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項羽対司馬欣、董翳(とうえい)

お久しぶりです。

本当に長く放置状態にして申し訳ありません。


また少しづつでも投稿して行きたいと思います。

「よし、我が陣の前を囲むように枯れしばを積めい!高さは胸の位置だ!」


司馬欣と董翳とうえいの軍が秦の陣地から勢い良く出陣し、項羽と交戦し始めた頃、章邯は兵に指示を出した。


何をやろうというのか?


そんな章邯の動きは項羽が暴れているお陰か、気に留める者はいなかった。


楚軍からでは距離があり過ぎてよく見えないのだ。



だが范増が「おや?」と思うのと同時に韓信も秦軍の陣地へ目を凝らす。


やはり秦が何をやっているのかまでは見えない。


范増はすぐに脇の斥候へ指示を出す。


そうこうしているうちに秦軍が項羽を中心に取り囲むようにぐるぐると回り始めた。


「ほう!」


項羽は面白そうな顔をして何が始まるのか、様子を見ている。


「ああ!項羽将軍!」


遅れて、やっと到着した項羽の部隊は、すでに項羽が秦軍に取り囲まれているのを見て、すぐ包囲を解かせようと突撃していく。


「将軍を援護しろー!!」


だが余裕を持って展開していた秦軍が、項羽の包囲を解かせまいと迎撃にぶつかって行った。


項羽の方は囲まれているものの、ただぐるぐる回っているだけで一向に向かってこない秦軍に飽きが来て、どこでも構わないから切り込んで暴れてやろうとげきを握り直し、すいの腹を軽く蹴り、首を引く。


「ヒィン!」

錘がそれに答え、勢い良く駆け出そうとしたその瞬間、錘の足元を目がけて矢がまとめて飛んできた。


「むっ!」


項羽は難なくよけるが、飛び込もうとした勢いを削がれてしまう。




見ればぐるぐる回って包囲している兵士の外周は弓との部隊が囲んでいた。


二重の包囲というわけだ。


「少しは知恵を使うと見える!だが小細工よ!」


そううそぶくと再度、錘の腹を蹴る。


「これしきでこの項羽が止まると思ったか!!」


さきほどのように錘の足元へ矢が降り注ぐが今度は止まらずに横へ飛びかわし、その勢いのまま大きく跳躍する。


「なっ!!」


取り囲む部隊の指揮を執っていた司馬欣と董翳は驚き、だが眼は吸い込まれるように項羽と錘を追っていた。


跳んだと思われた項羽と錘は秦軍を飛び越え、弓と弩の部隊前に着地、そのまま戟を横なぎ一閃!

抵抗する間もなく秦の兵士達の胴体は真一文字に真っ二つにされた。


思いもよらない動きで包囲を脱出した項羽を逃がさじと司馬欣、董翳も自分の得物を手に項羽へ挑みかかる。


「せえい!」


初手は司馬欣、槍が項羽の顔面目掛けて突っ込んで来る。


「それ!」


カァン!とお互いの武器が当たる音がする。


「ぐっ!!」


司馬欣は攻撃を仕掛けた自分の腕がしびれるのを感じた。


(なんて硬さだ!)まるで大樹に槍を突いたようだった。


あやうく武器を落としそうになるのを懸命に堪えて自分は退く、同時に董翳が前に出て剣を振りかぶる。


入れ違いで攻めてきたに董翳の剣先を身体を逸らしてかわすと、体の戻る反動を使い戟を振る。


董翳はとっさに手綱を放し、剣を両手で握り項羽の戟を受け止めた。


ガァン!!


音が響く。


董翳は両手を使って受け止める事はできたが、背中に嫌な汗を掻いていた。


項羽は戟を片手で振るったに過ぎない。


だが両手の自分の方が押されている…!


なんという剛力!


