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【全11話・一挙公開】『退学になった俺だけが世界の脚本を読める。七日後に世界は終わるらしいので、モブ女子と最終話を書き換える』  作者: 鷹司 怜


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11/11

第十一話 エピローグ


 卒業式の日は、よく晴れていた。


 三月とは思えないほど暖かな風が吹き、校庭の桜は少しだけ蕾を膨らませている。


 冬月朔は体育館の窓から空を見上げた。


 青かった。


 どこまでも青い空。


 黒く染まった空も。


 終末を告げる文字も。


 もうどこにもない。


 あの日から三か月が過ぎていた。


 世界は終わらなかった。


 人々は何も知らないまま日常へ戻り、学校も街も以前と変わらない姿を取り戻している。


 ただ一つだけ。


 朔の心の中には、確かに残っているものがあった。


 あの世界脚本庫での出来事。


 百二十七回の失敗。


 そして。


 一人の少女との約束。


 卒業式が終わり、生徒たちが校庭へ出ていく。


 写真撮影。


 友人との別れ。


 笑い声。


 泣き声。


 その光景を見ながら、朔はふと不思議な感覚に襲われた。


 どこかで見たことがある。


 いや。


 知っている。


 この景色を。


 この瞬間を。


 胸の奥が熱くなる。


 けれど思い出せない。


 何か大切なものが指の隙間から零れ落ちていくような感覚だけが残る。


「冬月くん」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 そこに立っていたのは、一人の少女だった。


 黒髪。


 穏やかな瞳。


 春風に制服のスカートが揺れている。


 星乃紬だった。


 朔は一瞬だけ息を呑んだ。


 なぜだろう。


 胸が苦しくなる。


 初めて見るはずなのに。


 ずっと前から知っている気がした。


「卒業おめでとう」


 星乃が微笑む。


「……ありがとう」


 朔も答える。


 それだけの会話。


 なのに。


 どうしてこんなに嬉しいのだろう。


 どうして泣きそうになるのだろう。


 二人の間に沈黙が落ちる。


 その時だった。


 風が吹いた。


 桜の花びらが一枚、二人の間を舞い落ちる。


 その瞬間。


 朔の脳裏に断片的な映像が流れた。


 夕暮れの教室。


 雪の日の帰り道。


 文化祭。


 屋上。


 泣いている星乃。


 笑っている星乃。


 そして。


『今度は忘れない』


 誰かの声。


 自分の声だった。


「……あ」


 思わず声が漏れる。


 だが映像はすぐに消えてしまった。


 夢のように。


 幻のように。


「大丈夫?」


 星乃が心配そうに覗き込む。


「いや……」


 朔は苦笑した。


「なんか変な感じがして」


「変な感じ?」


「うん」


 頭を掻きながら言う。


「初めて会った気がしない」


 その言葉を聞いた瞬間。


 星乃の瞳が揺れた。


 そして。


 少しだけ泣きそうな顔で笑った。


 朔はその表情を見て胸が締め付けられる。


 理由は分からない。


 けれど。


 絶対に泣かせたくないと思った。


 初めて会ったはずなのに。


「ねえ」


 星乃が言う。


「卒業したら何するの?」


「まだ決めてない」


「そっか」


 彼女は小さく頷いた。


「じゃあ」


 一歩近付く。


「これから決めればいいよ」


 その言葉が妙に心に残った。


 これから。


 未来。


 続いていく時間。


 まるで当たり前のような言葉なのに。


 なぜか奇跡のように聞こえた。


 朔は空を見上げる。


 どこにも文字はない。


 脚本もない。


 決められた未来もない。


 白紙だ。


 これから先の人生は。


 誰かが書く物語ではない。


 自分たちで描く物語だ。


「星乃」


「ん?」


「どこか行かないか」


 自然と言葉が出た。


 星乃が目を丸くする。


「どこに?」


「分からない」


 朔は笑った。


「でも、なんか」


 胸の奥が温かい。


 懐かしい。


 大切なものがそこにある気がする。


「一緒にいたい気がする」


 一瞬だけ。


 星乃の瞳から涙が零れそうになった。


 けれど彼女は笑った。


 本当に嬉しそうに。


「うん」


 その返事は、春風よりも優しかった。


 二人は並んで歩き出す。


 卒業生たちの笑い声の中を。


 桜が舞う道を。


 これから始まる未来へ向かって。


 もう世界は終わらない。


 繰り返しもない。


 誰かに決められた結末もない。


 百二十七回の失敗の先で。


 ようやく辿り着いた、本当の最終話。


 そして。


 新しい第一話。


 その時。


 星乃が少しだけ悪戯っぽく笑った。


 朔を見上げながら。


 優しく。


 懐かしそうに。


 こう言った。


「……また忘れちゃったんだね」


 意味は分からなかった。


 けれど。


 なぜだか朔も笑ってしまった。


 きっと大丈夫だと思えたから。


 たとえ忘れても。


 たとえ何度離れても。


 また出会える。


 そんな気がした。


 春風が吹く。


 空はどこまでも青かった。


            ―完―

ここまで『世界の脚本が見える俺は、最終話を書き換える』を読んでいただき、本当にありがとうございました。


百二十七回繰り返された世界の先で、朔と紬が辿り着いた結末を最後まで見届けていただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「最後まで読んでよかった!」


と思っていただけましたら、


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『亡くなった母から、三年後にLINEが届いた』


もし大切な人との別れを経験したことがある方なら、きっと何かを感じていただける物語です。


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幕末の京都を舞台に、新選組と吸血鬼が激突するダークファンタジーとなっています。


どちらの作品も応援していただけると嬉しいです。


最後になりますが、この物語を読んでくださったすべての読者の皆さまへ。


本当にありがとうございました。


また次の物語でお会いしましょう。

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