた。
「遅かったな。この私を待たせるとはいい度胸だ」
偉そうに言うのはハーヴェロイ王子。そしてそれ以外にいたのは。
「ルートヴィヒ?」
何故だかルートヴィヒがいた。
私は馬車を降りるとまっすぐにルートヴィヒのところまで歩いていった。
ルートヴィヒはいつものように微笑を浮かべている。
「おはようございます、シホさん」
「おはようございます。何でここに?ラヴィの修理の準備は?」
「できていますよ。今日はラヴィに頼まれて、フロリゼルの目付役として来ました」
小さいラヴィがフロリゼルの背中の後ろからそっと顔をのぞかせた。
「やっほー、シホ」
「おはよう、ラヴィ。目付役ってどういうこと?」
「だってさー、ひどいんだよ、フロリゼルって。僕の連絡係の筈なのに、昨日全然相手してくれなくって。ルートヴィヒに頼んで様子を見に行ってもらったら、考え事とか話し合いとかしてて僕が話しかけたのに気づかなかったんだって。そんなことで大事な役目を忘れるなんてあり得ないから、ルートヴィヒに頼んでフロリゼルを叱ってもらう役をしてもらうことにしたの」
「叱るつもりはないんですが。まあ、いろいろ話をきいて心配になったので、ラヴィからの依頼を受けることにしたんです。クラリィには、ラヴィの修復がいつ始まるかわからないのに、ふらふらしているんじゃないと小言をもらいましたが」
「ラヴィが直接ここにいるんだったら、別にそんな役目を頼まなくてもいいんじゃ……?」
「違うよ、ルートヴィヒに怒ってもらうのが意味があるんだよ!フロリゼルは僕が言っただけじゃきかないもん。一番効果があるのはフロリゼルのお兄さんだろうから、本当はお兄さんに頼みたかったんだけど」
「シャールは昨日からいろいろな対応で疲れているだろうからそれはやめるようにと私が言ったんですよ」
ルートヴィヒは言いながら、少し離れたところでタロちゃんや王子と話をしている隊長を見た。隊長はこちらの視線に気づくと、歩いてやってきた。
「おじうえ、おはようございます。どうして今日はここへ?」
ルートヴィヒは先ほど私にしたのと同じ説明をした。
隊長は少し困った様子で、
「申し訳ありません、おじうえの手を煩わせて」
「構いませんよ。私もストームのことは気に掛かっていたので、近くで見られるのは良かった」
二人の会話が平和な感じで落ち着こうというときに、あの顔だけ王子が
私に向かって大声を上げた。
「おい、アリス・ゼン!今日はお前が作戦を提案するのだろう。そんなところでお喋りをしていてどうする」
王子の方を見ると、傍に立っていたタロちゃんが頷いてみせた。うん、まあそうだよね、行かないとね。
「あ、はーい。今行きます」
言って、私はタロちゃんの傍に行った。その前には魔術師団員たちもいる。
「えっと、もしかしなくても、私の説明を待ってる?」
「だからそう言っただろう!」
と苛ついた様子で王子が言う。タロちゃんがまた頷いてみせたので、私は話し始めた。
「えっとですね、今日はこちらもここから結界を張ってあの中に入っていきます。皆さんにはあの中に突入するときに、昨日みたいに結界に穴を開けてほしいんですけれど、昨日よりも少し大きく開けてください」
「お前が結界を張れるのか?」
王子が疑わしげに訊いてくる。
「天術っていう、魔素術の上級版の中に、天球っていう術があるんです。それの中をここにいるシュルの力で世界の環境をそのまま再現すれば、結界の中に入った後も天球の中にこちらの空間の環境を維持したまま持ち込めると思うんですよね」
「それは確信があっての提案ではないということか」
苛ついた様子で王子が言う。が、私の頭上からホリィが言った。
「実際にやってみたことはないっていうだけよ。術の原理からすると可能なのは間違いないわ」
ここでタロちゃんが訊ねてくる。
「それはわかるが、術の持続時間は大丈夫なのか。それだと消費がひどそうだが」
「威力は凄いけど、魔素術の一種でしかないもの。それこそ何時間でも大丈夫。シュルだって大丈夫だよね?」
「もちろん!」
私の肩の上でシュルが明るく言う。
ガリエス先輩が、
「天球という術は、狭い場所でも使えるのか?」
「大丈夫ですよ。魔素は物質を透過させることも可能ですから」
「でも、その術を使っている最中に攻撃をされたらどうするんだ。地下室に入っていったときに例の人形のかけらに出くわしたら」
「それも大丈夫です。天球はよろしくない存在に対する防御のためのものですから。例の人形のかけらだって、すり抜けてはこれません」
