120 ユゲリアの罠
宙に数知れず浮かんでいる細かなかけらがユゲリアのものだというのは、パーツの一つ一つを見ていけばわかった。
「これって……ユゲリアは死んだってこと?」
私が呟くと、ホリィが鼻を鳴らした。
「そんなわけないでしょ。今までに壊れた体の一部をここに撒いたってこだけよ」
「それって何の意味があるの?」
「罠、でしょうよ」
嫌そうにホリィが言う。ヴィーナも、
「そうですわね。シホ、あなた、魔法をこれに当てては駄目よ。攻撃するならタロスのように物理攻撃にするか、魔素術にしなさい。でないと、神々の煉獄に捕まる可能性がありますわ」
「どういうこと……?」
「オリエンテーションのとき、事告げ様が宿っていた人形の手に敵の魔法をぶつけさせたら人間を攻撃したのと同じ判定が下ったでしょう。それと同じよ」
ホリィが不機嫌そうな調子で言う。
私は小首を傾げた。
「何でユゲリアの残骸で同じ事が起きるわけ?」
「ここがあれの作用によって生じた空間だからですわ」
ヴィーナが静かに言う。
「とはいえ、この空間は外と断絶しているので、ユゲリアの残骸に魔法が当たったからといって神々の煉獄が動き出すかはわかりませんけど」
「んー、じゃあこのかけらを無視して行くのが一番なのかなあ?」
「それができればそうしてる」
タロちゃんが憮然した様子で言う。
「え、何で?無視できないの?」
「お前、一度やってみろ」
タロちゃんがよけて私が前に行けるようにしたので、前に出て歩いてみた。するとユゲリアのかけらが私の髪や耳元にまとわりつくように近づいてきて、小さな声でケタケタと笑い声を上げだした。
「あら、嫌だ。高原の小娘がこんなところにいるわよ」
「使命とかいってあんなところでしがみつくように暮らしてるけど、何もできてない役立たずよねえ」
「魔力を使えない役立たずね」
「世界を維持することもできないのにね」
「魔素術なんて高めても、ねえ?」
「そうよね。こんなところに来てもどうせ何もできないわよ」
「身の程知らずよねえ」
「世界との繋がりが切れてるからって、私たちが何もできないと思っているのかしら」
「嫌ねえ、何もわかってないわ」
私は黙って魔素を羽衣に纏わせ、それを周囲の空間に振るった。羽衣が触れるなり、ユゲリアのかけらは次々爆発していった。
「何か鬱陶しいわね」
私の感想に、タロちゃんは頷いた。
「今はちょっと踏み込んだだけだからああいうお喋りだけで済んだが、もっと進もうとしたらあれらが顔とか手足にも張り付いてきて、肌に傷をつけてくる。それ以上のことはしてこないが、それでも十分に鬱陶しい」
「そんなんだったら、排除するしかないでしょ」
私は羽衣を辺りに振るい続けた。ユゲリアのかけらはそのときには消えてもまたどこかから現れ、私たちの行く手を阻む。あー、本当にきりがない。
私は羽衣を振るい続ける。だんだんと目が霞む。あー、これはまずいかも?と思ったときには視界が斜めになってきた。
「シホ!」
シュルの叫び声がきこえた。叫び声、というか悲鳴?
そのとき、瞬間的に背筋が冷え、自分が冷たい何かに落ち込んでいっているのに気がついた。息ができない。でも、苦しくない。
目の前は完全な闇で、でも青みがかっていて、それは小さい頃にさんざん見た世界の境と同じだった。




