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楚軍勢いに乗る

章邯を大将とする秦軍は先程の戦闘で、項羽たった一人に散々蹴散らされた結果となった。


これで楚軍が陳勝軍の様な烏合の衆ではない事が証明された。


秦陣地に引き上げてきた司馬欣しばきん董翳とうえいを交えて章邯は今後の方策を練る。



「楚軍は想像以上に厄介な事が分かった。

特にあの項羽とかいう若武者、奴一人で一軍の相手が出来るであろう。」


「情けない話ですが、あのまま続けていたら命はないものでした。窮地を救って頂き感謝します。」


司馬欣、董翳は揃って章邯に頭を下げる。


「よい、勝敗は兵家の常。それよりもこれからの策だが……。」


章邯は諸将に人差し指でくいくいと「耳を貸せ」と言う。


会議に参加している将は内密の話だと察知し、章邯に頭を寄せる。


そして章邯の考えた作戦に一同難しい顔をする。


「よし、解散だ!部隊長までは指示をしておく様に。末端の兵卒にはよい。」


「はっ!」


命を受けた秦軍は慌ただしく準備を始めるのであった。


















一方、楚軍では項羽が先程の戦闘は暴れたりなかったのか、引きあげてから鍛錬と称して身体が大きく、丈夫そうな兵士を複数名選び、隊を組まされ項羽との相手をさせられていた。


韓信は項羽付きの郎中(警護兵)なので、基本項羽の近くにいなければならない。


韓信は幾度か項羽の闘い振りを見ているが、戦に神がいるとしたらここまで戦神に愛されている武将はいないだろうと思う程の能力であった。


はっきり言って反則であると神に文句をつけたくなる存在…。


韓信はもし、項羽と闘うとしたらどう闘うのか?

その思考をする


戦闘力そのものに関して言えば、間違いなく中華一であろう。


作戦立案能力はどうか?


今のところ項羽自身で策を立てた事はない。


だが、この武信君率いる楚軍には范増はんぞう老人がいる。


韓信はさきほどの戦闘の序盤に秦軍が自分の陣地付近に何やら仕掛けをしているのが見えたが、それが何かまではわからなかった。


范増は偵察を出したようだったが、それにしては項梁に進言するのが早すぎる。


おそらく、偵察を出したが帰ってくる前にある程度秦軍の企みを予測して、項梁に進言した事になる。


恐るべきは限られた情報からの読みと、的確な指示よ。


武の項羽と知の范増……。


この二人がいる楚軍は確かに強敵だ。


大将である、項梁については韓信は脅威とは思えなかった。


どちらかと言えば武将というよりは官僚に向いてるのでは?


その程度の感想しかなかった。





韓信はそんな事を考えていると居ても立っても居られない、そんな気持ちになってくる。


早く自分も何万と言う部隊を指揮したい。


そして知恵と力を競わせ勝利をもぎ取る為に働く。


あぁ、それは。


どんな感覚なのだろうか?




――― 帷幄(いあく)に集まる歴戦の将達を見渡し、誇らしげに自分が考えた作戦を伝えている韓信。


あまりにも斬新な、その作戦の意図が分からずに混乱する将達は、お互いに目を合わせている…。




そして場面が変わる。


矢が飛び交い、剣が戟が、怒号と馬のいななきが騒がしい戦場で、韓信が剣を振り上げ突撃を指示する。


たちまち何万という部隊が一斉に敵を目がけて殺到する…。


やがて、危なげなく勝利した味方の軍勢が司令官たる韓信に勝どきを挙げる。


満足そうにその称賛を受け、それに答えて右手を高々と挙げる。


兵士達はさらに自分達の勝利に酔い、熱狂する。


そして余韻に浸る韓信……。




と…少し、想像を広げすぎたか……。


今の韓信は将どころか、戦闘にすら加わっていない一警護役だというのに…。


自分で想像した司令官韓信と、現実の警護韓信の余りの差に苦笑いが出てくる。



韓信が自分の世界に浸っている間に、鍛錬の方は全員がへばって倒れている、みな虫の息だ。


だが当の項羽はまだ訓練用の棍をぶんぶん振り回している。


とんでもない体力だ。



「項羽将軍」


そこに黥布がやって来た。


「黥布か。やっていかんか?」


「一揉みお願いしたいところですが、この後すぐに武信君の使いで発ちますので」


「なんだ、つまらんな」


「将軍、暴れ足りないなら面白い男を紹介しますが」


「おお、我が軍にそんなやつがいるのか?」


黥布はニヤリと笑って

「少々お待ちを」


そう言って去っていく。


しばらくして黥布が二人の戦士を連れて戻ってきた。


そのうちの一人はなんと鐘離昧しょうりばつであった。


「将軍、わしの変わりにこの二人をお鍛えください。

お前達、項羽将軍である」


二人が前に進み出て項羽に礼を取る。


鐘離昧しょうりばつと申します」


「季布です」


「おう!俺が武信君が甥、項羽だ。

ん?

鐘離昧しょうりばつと言ったか?お前の事は見たことあるぞ」


「鐘離昧は楚王探索の手柄を立てたうちの一人です」


「そうか!それで知っているのか!」


「もう一人はそこにいる韓信がそうです」


「ん?」


降り返る項羽。


急に自分に振られて内心びくっとしたが、項羽と目が合ったので頭を下げる韓信。


項羽は興味がなさそうに韓信を視界から外すと


「ふん、鐘離昧に比べてなんと頼りなさそうな男だな」


「将軍、韓信は頭が切れますゆえ


と鐘離昧が韓信を持ち上げる。


だが、項羽にはその言葉は響かなかったようだ。


さっさと鐘離昧と季布を引き連れて行くと鍛錬を始めてしまった。


韓信は薄々、項羽からの評価は低いだろうと頭では分かってはいたが、実際に先ほどの様な態度を取られるとこたえる。


だが、自分が軽く見られたからと言って項羽を恨んだりするつもりもなかった。


結局は自分の力でのし上がっていくしかないのだから。


(だが、この先もここに居ては目が出る事はないかもしれんな……。)


自分が思い描く理想に現実はほど遠い事を実感しながら、警邏けいらを続けるのであった。




















それからの戦闘は一方的な展開になっていった。


最初の一戦で楚軍の、というより項羽の化け物っぷりがこたえたのだろうか?


戦えば連戦連勝で、ジリジリと秦軍は北へ北へと押しやられて行った。


その日も、意気揚々と引き上げて来る楚軍を、警護の傍らで眺めていると、雑兵達の自慢気な会話が聴こえて来る。


やれ、何人倒しただの、褒美が愉しみだの、毎日毎日戦えば勝利する楚陣営としては自然と明るく、そこに戦特有の凄惨さはない。


後は秦軍が大した事がない、敵の将軍も手応えがないなどの相手を侮る発言が聴こえてきた。


(古来より戦で敵を侮って、無事でいた試しはない。)


韓信は調子に乗る楚軍に不安を感じながら、夕暮れの空を見上げるのだった。

季布というのは結構有名な武将だったりします。


プロットを作って一応その通りに書いているんですが、あれ?話がつながらないといったケースが多々あります。

資料とにらめっこしながら書いているつもりなんですが、それでも見落としはありますね(笑)



感想、評価もよろしくおねがいします。

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