腕の痺れが治まらないまま司馬欣が、隙をついて槍を項羽へ突く。


「ふん」


項羽は鼻を鳴らすと「しゃらくさい!」とばかりに戟の頭は董翳へ押し付けたまま、戟の柄を下から司馬欣に向かって跳ね上げる。


思いもよらない方向から戟の柄が飛んできた司馬欣は、慌てて槍で項羽の戟を受け止める。


だが腕の感覚が戻りきらない司馬欣は不利を悟り、すぐに項羽から離れる。


「今度はこちらから行くぞ?」


そう宣言してから項羽は戟を構える。


秦の副将2人は形勢が不利なことを悟りつつ武器を握りしめる。


2人はお互い目配せをして距離を取る。


固まっていては益々相手がやりやすいだけだ。


戦場に数瞬、不気味な静寂が訪れる。


いや、それは錯覚であろう。


項羽達以外は目の前の敵と切り結ぶことに懸命であるからだ。


だが、項羽達の勝負を見守る者たちは、次のがどれほどの命のやり取りになるか、無意識に力が入る。


はっきりとは見えないが、楚軍でも項羽と秦軍の勝負の行方を固唾を飲んで見守っている。


「武信君」


范増がすぐ側まで来ていた。


「先生、何か?」


項梁は項羽の事が気になりながら、范増に尋ねる。


「早馬を黥布へお出し下さい」


「早馬?」


「戦の初手としては上出来でしょう。相手は何やら陣に仕掛けをしている様子。深追いは禁物かと。」


「む、そうか。先生の見たてなら間違いはありますまい」


「黥布に伝令を出せ!」


そうしてまた、項羽達の戦闘を見守る





















「行くぞ!!」


瞬間、項羽は敢えて二人の間に突っ込む。


副将二人はほぼ同じタイミングで項羽に向かい武器を振り下ろす。


だがそれよりも早く、項羽を乗せた錐は二人の間を駆け抜けてしまった。


完全に背後を取られてしまい、失策に恐怖する二人。


戦場で命を掛けて来た者の勘か、二人は振り返る事をせず、そのまま前方に駆け出した。直後項羽の戟が背後を掠める。


董翳は背中を熱いモノが走った感覚を覚えた。

どうやら項羽の戟が掠ったようだ。


だが、幸い防具を斬り裂いただけで、董翳までは届いていない。


「ほう?」


項羽は片目を瞑り、面白そうに二人を見やる。


今の一瞬の攻防を見守る章邯は

「まさに人馬一体とはこの事!」


と唸るように感嘆した。


かくも巨体の錘に跨る項羽もまた巨体である。


まるで山のような項羽だが動きは風の様に早い。


副将が二人掛かりで襲い掛かるが、全く気にした風はない。


それどころか物足りなく見えるほどだ。


項羽の武は見事だが、見とれてばかりにはいかない。


章邯はたった一人の項羽に秦軍がかき回された事を認めて、傍らの兵へ指示をだす。


このままだと二人の命はいつ終わるともしれない。


「撤退だ!合図を!」


ジャーン!ジャーン!


鐘の音が戦場に響き渡る。


「ム!?」


司馬欣と董翳はその音を聞くとすぐに馬を走らせ、


「退却だー!退却ー!」


兵の乱闘をまとめに掛かる。


秦軍の兵士達は内心、項羽の暴れっぷりに恐れていたのでこれ幸いと本気で逃げ出した。


ある意味、置いて行かれた項羽は戟を肩に担ぎ「ふん」と


「これから面白くなりそうだったが。」

と一人ごちる。


興が削がれたか、おざなりに周りの逃げる秦兵を斬っている。


項羽はやる気なく作業の様に戟を振っているだけだが、鬼神の如き力を持つ項羽の戟である。


逃げ遅れた秦兵がドンドン倒れて行く。


「陣の中より弩で牽制せよ!」


章邯の命令により一斉に矢が項羽軍へ目がけて飛んでいく。


こちらは先ほどの様に馬の動きを止める目的ではない。


味方を逃がすために項羽と錘の足止めをせねばならない。


先ほどの動きを見ていた章邯は雨の様に隙間なく矢を降り注いだ。


こうでもしなければ機動力のある項羽は矢の中を突進してきたであろう。


その隙をついて倒れた者以外全員が陣地へ逃げ帰れた。


「よし、柴に火を着けよ!」


章邯が命令する。


「点火ー!点火ー!」


すぐにあちこちで積み上げた柴に火が着けられた。


よく乾いた柴はあっという間に勢いよく燃え上がり、天に向かって火柱を上げる。


その炎の大きさで秦の陣地が見えなくなるほどであった。


項羽は秦軍を追いかけて陣の手前まで来たが、さすがの項羽もこの炎には近づけない。


しかも風向きは秦軍が風上のようだ。は


熱が容赦なく項羽へ襲い掛かる。


「ぬぅ、くそ!これでは近づけんか!」


項羽が火が収まるまで、待つか?どうするか?を思案していると、背後より


「項将軍ー!撤退でございます!お下がり下さい!」


見ると黥布の軍が叫びながら項羽の元へやってくる。


「武信君より伝令でございます。撤退の命令が出ました!」


「黥布。むう、そうか。叔父上からの指示では仕方がない。

何となく消化不良だが、少しは楽しめたか。よし!者共!退くぞーー!」


炎が轟々と天まで覆っている。


章邯が点けた炎がすっかり鎮火した時には、先程の戦闘で倒れた者を残して楚軍は全て撤退した後であった。


只の反乱軍にはない統率力に、章邯はこれまでの敵と明らかに違う戦いに気持ちを引き締めるのだった。


読んで頂きありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、作者まで。


感想、評価などもお待ちしております。

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