「もし入り込んできたって、天球の中はこちらのルールに属する空間だもの、あのクソ人形のかけらを魔法で攻撃したって神々の煉獄が起動するようなバグは起きないわ」
ホリィが得々と言った。
それをきいていたガリエス先輩が、
「だったら、俺を連れていってくれないか」
「何を馬鹿なことを!」
常識的な反応をすぐに返したのはハーヴェロイ王子だった。が、それに続いた言葉は常識的ではなかった。
「お前の同行が許されるくらいなら、俺が行く」
「待ってください、王子。貴方はここでやることがあるでしょう」
宥めるようにアンリウォルズ先輩が言う。
「フロリゼルも、突拍子もないことを言うんじゃない」
「でも、魔法を使って良いのなら、俺は戦力になれます。それに、地下室で父上に会うことがあったら、俺が一緒にいた方がいい筈だ。執事の治療の様子からしても、兄上もそう思うでしょう」
隊長は唸るような声を上げるだけで、否定はしない。私は訊ねた。
「執事さんに何かあったんですか」
「いや、昨日助け出した執事は容態が安定したんで、治癒術師たちにお願いしてきたんだが、やっぱり錯乱を解くのに、顔見知りの俺がいた方が明らかに様子が良くてな」
「だとしても、連れて行くのが得策かどうかは……どうかな」
タロちゃんも考え込んでいる。
「シホの天球が安定していればいいが、何かの拍子に術が解けたときに助けないといけない人間が二人になると俺の手に余る」
安定してるわよ、と言い返そうとして、それだとガリエス先輩を同行させる方向に話が進んでしまうことに気づき、口を閉じた。
ガリエス先輩の方はそんな私の様子など気づかず、
「大丈夫。何かがあってシホの術が消えても、魔力を身に纏って自分を守ることはできる」
タロちゃんはアンリウォルズ先輩を見た。アンリウォルズ先輩は隊長さんを見る。隊長さんは苦しそうな表情をしながら、
「魔法の使い手が同行を許されるのなら、俺が行こうと思っていたんだ。お前が行っても、父上はお前だとわからないかもしれないだろう。父上に最後に会ったときからかなり大きくなったからな」
「でも兄上、兄上に何かあってはガリエス家は困ります。それよりは俺が」
「そういう考え方だとますます同行を許せない」
隊長さんは静かにガリエス先輩を睨んだ。うん、そうだね、自分はどうなってもいいから、なんていう人間を連れていくのは私も嫌だなあ。何かの拍子に捨て身になられても困るし。
と、ルートヴィヒが言った。
「そう無碍にするものでもないと思いますよ」
「おじうえ、まさかフロリゼルの同行を認めるべきだと?」
「レオナルドの装置がどうなっているかはわかりませんが、元は魔力で動くものです。イースの状態がどうなっているかはわかりませんが、もしイースを引き剥がした時に魔力が必要な状況があれば、魔法の使い手が行っていた方がいいでしょう」
「それなら私が行く」
王子がまた言ったが、ルートヴィヒはやんわりとほほえみながら、
「王子には外でやっていただくことがあるのでしょう。それに、どういう状況になるかわからないので、魔力の調節に長けた者が良いです。それと、いくらフロリゼルが大きくなったといっても、子どもの頃の面影はあるでしょう。それに、フロリゼルは母親似ときいていますし、フロリゼルの顔を見たらイースも我に返るかもしれない。……そうであったらいいなという私の希望がかなり入っていますが」
しみじみとルートヴィヒが言ったときには、ガリエス先輩の同行を拒むというのはできないような雰囲気になっていた。
私には決定権はないんだけどな、と思いながら、
「いいですよ、もう。ガリエス先輩は自分の面倒は自分で見てくださいね。アンリウォルズ先輩もそれでいいですね?」
「ああ。フロリゼル、気をつけて。アリス・ゼン、よろしく頼む」
アンリウォルズ先輩が言う傍で、ガリエス隊長が深々と頭を下げてきた。
そうして私たちは結界の中に入っていった。
やり方は、基本的には昨日と同じ。ストームにある結界に穴を開けて、そこから入る。但し、私が天球を使いながらそこから入っていくので、かなり大きめの、小さな家一軒が入るくらいの穴を開けてもらわないといけない。
正直なところ、そんな穴を開けられるのかなと思っていたけど、ここで顔だけ王子の魔力が役に立った。十分な大きさの穴が開き、私は羽衣の補助を得ながら天球を自分とタロちゃん、ガリエス先輩の三人が十分入るくらいの広さまで展開し、そうして歩いて結界の中に入っていった。




