「うさぎさんが遊びに来ました」
何かの気配を感じる。
小動物のものだ。今までも、丸太小屋……私の棲み処に近付くものはいたが、様子を窺って、すぐに立ち去るのが常だったので、私は気にもせずに眠っていた。
私の縄張りというのを察知してのことだろう。動物は聡い。常に命懸けで生きているから、危険に対する本能が敏感なのだ。人間とは違う。
尤も、人間に慣れた……もっと言うならナメた動物なら人間の棲み家にもマーキングするだろうがね。ネコとか。あいつら舐めてる。
この森は自然の宝庫なのか、動物は人間に慣れた様子はない。異物に対する警戒心もMAXだろう。
もしも慣れて、舐めた態度を取るなら考えなくてはならない。見せしめに磔にするか。いや、死骸を忌避するのは同族だけだ。寧ろ他のものは屍肉を求めてやってくる。虫とか虫とか、主に虫とか。
虫は好かん。美味しくないもの。我ながら、虫嫌いでよく、田舎でのんびりしたいとかほざいたものである。完全に田舎を舐めてる。
虫。積極策は取らないが、私に近付くようならパーンである。パーンしてパーンでパーンだ。慈悲はない。私に近付くのが悪い。いや、近付く動物もパーンしてるから見境なしか……。
しかし、森ならいいが、家の中に入ってくると安眠が妨げられるのはいただけない。蚊帳を作るか。シルクでいいかな?
なんか天蓋付きのベッドを想像してしまった……、忘れよう。
虫はいいが、私の棲み処を彷徨く小動物だ。気になって眠れん。対処する必要がある。
渋々ベッドから起き上がると、それに気付いたのか小動物の気配は去って行った。存在を隠そうとはしていなかったから、ある意味当然の反応なのだが、これで、彷徨いていたものが『危険を承知で様子を窺っていた』と予測が立つ。
好奇心や、舐めた態度とは必死さが違う。目的があってのことだろう。
警戒のレベルを引き上げる。
寝直すつもりにもならず、ドアを開けて気配を探る。近辺にはいない。離れて様子を窺っているなら、相当の索敵範囲だろう。ならばどうしようもない。
小動物が居た形跡は、隠すことなく残されていた。丸太小屋に擦りつけられた白い毛。そして、入口付近に置かれた、良い匂いのする草。
この草の種類はわからない。しかし、この白い毛、そして草に付着した唾液から、持ち主である、この小屋を探っていた小動物が、うさぎであるということがわかる。
間違いない。アルビノ草兎だ。生きていたのか。
私に見逃されたアルビノ草兎は、この良い匂いのする草を置いて去ったのだ。自分の正体を隠すことなく。その行動の意味するところはーー
……お前の棲み処を知っている、ということか。
言うまでもなく、拠点の場所が割れているというのは、向こうにとって大きなアドバンテージである。いつでも好きなタイミングで攻撃を仕掛けることが出来るし、仲間を集めて襲撃の準備も出来る。
相手が対等、或いは捕食者ならば、すぐにでも巣を移す必要があるだろう。
しかし相手は挑戦者で、私は向かう討つ側だ。うさぎごとき、いつでも受けて立とう。
楽しみが増えた。アルビノ草兎、キミは実に尾も白いやつだ。HAHAHAアルビノジョーク。寝起きのテンションである。
将来有望な敵が、次は何を仕掛けて来るのか楽しみになったところで、私は寝直すために小屋に戻って行った。
気配が気になって目が覚めてしまったが、まだ三日しか寝てないのだ。ふあぁ。おっと、はしたない。誰も見てはいないがね。うさぎは見ているかも知れんが、うさぎの目を気にして生きてはおられんだろう?
あ、良い匂いのする草は家の中に運んでおいたよ。何らかのマーカーかも知れない。洗って、保存はどうするか。花瓶か……、干すか……。
◆
私は空腹を覚えた。
シカの腹持ちが良かったのか、胃袋のやつがようやく我慢を覚えたのか、私の睡眠時間は、中途で起こされたのを考慮しても、この世界で目覚めて以降、最長を記録した。
そろそろ起きよう。小屋の汚れも、私自身の汚れも気になって来たところだ。
やれやれ、夢のスローライフには程遠い。いつになったら、いつまででも寝ていられるようになれるのか。たとえ死んでても叶わぬ願いだ。
ベッドから這い出て、窓を開けて換気して、川で身を清めて、小屋の掃除をする。
これが今後も、起きた時の私の一連の動作となるだろう。これに、布団を干す、なども追加されるやも知れんがね。将来的に。
起きたら腹ごしらえだ。私は約束は守る。うさぎ以外を捜そう。
とりあえず……鳥かな。あまり腹の足しにはならないだろうが、胸毛が欲しい。しかし、ダウンが採れる種類は限られているんだったかな? うーん……。まあやるだけやってみよう。
鳥。サイズにも依るが、うさぎやシカを仕留めるのと同じようにはいくまい。
というわけで作った。ボーラというんだったか。石と石を結んで、遠心力で絡めて捕らえる道具。狩猟のみならず、人間の足を縛る戦争の武器としても使われた、人類の叡知。異世界ものの定番がリバーシとチェスというように、サバイバルものの定番と言えばコレ、という一般的なものだ。
石に溝を掘って、紐は無かったからシルクで結んだ。こんなボーラねーよ。私の服は脱いだ瞬間霧散するので、便利道具に転用出来ないから仕方ない。万能蔦なら探せば見付かるかも知れない。
では早速第一投、投げましょう。
ぴちゅーん。
…………すまん。
うさぎやシカのようにはいかなかった。小さかったので、頭と言わず爆散した。返す返すもすまない。
そして即席ボーラは、彼方まで真っ直ぐ飛んで行って見えなくなった。遠心力とか言った舌の根も乾かない内にこの垂直飛びである。私は馬鹿なのか。実はあまり否定が出来ない。
気をとりなして次、行こう。誤字ではない。私をおだてるのは大事だ。
念のため、そう念のためにボーラは三セット作ってある。一つ職務を全う……。……名誉の殉職をなされたが、まだ二つある。
失敗を成功の母として、彼らの尊い犠牲を無駄にせぬよう成果を挙げようではないか、諸君。




