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「ライバルキャラ(笑)が出来ました」



 シロクマ船長がのっしのっしと歩き去ると、でかい声で聴こえなかったのか、微かに少年の声が聴こえるようになった。姿はここからでは見えない。

 その内容が気になったので、パラソルを物質創造で原材料に戻して、声のする方に足を向ける。船室ではないな。


「……ずるいぞ! あんな化け物みたいな子供使いやがって! どうせあいつの影に隠れて、安全に魔物を倒してランクを上げたんだろ!」

「うるせー! こっちも声掛けた時はあんなやつだとは思わなかったんだよ! お陰でこっちのプライドはズタズタだよ! ランクCは実力だ! 実力不足だ!」


 少年と怒鳴り合う、船に乗る前に少年を睨んでいた少年。……わかり難いな。ここは、少年を睨んでいた少年をお坊っちゃんと呼称しようか。理由は後述。

 回りには他の人間もいる。猫どもと、向こうのパーティの三人だ。おっさんと少女は船室にいる。船医のアルパカ獣人に呼ばれ、ヒーラーたちの受け持ちを話し合っているらしい。

 猫どもは、低レベルな怒鳴り合いに飽きているのか、気もそぞろで、むしろ他に視線をやっていて、私の接近に気付いた。私は二人の上から声をかける。当然、海風でスカートの中が見えるような愚は犯さんよ。嗜みだからね。


「いま、私の話をしていたか?」

「ひっ」


 おいこのお坊っちゃん悲鳴だよ。怯えさせるような真似はした覚えがないのだが、陰口をしていたと認識しているのかね? 特段悪意は感じなかったが。

 噛ませ役かと思ったが、根は善良っぽいというか、馬鹿キャラかな。

 私の出現にも驚いた様子を見せない、可愛げのない少年は、まるでそれが苦言であるかのように私の働きに物言いを付ける。


「お前が非常識な運び方するから、他のパーティの肩身が狭いんだとよ。一人に働かせるって、そこだけ聞くと外聞が悪いからな」

「非常識ねぇ。あんなもの、重心に少しコツがある程度で、化け物呼ばわりされる筋合いはないと思うが。なあ?」


 聞かれてた、と顔を青くするお坊っちゃんを他所に、取り巻きに水を向ける。なかなかの戦闘能力を持つそいつらは、主の様子など知ったことではないのか、私の言葉に頷いた。


「そうですなぁ、誰でも出来るという程ではありませんが、異常という程ではないでしょうなぁ」

「坊っちゃんは腕力強化の魔法を使っても、一つ担いだだけで、足が生まれたての小鹿になっちゃったから、余計にびっくりしちゃったんですね~」

「びびびびびってねーし!」


 足が生まれたての小鹿だが。

 なかなかの戦闘能力を持つ、お坊っちゃんパーティの二人。どう見ても従者だ。穏やかそうな白髪の執事に、ゆるふわメイド。お坊っちゃんなんだろう。むしろ、強い二人にサポートして貰って魔物を倒してるんじゃなかろうか。自分がそうだから、相手もそうしてると発想をするわけだし。

 お坊っちゃんパーティ、最後の四人目は朴吶そうな少年だ。年齢はお坊っちゃんと同じくらい。『なんで俺ここに居んの?』って感じで場違い感が凄い。これだけ平凡だと、主人公サイドなら秘めたる設定を疑うところだが、彼からはそこはかとないツッコミ臭がする。貧乏クジの苦労性の匂いだ。見たところお坊っちゃんの冒険者ごっこパーティだし、巻き込まれたのかもしれない。

 どうやら、お坊っちゃんは腕力強化の力自慢らしく、荷運びで少年に差を付けてやろうと息巻いてたところ、私がでしゃばってしまって悔しい思いをしてしまったようだ。


「で、つまり、少年の知り合いなのか?」

「いや、知らんけど」


 睨んでたし、なんか絡まれてるし、さぞ因縁があるライバルキャラ(アホの子)かと思いきや、少年の方は突然怒鳴られてびっくりしているようだ。睨まれていたのにも気付いていなかった。それで怒鳴り返す辺り、少年もまだまだ子供だな。怒鳴りたいのは私に? そっかあ。

 関係性としては、王都でやったという武道大会だと思うのだが、どうだろう。


「うーん、見覚えがない」

「一回戦で敗戦したとかじゃない?」

「誰もBランクに上がれなかったし、優勝したカイが逆恨みされてもおかしくない」

「初戦の相手だー!!」


 お坊っちゃん、怒り心頭。というか少年、優勝してたのか……。本当、何やらかしたんだ。


「……覚えがない」

「覚えてない」

「覚えてにゃい」

「やったよ! 初戦で! 良い勝負だったよ結構! お前らの問題だよ記憶力の!」


 お坊っちゃんはムキになっているが、戦った少年も、観戦していた猫どもも首を傾げるばかり。余程印象に残っていないらしい。


「申し訳ありません~。端から見ると一発も当たる気配がなくて闇雲に武器を振り回していただけなのに、坊っちゃん的には敢闘だと思ってるらしくて~」

「あー」

「そう言えば、Cランク成り立ての素人がいた気がする」

「ネイメリアぁぁぁーー!? おまっ、どっちの味方なぁーん!?」

「このネイメリア、坊っちゃんに現実を見ていただくためなら、坊っちゃんが泣くまでなじるのをやめませんよぅ」

「現実見えてなかった俺!? ごめん! もう泣きそうだよ!」


 もう泣いとる。この坊っちゃん、武道会に出るだけあって、これでCランクなのか。見ての通り良いとこの坊っちゃんだし、パワレベというか、あんまり誉められたやり方じゃないのでランクを上げたのかも知れない。


