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「お風呂は諦めました」



 無事に拠点に戻ってきた。桑の木は一応庇ったので大丈夫だと思うが、大きい幹の方はあちこちぶつけてしまった。裂けていなければ問題ない。

 異世界桑の木は日の当たる場所に植え替えておく。後で水と、腐葉土も持って来て与えてみよう。枯れそうになったら葉を全部毟ってリスクヘッジだ。


 一先ず、桑の葉を物質創造してシルクのカーテンを作る。肌触りはいいが……、遮光カーテンが欲しい。光って何で遮れるんだろう。とりあえず悪足掻きに厚出にしておく。

 カーテンのシャーってなるやつは、予め作っておいたので、サイズだけ合わせて取り付ける。うん、無いより大分マシ。これでダメなら雨戸を付けよう。台風に耐える頑丈なやつがあれば、私の安眠は今後永劫妨げられることはあるまい。

 他にシルクで何を作れるだろう。カーペット?シーツ?タオル?……どれも要らんな。私以外に使う者も居らんのでな。保留でいいだろう。


 大きい幹から水分を奪って、破損部分を削る。水分の方は桑の木にでもかけておこう。

 皮も削って、後は加工するだけの木材なのだが……。

 ドアを作るならノブも作りたい。鍵は……最低限、内側から掛けられるものを。それから根元となる蝶番だ。小型化を図る。

 問題なのは、これらを鉄を使わずに木だけでやりたいということだ。何故なら鉄を持っていないから。

 ……やってみるか。壊れたら壊れただ。時間が無駄になるだけ。その時間はいくらでもある。

 また徹夜が捗るな。今度の睡眠が楽しみだよ。


 細かい作業は精神的に来るものがある。幸い、頭の中に設計図があるので部品が狂ったりはしないが、うろうろと小屋の川原を歩いたり、後回しにしている浴槽用の木材を切ったり、腐葉土を持って来て異世界桑の木の根元に混ぜたり。なんだったら頭をすっきりさせるために仮眠を取ったりしながらドアの部品を作っていく。

 その甲斐もあってか、尊い木材の成れの果てという犠牲はあったものの、なんとか満足のいくドアが完成した。

 潤滑油がないので少々固い。無理に使ったら砕けそうだが、完成は完成だ。今度は油も用立てよう。樹脂を物質創造して出来ないだろうか。ニスは摩擦だったよな……。


 ドアにカーテン。これで最低限、家の体裁は保てるようになった。

 照明はない。夜は寝ろ。暖房もない。布団は物質創造しろ。備蓄はない。腹が減ったら狩れ。風呂はない。近くに川があるだろう?

 ーー完璧だな。これはもう私の家と言っていいだろう。


 ……風呂はやっぱり面倒臭いな。長期計画でいいや。

 次は何をするか。屋根か?

 この辺りに四季があるのか、どの程度降雪があるのか、判断材料はない。

 でも屋根は平屋の仮留めだし、やっぱり三角屋根にしてみたい。


 頭の中で、三角屋根の設計をこねくり回してみる。

 強度……水漏れ……手入れ……。屋根裏にスペースが出来そうだ。屋根裏部屋。無性にわくわくする単語である。布団を物質創造するも好し、保存食を置くも好し、だな。とりあえず兎のトゲは置けそうだ。小物を入れる袋を、後で桑の葉の物質創造しておこう。

 兎のトゲ。とりあえず水洗いはしたが、日干しとかする必要あるんだろうか。あと、シカの角も。

 まあいいか。臭ったら埋めよう。埋めれば長期的に見れば自然に還る。大地は偉大である。マジパない大地。一生地に足つけて生きていきます。


 さて、屋根だ。ベースは仮組みした平屋根。元々三角屋根が本命だから、まだ前回の木材が使える。

 足りなくなったら調達しよう。近場が禿げない程度に。遠出をするか。人に見付からないように、なるべく木々は残しておくべきだ。stop、自然破壊。私のために。


 バランスに苦慮し、重みに耐える実験、水漏れ確認をクリアし、なんとか丸太小屋の外観が完了した。

 暖炉を取り付けると、また煙突やら苦心することになろうが、先の話だ。後のことは後に回して、直面した時に問題を考えればいい。明日出来ることを今日するな。私は、いま眠いんだ。


 屋根裏小屋も出来た。階段はないが……。梯子を作るか。いや、荷物になる。物質創造でいいな。

 腹ごしらえに小鹿を摘まみ、活動の汚れを洗い落とす。

 さあ寝よう。何度か仮眠を取ったとて、本寝はひさしぶりである。こうも時間を空けると、神経過敏でちゃんと眠れるか少し心配ではあるが、そこは私。安心と安定のクオリティーで寝具にくるまった瞬間眠りに落ちるだろう。

 いつものように、シーツに横になって、枕に委ね、毛布を被る。

 嗚呼……これが睡眠だ。これが睡眠だったのだ。今までは野良犬が犬小屋で産衣の上で丸くなっいるだけだったのだ。身綺麗にしてくるまる寝具のなんと心地良いことか。


 ……人の欲望とは際限ないもので、こうして触感が解消されると、更なる改善、より高い睡眠の質を求めたくなる。

 寝具の質、即ちお日さまの匂い。嗅覚だ。


 しかし……、話には聞くが、それってそんなに良いものなんだろうか。ダニの死骸が焼けてるだけではないのか。生き物が焼けた芳ばしい匂いが好きなのはわからなくもないが、睡眠欲が刺激されるものなのか?

 毛布に火が付かない程度に何か焼いてみようか。いや、火ではなく、熱殺することに意義があるのか。それが可能となる絶妙なバランスがダニであり、人間の本能的な部分で、ダニを排除することが生存に繋がると喜ぶ故に、ダニの死骸が焼ける匂いに満足感を得られるのか。

 本能、大事である。人間が、蚊が飛んでる羽音に無性に苛々するのは、それが人類種の天敵、幾万の同胞を抹殺して来たキリングマシーンであるからだろう。人間と蚊はわかり合えない。ダニも同じだ。

 考えていたら、俄然興味が湧いてきた。


 気になったならどうするか? そう、試してみればいいのだ。布団にお日さまの香りを付与し、実際に満足感を得られるのか、その労力に見合うのか試してみよう。ダメならダメでいい。試さない理由にはならない。

 今の私は自重する必要などない。時間に追われることも、失敗を咎められることもないのである。自由、素晴らしい響きだ。


 布団に、お日さまの匂いなるエンチャントをするには、現状の、物質創造で作った仮布団では不適格である。私の身体を離れた瞬間霧散する故に。まさか降り注ぐ日射しの元、布団と一緒になって炙られるわけにいくまい。

 ガワは桑の木からなるシルクでいいだろう。シーツと枕は現状に不満はない。特に枕には、現代人の変質的とも言えるほどの、日進月歩の技術の粋が籠められているので、素人が再現しようとしてもどうにもならないだろう。

 ベッドのスプリング部分も同様である。

 どうにかなりそうなのは布団だけだ。と言っても、ガワを作って何かを入れるだけだが。


 布団……中身……羽毛布団……ダウン……胸毛……鳥むね肉……。


 ああ、布団に入って考える無駄な思考のなんと心地良いことか。

 つらつらと益体もないことを考えていると、いつしかこの身は自然と眠りについていた。


 すやあ。





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