子連れ韓信
子連れ韓信
会稽の反乱軍に合流するために向かう旅の途中、盗賊に襲われている村を救った韓信と鐘離眜だが韓信が足を負傷する。
傷は幸い大した事はなく、応急処置も的確であったから化膿もせず、安静にしていれば2週間程で問題なく歩けそうだった。
ただ大事を取って、傷が癒えるまでしばらくこの村に滞在する事になった。
先に鐘離眜が護衛してきた商人を一人で送り届けてから、この村に引き返してくることになった。
村を盗賊から守っての負傷と言うことで村人達から大変感謝され、村にいる間は食事も泊まる場所も心配いらないと言うことでありがたく厄介になる。
盗賊から襲われた村の被害は最小限と言える程度であったが、残念ながら負傷者が数人と、殺されてしまった家族が一家族あった。
幸い盗賊が引き上げる前に殲滅したので盗まれたものはないようだった。
村からのお礼という話も出たが、どう見ても貧しい村だったので韓信も鐘離眜もそれは辞退したのだった。
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あれから韓信は村長の家に厄介になっていた。
大分傷も癒えた為、リハビリを兼ねての散歩を日課にしていた。
村は小さく、家が数十軒程度でほとんどが農家か漁師の家だった。
店や宿もなく一軒だけ鍛冶屋があるだけだった。
大して見るところもないので、いつもの通り村長の家へ引き返している時に、ふと背後から視線を感じた。
振り返ってみると汚れた子供が一人韓信の後ろにいた。
じーっと韓信を見ているようだったが、顔全体が汚れていて黒いから目玉の白色がやけに目立っている。
(こんな子村にいたかな?)
確か初めて見る顔である。
それにしても汚い格好だ。
「なんだ?坊主?何か用か?」
話しかけるが何も言わず韓信をじっと見ている。
腹が減っているのか?と思い、そういえば村長の家から貰ってきたおにぎりがあったのを思い出して子供に差し出す。
すると子供はおにぎりを見ているがじっと固まっている。
韓信はその目がとても真剣なのに気づいた。
おにぎりを持っている手をすっと右に動かす。
子供の目がおにぎりを追いかける。
今度はおにぎりを左に動かす。
やっぱりおにぎりを見たまま。
下に、上に、とおにぎりの動く方向に子供の目と顔が動く。
間違いなく欲しいらしい。
ため息をついて「ほれ。」と子供におにぎりを渡した。
子供はおずおずと受け取ると、しばらくじっと見ていたが、やがてちょこんと頭を下げると向こうへ走っていった。
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何となくさっきの子供が気になった韓信は村長に聞いてみることにした。
「盗賊に襲われた家があったでしょう。それがあの子の家です。
家族はみんな死んでしまいました。
身よりもなくて、あの子は一人です。
さらに悪いのがあの子は口がきけんのです。
言葉はわかるようなのですが…。
なので誰も引き取らないんですわ。
今は何となく村で食事くらいは面倒見てますが、もし今あの子が村から消えても誰も何も言わんでしょうな。
そのうちに人買いに連れ去られるかもしれんです。」
村長の話を聞いて韓信は何とも微妙な顔をした。
薄情だと言えばその通りなのだが、村人達もいっぱいいっぱいなのである。
それが分かるから何も言えなかった。
子供の事が気になった韓信はいっそのこと会稽へ連れて行こうかと思案した。
間違いなくこの村にいても死ぬか、人買いに売られてしまうか、良くて浮浪者だ。
それならば会稽のような大きな街の方が貰い手や奉公口もあるだろう。
「村長、話がある。」
「どうしました韓信様。」
「あの身寄りがない子供だが私達が連れて行ってもかまわないだろうか?」
「ええ…、そりゃまぁかまいませんけども…。
一応、どうなさるおつもりかお聞きしても??」
「うん、会稽に連れて行こうと思う。
大きな街だがら里子か奉公ができるやもしれん。」
「なるほど、この村におるよりは良いかもしれませんな。」
「そうだ、村長。あの小僧の名前はなんという??」
「小僧……いえ、韓信様、あの子は娘でございますよ??」
「娘!??」
「ええ。」
たまげた。
「気づかなかった。」
「てっきり私は韓信様は分かってて欲しがっているものかと。」
村長が言わんとする事が何となく分かったので、韓信は苦笑いをしながら
「いや、そのような趣味はない。
そうか、娘なのか…。」
