軍議(仮)
タイトルは変えるかもしれません。
全ての部隊が戻ってくるとすぐ作戦会議が開かれた。
項羽の天幕に范増を始め黥布や鐘離眜他、各将が集まって来る。
将達は皆一様に引き締まった表情をしており、今まさに戦場を駆け巡り命のやりとりをして来た男の顔をしている。
韓信にはそれがとてもまぶしくそして羨ましいと感じるのだった。
運良くというか、たまたまというか郎中の当番で天幕の中におり、直立不動の姿勢で戟を持ったまま軍議を待っていた。
鐘離眜は天幕に入ってくる時に韓信と目が合ったが、目でうなずいただけだった。
范増には知らん振りされた。
黥布が早速、項羽離脱後の戦いをおおまかに説明している。
韓信は聞きながら意識が段々と思考の中に沈んでいくのを感じた。
結論から言えば、今日は章邯に軍配が挙がるだろう。
本当に元文官で戦は素人だったのか?と疑問に思う。
敵将ながら、天性の戦上手と言うのはああいう男の事なんだろうなと認めざるをえない。
…
……
今日は思わぬ方法で兵力を分散された……。
相手に時間稼ぎが可能な場合、兵糧が少ないのは逆に不利というわけだ。
俺が秦でもそうするか。
もっと言うと陣地を引き払って全速力で逃げても良いわけだ。
しかしこの場合、趙の包囲を解く事になるから、本末転倒のような気もするが、楚以外の援軍は様子見に徹し決して戦おうとはしないし、秦が逃げても追撃する部隊は……
ある!趙か!
趙が城門を開け楚と挟み撃ちに来るな。
そうなると逃げる手は使えないか……
逃げる方向を考えればあるいは……いや、南から楚、東に趙、北方を諸侯の援軍で遠巻きに囲まれている。
西に真っ直ぐ進めば黄河にぶち当たる。
そもそも項羽を離脱させてしまったのは痛かった。
だが、疾風の如く項羽は先陣を誰よりも先に駆ける。
帷幄にある范増では止める事は叶わぬだろう。
老体に最前線に出よというのは無理な話しであるし、項羽にせめて中衛に下がれと言っても聞かぬであろうし、その連携が上手く噛み合えば今日の項羽の離脱は防げたであろうが。
そこまで考えて韓信は身体の底からうずうずした震えが駆け上がってくるのを感じるのだった。
現在の状況は兎も角、絶対に自分も指揮を取る時が来るのだ!
そう信じて韓信はその時の為に少しでも経験を積もうと前向きに考える。
参考にすべき点はいくらでもある。
何せここは実際の戦場なのだ。
戦において一体何が勝敗を分けるのか?
俺はそれを突き止めねばならない。
兵の多寡か、錬度か、士気の高さか、規律の高さ、武器の質、指揮官の優劣、戦場での流れもあろう。
策、用兵の巧さ……
戦を指揮する者は勝つために、勝つ可能性を少しでも引き上げるためにあらゆる事を敵将より考えねばならない。
ひとまず韓信はそう結論づけると目の前の軍議がどうなったのか、気になった。
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同じ頃、秦軍でもやはり軍議が開かれていた。
初日はほぼ章邯の思惑通り進んだが、諸将の表情には油断や驕りなどは全く見受けられない。
「項羽の武は群を抜いており、特筆すべきものがございます」
「他にも黥布、鐘離眜などの手錬が副将としており、層が厚うございます」
「彼らと実際に手を合わせてみてどうであった?」
そう問われ将達はみなうつむいてしまう。
その表情が結果を雄弁に物語っているのだった。
「ふふふ、何とも羨ましい限りじゃの。
個々の武でも歯が立たんか。
だが案ずるな。
我らは元より武官でも将でもなかったのだ。
兵達もみな罪人と労役に駆り出されていた者ばかり。
不利は承知の上、いかに手を変え、品を変え戦うか、よ」
「ははっ」
将達は章邯の話を聞き、少し気が軽くなるのだった。
「それでこの後の策なのだが……」
再び楚軍では、
范増が前に出て語りだす。
「各々方、第一日目はご苦労でありました。
別働隊を一掃された項将軍、留守を務められた黥布隊の奮闘は素晴らしかった。
惜しくもあと少しで秦軍正面を突破できそうでしたがな。
さて、我ら楚はご承知の通り兵糧を捨て、船を壊し、退路を断ってこの決戦に挑んでおりまする。
秦はその事を既に承知で時間稼ぎに出ております。
今日は図らずも秦に翻弄された形になり申したが、これより先は思う通りにはさせませぬ。
楚としては相手に逃げてもらっては困るのです。
がっぷり四つでこちらと組んで戦ってももらわねば、退路を断った意味がない。
それでその為の策ですが……」
戦には虚々実々の駆け引きがあり、読み合い騙し合いが古来より何度も繰り返し繰り返し行なわれてきた。
それらが戦記や物語に緊迫感や華を添えるのだ。
秦と楚、両陣営の読み合いの中、図らずも作戦は同じ結論に達していた。
それは
「夜襲だ!」
「夜襲ですな」




