項羽慟哭
項梁の敗北と戦死はすぐさま楚の別働隊に届けられた。
別働隊は秦の副将たちを追っていた項羽、劉邦、黥布である。
「なんだと!叔父上が亡くなられだと!?」
その報に接した項羽は初め信じようとしなかった。
だが、何度も同じ報告が来て、ついに間違いないと確認された時にへなへなと腰から崩れ落ちてしまった。
諸将がいる前だが、最早項羽にはそんな余裕などない。
「叔父上……、叔父上……。
俺は……父の顔は知らん……、俺に取って父とは叔父上であり、兄であり、全てを教えてもらった師でもあった……。
お、おおお……!!
ぐおおぉ!!
叔父上!叔父上!
羽を一人にしないで下さいませ!!
羽は、羽はこれからどのように生きていけばよろしいのですか?
叔父上ぇえ!!!!」
項羽は何度も何度も拳を地に叩きつけ、絶叫し、おんおんと幼子のように泣き喚いた。
韓信は郎中という項羽の警護なので比較的近くにいるが、この様な項羽を見て驚くと共に、戦場での鬼神の如き恐ろしさと、目の前の幼子のような項羽とがとても同じ人物のように思えなかった。
項羽は自分の能力、力に絶大な自信があり、傍若無人のように振舞っていたが、叔父の項梁には素直に従っていた。
韓信は項羽と云う武将がそこまで項梁に依存していたとは思っていなかったのだ。
だが目の前の項羽を見てその認識を改める必要があるな、と韓信は冷静に受け止めるのだった。
范増が場をまとめる為に口を開く。
「将軍、今は思い切り泣きなされ。
楚が滅んで二十余年、羽将軍は全ての時を武信君と共にあったのだ……。
諸将よ、我が軍の総大将である武信君の喪に服すために、今日は軍を留め置く。
これで今日の軍議は解散じゃ」
「「はっ!」」
韓信は会議が解散になったからといって、警護役は側を離れる訳にはいかない。
直立不動のまま、その場にいたが
「……おい。
今日はもういい、一人にさせてくれ……」
項羽は涙を隠す事も拭く事もせず、韓信や他の警護役の方すら見ずにそう言った。
韓信は無言で頭を下げると、幕舎を出て行った。
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沛公である劉邦は司馬欣を追っていたが、中々捉える事が出来なかった。
司馬欣の逃げ方が上手いのか?
劉邦の追いかけ方が下手くそなのか?
そうこうしているうちに、項梁が率いる本隊がほぼ全滅し、項梁自身か戦死したと情報が届けられた。
劉邦は激しく驚き、
「まさか武信君が討たれるなどとは……」
そして、こういう時にこそ側にいて欲しい張良が不在である。
劉邦は自身の能力が大した事がない事を良く分かっている。
元々、学はないのだ。
戦も負ける事の方が多いし、武に秀でているわけでもない。
気付いたら、何故か今の沛公という地位に祭りあげられていた、という方が正直な感想だろう。
劉邦は自分で判断をする事がほとんどない。
周りがこうした方がいい、と勧めてくれ、後は了解するだけである。
何故、その勧めてくれた方の選択肢がいいのかはよく理解できてない。
だが、それこそが劉邦の最大の長所であった。
自分で判断出来ないから、周りが力を貸してくれるのである。
そして、今回の武信君項梁が討ち取られて、本隊が全滅した場合、沛公としてどうすれば良いか分からない。
張良か、蕭何がいれば言う事を聴いていればいいので、安心していられる。
だが、今は二人とも不在であった。
分からないからといって何もしない訳には状況が許してくれない事はさすがの劉邦も分かっていた。
「曹参を呼べ」
蕭何がもし、張良も自分もいない場合は曹参に聞け、と劉邦に言い含めていたのである。
曹参が呼ばれ劉邦の前に進み出た。
「曹参、伝令が来て武信君と本隊が全滅したらしい
俺達はこれからどうすればいい?」
「撤退ですな」
曹参は素っ気なく言う。
「俺達は武信君の命で秦の副将司馬欣を追っていたが、まだ倒せていない」
「総大将が討たれたからには戦になりませぬ。
ここは早急に項羽軍、黥布軍と合流して本拠地の彭城へ引くが第一かと」
「そうか、では曹参、徹底の指揮を取ってくれ」
「わかりました」
「おしっ!彭城へ帰るぞっ!!」
劉邦の良い所は一旦決めたら、すぐ行動に移す所である。
司馬欣の部隊がどう動くか気にはなったが、それよりも撤退が優先だと、とっとと撤退を開始してしまった。
今回は短くて申し訳ないです。
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