「Cランクとは思えない」

「こんなやつなら猫でも勝てる」


 猫どもも舐めくさってる。私から見ると、このお坊っちゃんは悪意の欠片もない善良なおバカだが、猫どもは絡まれてるのが不快なのか、お坊っちゃんを見る目は冷たい。王都で何があったのかは知らないが、蒸し返されるのは嫌な過去のようだな。


「んだコラ猫オイ。Dランクが抜かしてんじゃねーぜ。しかも俺の魔法は腕力強化よ? 力自慢の獣人のお株を奪っちゃってごめーん。魔法も使えない獣人が勝てるわけねーだろ舐めんな!」

「バカはそっち」

「だいじょぶ? あたまのなかにのうみそはいってる?」

「泣かす!ぜってー泣かしたるでかかってこいやあ!」

「いけませんぞ坊っちゃん。今は護衛の任務中です。私闘で影響が出たら事ですぞ」

「そうですよぅ~。坊っちゃんは腕力しか脳がなくて、お膳立てされないとまともに戦えないレベルなんですから、速さが売りの猫獣人相手にひとっつも当たるわけないじゃないですか~」

「泣くよ! 俺いい加減泣くよホントに! いいの!?」


 もう泣いとる。反面ゆるふわメイドはうふふ~と楽しそうだ。主を虐めるの楽しんでないか? まあ、他人の趣味にとやかく言うつもりはないが。


「にげる? 尻尾まいてにげる? 尻尾ないけど」

「子ねずみ並にプライドあるならかかって来る。格付けは必要」

「上等だこら! カイゼンベルクと()る前に肩慣らししてやるよ! CランクがDランクの相手してやるんだ。感謝しろ!」

「Cランク(笑)」

「なんちゃってCランク」

「パーティ討伐数だけは多いですからね~。個人評価は散々なんですけどぉ~」

「ネイメリアさぁぁぁぁーんっっ」


 少年の「俺はやらないぞー」という呟きは波の音に掻き消され、広い甲板に出て手合わせすることになった。

 有能な執事が依頼主に「横の命令系統を明文化するため」という名目で許可も取ってくれていた。依頼主や、他のパーティも見に来たが、すぐに観客は居なくなった。それというのも、お坊っちゃんの攻撃は一切当たらず、猫どもが一方的に攻撃を当てるというのを繰り返すだけだったからだ。

 お坊っちゃんの武器は巨大な戦槌。身の丈程の長さに、ヘッドに巨大な金属塊が付いている。平たい面と、反対にはつるはしのように尖った歪曲があるタイプだ。腕力強化は持続時間がかなり長いらしく、本人も鍛えているので、その武器を軽々と振り回している。

 しかし、動きが雑で大振りなのだ。遠心力も考慮していない、常にフルスイングで手加減の毛の字もない。当たったらどうするんだ? 怪我では済まないように見えるが。

 一応、船に気を遣ってか、横振りだけで甲板に穴を空けたりはしていないが、ヒートアップしたらわからんね。一応、私は見ていようか。

 猫どもも、避けはするが、スペースを広く使ったりはせず、追い掛け回して周りに被害を出すこともない。完全に舐められてる。大振りのスイングを躱したら、また間合いに入っているのだ。お坊っちゃんは足を動かすことなく、また大振りを繰り出す。それの繰り返しだ。

 猫どもは体力切れを狙っているのか、おちょくっているのか、剣すら抜かず、お坊っちゃんの鎧に包まれた右足を集中して蹴っている。お坊っちゃんはその戦槌に相応しい、ごつい甲冑を着ているが、ダメージを完全に無くすことなんて不可能だし、衝撃は伝わる。お坊っちゃんの攻撃は一向に当たらず、向こうずねを蹴られ続け、なんかもう涙目だった。

 それでもお坊っちゃんは泣き言を言わず最後まで武器を振り続け、ついに右膝が言うことを聞かなくなって、バランスを崩して膝をついたところで猫の膝蹴りを顔面に食らってダウンした。バカだけど根性はあるな。弱いけど。

 さっきから猫どもと言っているが、当然戦っている時は一対一だ。ただ、倒れたお坊っちゃんの頭を蹴って起こし、次は私と連戦している。お坊っちゃんはもう、二戦目開始直後から涙目だ。やけくそ気味に武器を振り回し、さっきと同じで右脛のみに蹴りを入れられている。何の対抗策も無いらしい。

 さっきよりも長続きはせず、全く同じく膝をつき、顔面に膝を入れられていた。内容にまるで変化がないから、猫どもと一纏めにしている。


 その後、鼻血どころか前歯が折れてるお坊っちゃんの頭を蹴って起こし、護衛依頼の間はこっちのパーティの指示に従うようにと格付けを済ます猫ども。この世界では、折れた歯の治療くらいなら簡単に出来るようだ。

 お坊っちゃんは顔を真っ赤にしながら了承し、「ちくしょぉぉぉーーーーっっ!!」と絶叫しながら船室に逃げて行った。反面、メイドはにこやかに、執事は礼儀正しく、頭を下げて去っていく。おおらかだな。執事、少年の手を取って「これからも坊っちゃんをよろしくお願いいたします」と頭を下げているが、何かしたか。少年も嫌そうにしてるぞ。

 お坊っちゃんパーティの最後の一人は、手合わせという名の猫どもによるいじめの辺りからいなくなっていた。多分今頃、船室でゆっくりしているところをお坊っちゃんに突撃されていることだろう。強く生きろ。



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