「少し遠くまで足を運びました」
うさぎは食べないことにしたので、歩きながら他に獲物がいないかを探す。
鳥……悪くないが、少し食べるところが少ないか。猛禽でもいれば別なんだが。ネズミやカエルも同様の理由で食指が動かない。
あれは……、イノシシか。個人的な好みだが、豚や牛を好んで食べる風潮は理解出来ない。家畜化しやすいのはわかるが、あまり美味しそうに見えないのだ。豚野郎に興味はない。
尚も歩みを進める。道中、流石に何か入れなければまずいかと、手近なリスをかじってみる。ふむ。鼠も意外と悪くはない。尻尾はもふもふだが、うさぎの耳ほど美味しくはなかった。
……反応、早いな。なんだ?これは。
少しばかり気になったので追跡してみる。シカだな。……ウシ科か。
いや、牛と鹿は別だろう。ウシ亜目のジラフだって牛には見えない。うん、セーフ。
……今度、食わず嫌いせずに牛も食ってみるか。シカは美味そうだ。ヒツジやヤギも嫌いじゃない。牛も仲間に入れてあげよう。うもーって、よく見たら可愛いかも知れない。息臭いけど。
シカは逃げるので、ポケットからうさぎのトゲーーアルビノ草兎のものではなく、小屋から持ち出した一本だ。アルビノ草兎のは保存しておこう。なんとなく。追い縋りながら、そのトゲを親指で弾く。うさぎより明らかに耐久力が高いので、逃がさないように、一撃で仕留めるために力を込めてーー
ぴちゅーん。
シカさんが(永遠に)退出しました。
……ごめん。悪気はなかった。うさぎよりも随分体積があるので、飛び散り具合が悲惨なことに……飛散だけに。
角は無かったので、元牝鹿だ。今も牝鹿だが。いつものように首から皮を剥いで、胃腸を引きずり出す。シカのモツならクマとかが食うんだろうか。キツネとかオオカミも食うかな。普通に。
シカの味は悪く無かった。食べ応えもあったので、うさぎと違って三頭くらいで満足しておく。角のある牡鹿や、毛深くて脚が太いものもいた。多分カモシカに近い種類だろう。
草兎みたいにちょっと違う動物だったのかも知れないが、解体した感じ、目立った差違は見受けられない。所詮は素人の目だ。しょうがない。
考えてみると、別に遠距離攻撃に拘る必要はなかったのだな。シカは無駄に感度がいいのか、こちらが見付ける前に感付かれる。ので、追って仕留めた。気付かれる前にスナイプ出来ないのなら、飛び道具は不要だ。
もしかしたら、その感度の良さが前世のシカとは違う部分かも知れない。角がセンサーになっているとか……、牝鹿も感度が良いから、違うな。
一応牡鹿の角は回収しておく。
腹ごしらえは済んだ。さて、ここはどこだろう。カモシカっぽいのがいたということは、山岳に近いのかも知れない。
木々も深く、鬱蒼としている。この辺りで幹の太い木でも見付かれば良いのだが。
少しゆっくり歩いて、辺りを精査してみる。この幹をドアにすると少し手狭かな……。中々立派な幹が見当たらない。
ん……?これ、桑の木じゃないのか。
桑は実が美味しいので鳥が好み、特別な生育方法でもないので広く分布しているはずだ。うん、間違いない。特徴が一致する。
まあ、この異世界桑の葉を、蚕が食うかは別の問題なのだが。無駄にグルメだからなあやつら。芋虫の分際で。とはいえ、実際に蚕の餌にするわけではなく、所詮は私の物質創造。私が桑の葉と認めればそれで物質創造出来る。そう決めた。私が。
余談ではあるが、私は樹木など桑の木ぐらいしか見分けが付かない。それも、以前に蚕のことで少しかじった程度だ。
丸太小屋を作った際の木材も、手近な所から調達しただけの名前も知らない木ですから、建築資材への向き不向きなんかもわからない。良い資材なんて、檜のお風呂がいいとか、その辺の俗物的な知識のみだ。
もしかしたら脆かったり水漏れしたりするかも知れないが……、その時はその時に考えよう。
桑の葉をかじりながらどうしようかと考える。
……もう少し探索しよう。異世界桑の木の根本に、鹿の角を放っておく。帰る時に回収しよう。これでも記憶力には自信がある。迷いはしないだろう。なんかフラグに感じるが。
ふと思い立って、木の上に登ってみる。幹が太いなら、木自体も大きかろうとようやく気付いたのだ。上から見れば大きそうな木はわかる。
……鬱蒼としてるし、段差もあるのであまり参考にはならなかった。ちくせう。
だが、あまり、だ。多少は参考になるので手当たり次第行ってみるか。
ん、霧が濃いな。湿度が高いのか?気温が高くなくて良かった。まとわりつくような感覚はなく、むしろ日射しが遮られて涼しいくらいだ。
……霧の濃い方、何かあるな。木、か?ここからでも見えるとは、かなり大きい。あれならドアにして申し分なかろう。
早速向かってみる。なんか、この森の主ーとか、大樹ーとかって風格があるので、中をくりぬいて秘密基地とかに出来そうだ。面白い。
と思ったが、道中に切り倒し易そうな手頃な大木があったので、幹をいただいておく。持ち運び難いのが難点だが……外側がぼろぼろになっても加工すれば問題なかろう。
今回は目的を果たしたので、大木は諦める。考えてみると、目的はドアなのだから、あまり大き過ぎても荷物になるだけだ。
道中、シカの角を回収……って、なんか見知らぬ牡鹿が角を咥えている。
もしもし、それは私の獲物ですよ?
シカ、逃亡。
まあいい。何に使うか知らないが、私も何に使うか知らない。一応持ち帰ろうとしただけだし、一本あれば十分だ。持ち運ぶことを考えると余分だ。
残る牡鹿の角一本と、桑の木を小脇に抱えて拠点に帰る。
シルク製品なら幾つか必要になるかも知れない。いちいち足を運ぶのは面倒だし、実から育てるほど私の気は長くない。植樹しよう。枯れたらその時だ。
目的達成。今回の遠出は、成果が多くてほくほくだ。たまには歩くのも悪くない。睡眠あっての散歩だけど、ね。
今夜もぐっすり眠れそうだ。
精霊樹「し を かくご した」
デコイ「ぬわーーーーーっっ!!!」