「いかがなさいます?」
腕を組んで考え込む韓信。
やがて
「決めた。連れて行こう。」
「左様ですか。あの子の名前は楊桃花といいます。」
「ふむ、楊桃花か。耳は聴こえるんだったな。
口は利けないが。」
「はい。」
「少し話してみるか。何か食べ物をもらっても?」
「ではこちらをお持ち下さい。」
包みを受け取り村長の家を出る。
しばらく探すと村の入り口の大きな木の下にいた。
「楊桃花。」
声をかけるとこちらを振り向いた。
確かに耳は聴こえるらしい。
初めて会ったときはどう見ても小僧にしか見えなかったが…
注意深く見てみると、汚れているからさっきは分からなかったが確かに女の子の顔つきをしている。
「食うか?」
村長から貰った包みを差し出す。
うん、とうなずく桃花。
「そうかそうか、じゃあ桃花の家に行って食べよう。」
桃花の家は村のはずれにあった。
包みを解いてみるとそれはもち米を蒸して作ったちまきのようだった。
手でちぎって少し大きめの方を桃花に渡す。
二人でちまきを頬張りながら
「桃花は歳はいくつになる?」
と聞くと
桃花はちまきを口に咥えたまま両手を韓信の前に出し”十二”と手で答えた。
(十二歳!?それにしては随分小さい。)
早い子だともう結婚している歳だ。
身体の成長に必要な栄養がすこぶる足りてないように感じた。
盗賊の襲撃がなくとも、もともと貧しかったのだろう。
そこら辺も考えてあげねば。
「桃花、俺達は会稽という大きな街に行くつもりだ。
お前さえ良ければ俺は桃花を会稽に連れて行こうと思っている。
俺は会稽についたら反乱軍に入る。
お前の事はまだ決めてないが、できれば新しいおっかさんおとっさんを見つけてやりたいと思う。
それと働き口か。
どうする?ついて来るか?」
桃花はびっくりした顔になり、韓信の目をじっと見ながらも提案を受け入れるかどうか考えているようだ。
別段今すぐに決まらなくてもいいので、後は本人にゆっくり考えさせようと思い
「桃花の人生だからな。どうするかは自分で決めてくれ。
また返事を聞きに来る」
そう言って立ち上がろうとしたら、くいと手を引かれた。
見ると桃花が韓信をじっと下から見つめている。
「どうした?あぁ、すまないなちまきはもうないんだ。」
桃花はぶんぶんと首を振る。
「ん?違うって?
…ひょっとして会稽について来るのか?」
こくん、とうなずく桃花。
「そうか、よし決まりだ。
と言ってもすぐ出発するわけじゃないが準備だけはしておけよ。」
そう言って桃花の頭をなでてやる。
(あれっ?…ごわごわしてるな。)
あまり触り心地が良くない。
韓信は桃花の家にあった大き目の布を掴むと桃花の手を引いて家を出た。
村の共同で使っている井戸まで連れてきた。
「桃花、お前身体洗ってないだろう?」
こくんとうなずく。
ため息を吐きながら布を木の枝に掛け、桃花の服を脱がしていく。
嫌がるかと思ったが特に抵抗もせずなすがままにされてる。
騒がれないからまぁいいかと思い井戸から水をくみ上げていく。
すっぽんぽんにされた桃花は身体を隠しもせずにじっと韓信を見ている。
(思った以上に身体が小さい。肉付きも良くないし、骨も細い。
まずは飯を腹いっぱいに食べさせてやらんと。)
そんな事を考えながら水を桃花に頭から掛けてやる。
ばしゃー。ばしゃー。と2~3回かけてからサイチク豆を手に取り身体を擦っていく。
サイチクという豆には天然の洗浄成分があり昔の人はこれを石鹸がわりに使っていた。
髪も満遍なく洗い、また水を掛けてやる。
すっかり綺麗になったところで布で身体を拭いていく。
産まれてこの方初めて他人の身体なんて洗ったが、どうやら桃花は気持ちよさそうである。
身体を拭いてあげた後は桃花の服を着せてあげたが、ここで韓信は気がついた。
(服も洗わんとな。)
身体が綺麗になったせいか余計服が臭う気がした。
それにしても旅に出る前は自分自身の事も儘ならなかったのに、まさか子供の面倒を見るようになるとは…。
韓信は自分が子供が好きかどうかなんて意識すらしたことなかった。
人生というのはおもしろいもんだな、と若干他人事のような感想を持つ韓信だった。
身体を洗うくだりのサイチク豆は「小説家になろう」の作家である肥前文俊さんの作品「転生系に使える知識・道具」より参考にさせて頂きました。
助かりました。ありがとうございます。
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