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韓信初陣

立て続けに舞い込んだ情報に、項梁を始め諸将は混乱を隠せなかった。


だが、どうやら陳勝王が敗北しており行方不明なのと、彭城で別勢力が楚を名乗っている事は確からしい。


項梁は自分を上柱国にしてくれた陳勝がいない、というのが一番困った。

(…まぁ実際はニセの命令なので上柱国にはなっていないのだが、それを項梁は知る由もなく。)


上柱国という位にこだわっていた項梁は彭城で楚を名乗る勢力が目障りになってきた。


項梁の立場からすると、陳勝が行方不明になっているのをいい事に勝手に、国と王を名乗っている、そう思えて仕方がない。


「…よし。」

項梁は決断した。


(彭城にいる勢力を潰す!わしの戦はただ秦に勝てば良いというものではない。

むしろその後が大事なのだ。

それには彭城も押さえておかねばならない。

彭城は楚の首都なのだからな。)



項梁は全軍を前に号令する。


「彭城にいる勢力は、主君である陳勝王が不在なのをいいことに勝手に王を名乗り、しかも我らの祖国である楚を自称している。


これは陳勝王に対する明らかな反逆であり、楚の上柱国である項梁はこれを見過ごす事はできない!!


全軍、彭城へ向かえ!!!

反逆者を抹殺せよ!!」


おおおおーー!!!


と地響きの様に大地が震える。


七万の兵士達が武器を手に高くあげ雄たけびを上げている。


今から本物の戦闘が始まる…。


韓信は知らず知らずのうちに手の平がべっとりと濡れている事に気づいた。


どうやら緊張しているらしいが、自分も少しばかり高揚しているみたいだ。


そういえば俺にとって初陣だな…。


今まで盗賊相手や狩りには参加した事はあるが、戦はこれが始めてである。



それにしても、と。

今回の情報の錯綜はおかしな所がある、と韓信は気づいていた。



それに、彭城での戦闘は果たして反秦として必要なのか??

単純に秦に対抗するのであれば反秦の勢力は多ければ多いほどいい筈。

疑問を感じずにはいられない。

と、いう事は『単純』以外の理由がそこに隠されている、という事だ

自分が大将であるなら、こんな意味のない事はしないのだが…。


だが、一兵卒である韓信は命令に従って戦闘に参加するしかない


初陣にあたって、目標はまず死なない事、負傷しない事。


そして出来るだけ戦闘をしている風にふるまう。


鐘離眜との連携を基本に考えればいいだろう。


戦場だから予測出来ない事の方が多いだろうが…。





結論から言うと彭城軍との闘いは項梁軍の一方的な展開であっけなく決着がついた。


項梁軍には項羽を筆頭に黥布げいふや鐘離眜がいる。


その圧倒的な武力に物を言わせてあっという間に戦闘は終了した。


その中でもやはり、というべきか項羽の働きは抜きんでいた。


韓信は実際の項羽の闘いを見て益々、人間離れした武力に恐れを抱いた。


まるで雑草を刈るかの如く戦場を駆け巡るのである。


あれでは敵は堪らない。


防御とか以前の問題である。


剣や槍で防いでも項羽の槍の軌道は止まらないのである。


そのまま防いだ剣や槍ごと体が吹き飛ばされる。


まさに蹂躙する、という表現がぴったりだった。


剣や槍ごと真っ二つにされた兵士も多い。


一人だけ別次元の生物が交じっているようで敵味方関係なく項羽に恐れおののいた。


そして乗っている馬もいい。


あの項羽の巨体を背に乗せても、まるで意に介してない。


人馬一体とはこの事だろう、と韓信は目の前でよい例を見た気がした。


他人伝いに聞いた話では項羽の馬は『すい』といい、元は野生の暴れ馬だったのを項羽が屈服させて自分の騎乗馬にして以来、項羽にしか懐かず、また項羽も絶大な信頼を寄せているらしい。


黥布も強いが項羽を見てしまうと見劣りがしてしまう。

それだけ項羽が圧倒的なのだろう。



逆に技巧派なのが鐘離眜だ。

的確に少ない手数で敵を無力化して行く。


相手の防御の弱い所、弱い所を危なげなく突いている。


韓信はというと相変わらず鐘離眜の後ろにつけて、止めを刺していくのであった。


このやり方が一番効率がいい。


まるでコバンザメである。


韓信は興味があって鐘離眜に聞いてみた。


項羽将軍はどうだ、と。


それは鐘離眜が項羽と闘うとしたらどうなのか?という意味である。


鐘離眜はその質問の意味を正確に理解して答えた。


「おそらく相性が悪いだろうな。


一手や二手ならかわして懐に入ることは出来る。


だが、そのまま体当たりされて吹き飛ばされて、でジリ貧だな…。


後はずっとあの攻撃をかわし続ける…のも私の集中力と体力切れで終わりだ。


私の持つ剣では致命傷を与えることはできないだろう。」


「あの斬激をかわせるだけでも充分凄いがな。」


韓信があきれたように言う。


「まぁ正直味方で良かった。敵には回したくない。」


と鐘離眜は笑って言う。


「それは俺も同感だ。」


そうは言うものの、鐘離眜は戦場での働きが項梁の目に止まり、直接褒美を貰いさらに小隊長から中隊長に昇進した。

そして馬に乗ることを許されたのだ。


ちなみに韓信は鐘離眜にくっついていたため、鐘離眜の従者のような扱いになっている。


こうして楚の首都であった彭城は項梁軍が押さえたのであった。

彭城に入城した項梁は、陳勝が行方不明なだけではなく、すでに死んでいる事を知るのである。


反秦のシンボルともいうべき陳勝が死んだことは反乱軍にとって大きな痛手となった。


項梁は反乱軍のこれからの方針を決めるために彭城に付近の反乱勢力を召集するのであった。


項梁の召集を受けて集まってきた諸侯の中には沛公となっていた劉邦も交じっていた。


ここで初めて項羽と劉邦は顔を合わせるのである。


後に天下を争う事になる二人の初めての邂逅かいこうであった。


誤字脱字ありましたら一報をお願いします。


感想評価もよろしくお願いします。

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