韓信老婆との別れ
今回内容が少なめです。
韓信と鐘離眜は会稽の項梁軍に合流するため旅に出ることになった。
だがここで一つ問題が発生した。
反乱軍に参加なので給金が出るわけではない。
反乱軍に入れば食べていく事は出来るだろうが、会稽までの旅費がない。
鐘離眜は蓄えがあったので問題はなかったが、韓信である。
韓信はもともとホームレスみたいなものだ。
食べていく事すら厳しかったから旅費まではとても出せなかった。
淮陰に親類でもいればカンパしてもらえたかもしれなかったが、あいにく韓信は独りだ。
二人は相談して、旅費を稼ぎながら旅をする事にした。
淮陰から反乱軍へ参加する者達はある程度まとまって会稽へ向かうのだが、韓信と鐘離眜は二人別行動となった。
間違いなく鐘離眜が韓信の都合に付き合った形である。
そしてその旅費を稼ぐ方法とは用心棒である。
行商の商人を捉まえて護衛をしながら旅費を稼ごうというのである。
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淮陰で数少ない韓信の世話をしてくれたのが、ほぼ毎日飯を恵んでくれた蔡ばあさんだ。
韓信は来る日も来る日も淮水の土手でただ昼寝をしてるだけの自分によくぞそこまで面倒を見てくれたものだと思う。
もう蔡ばあさんのおにぎりは食べれないんだな、と思うと少し寂しくなった。
淮陰を離れる日に韓信は蔡ばあさんに別れのあいさつをしようといつもの土手に行った。
川の真ん中で布を漂してる蔡ばあさんを見つけると、ざぶざぶと川の中に入っていく。
ばあさんはばしゃばしゃと水の音がするので音の方向を向いてびっくりした。
いつも昼寝しかしてない韓信が川の中に入ってきてるではないか。
一体何事だろうと水に漂していた布を絞っていると
「ばあさん、俺はしばらく淮陰を離れる事になったからあいさつに来たよ。」
そう韓信が言ってきた。
蔡ばあさんはおどろいて目が開いている。
「あんた、どこに行くのね??」
と訊ねると
「会稽へ行く。反乱軍に参加するんだ。」
と目的を告げる。
「……そうか。」
ばあさんは背筋を伸ばし、腰を叩きながら川岸へ歩いていく。
韓信もばあさんの後に続いた。
「あんたが戦なんかできるのかい?
まぁ、でもそこで毎日寝てるよりはいいかもねぇ。」
と韓信の指定席だった土手を指す。
韓信は苦笑いをしながら居住まいを正し
「蔡ばあさん。本当にお世話になりました。
働きもせずに毎日昼寝ばかりしていた私に食事を恵んでくれたのは蔡ばあさんだけでした。
このご恩は決して忘れません。
以前に叱られたのでお礼をどうこうは申しませんが、どうかお身体に気をつけてお元気で。」
と丁寧に頭を下げる韓信。
蔡ばあさんはその普段とはまるで違う韓信の振る舞いにあっけにとられた。
「あんた…そんな立派な言葉使いが出来たんだねぇ…。
まるで別人のようだよ。わしは人を見る目はあったつもりなんだが。」
と目を細めて韓信を見ている。
「わしは難しい事はわからんけど秦になってからだよ、生活が苦しくなったのは。
じゃからみんな言ってる。楚の時の方が良かったと。
反乱て、そのために行くんじゃろう?」
うなずく韓信。
「そうか。なら暴れてきておくれ。わしらはもう年だから代わりに頼むよ。
その剣が役に立つ時が来て良かったじゃないか。」
ああ、ほんとに淮陰を離れるんだな、急にこの時韓信は実感した。
今の今まで頭では分かっていたが、どこか他人事のような、物語の中の話のような感覚だったのだ。
あまりいい思いをしなかったが、それでも故郷と言えるのははここだけである。
韓信も知らず知らずの内に思いが入っていたのかもしれない。
毎日毎日見ていた、淮水の流れも土手から見える雲の流れももう見納めである。
下を向いていると涙が出そうになったので、気を取り直して街へ行くことにする。
鐘離眜と旅が待っている。
土手まで上がって最後に蔡ばあさんに手を振った。
「ふふふ…不思議な小僧だったよ。
…もう小僧とは言えんか。
急に男前になったねぇ。」
人はきっかけがあればがらりと変わるものだ。
蔡ばあさんはご先祖様に韓信の無事と活躍を祈るのだった。
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