「ブラックなのかホワイトなのか」
冒険者どもの最初の仕事は船に荷物を積むことだ。使えるものは護衛でも使え。守るものを自らの手で扱うことで、紛失を避けよ。との方針らしい。
基本的には全員が駆り出される。人手が多ければ、その分時給がかからない。固定給だが。既に護衛というより人足だな。冒険者にはよくあることだ。ほぼ何でも屋なので。
荷運びをしなくていい例外は、回復職だ。腕力に回すより、疲労回復や事故に備えた方がパフォーマンスに優れる。
今回の船旅、船医のアルパカ獣人が一人に、うちのパーティから少女。世紀末スリーから日焼けスキンヘッドの男が一人と、黒豹パーティから褐色女性が一人の、計四人が砦となる。海のただ中で、人の命を預かるのはこいつらだ。日焼けスキンヘッドは回復も使える戦士で、しっかり荷運びも手伝っている。
褐色女性は攻撃兼回復の完全後衛タイプで、自分のパーティに疲労回復と筋力増強を付与して、扱き使っている。ブラックじゃないのか。褐色だけに。
「ああ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんも待機で構わないよ。怪我したら危ないからね」
ん。私か。別に構わないんだがね、楽をしていいなら。
私を慮るのみならず、小さいのにうろちょろされて、ぶつかられても迷惑だというニュアンスも混じっている。一番強いのは困惑だろうか。扱いかねる。気持ちはわからんでもないがね。
貨物は、コンテナのように規格化された木箱で、クレーンサイズではないが、一人では抱えきれない。私ぐらいの身長では、反対側を持つ相手がいないのだ。
だが、今日の私は面倒臭がりだぞ。何が面倒って、この日差しの下、終わるまで待っていたくない。私も働いて、とっとと終わらそう。
私は木箱を肩に担ぐ。大人が複数で抱えるサイズと重さのそれを、三段に重ねて物質創造。落ちないように接着させる。下ろした後に分離すればいい。
この程度の重さなら、握力に頼らなくともバランスを崩すこともない。仮に力が入りすぎたとて、砕けた木箱は直せばいいのだ。中身が飛び出るより早いぞ。物質創造はコンマかからない。
お陰で斬られたりすると、血が吹き出るより早く服が復元されるので、内側から染みた感じになる。もっと言うと、刃物が通り過ぎた瞬間にはもう直っているので、霧でも斬っているようだ。感触はあるのだが。
面倒が極まり一足飛びに船縁にジャンプし、甲板に下ろして物質創造で接着を解く。船倉に運び込むのは後回しにして、とりあえず全部甲板に積もうと、貨物が積んでいる場所まで跳んだ。私からするとひと跨ぎ程度の感覚だが。
見ると、他の冒険者と船員の作業が滞っている。私でさえ働いているのに、本職がサボるとは何事か。私も出来ることなら働きたくないわ。
真面目に働いているのは、少年ら愉快なパーティ程度で、さっさと船に乗り込んで、私が運んだ木箱を船倉に積んでいる。
「……おら、ぼーっとしてないで、手ぇ動かせ。小さな女の子に全部やらせて遊んでたっていうレッテルを貼られたくなかったらな」
そうそう。少年は良いことを言うな。私だけに働かせるなど許されることではない。許されるなら私は働かないでいたい。
しかし、何故そう、なげやりな口調で、諦めたような据わった目をしているのかね。仕事したくないのはわかるが、やる気無さげにだらだらしているところを見られると、雇い主に評価を下げられるよ?
……何も睨まんでもいいではないか。珍しく私が働いているというのに。足りんと言うのか。まあ確かに大分手を抜いているのは否定しないが。
いいだろう。言った手前、少しばっかり本気を出そうか。私の本気は凄いぞ? 船が原型を留めない。終わったら戻すが。
いや、この日差しの下では休めんから、こうして終わらせようと働いているのだ。何もするなと言われても、何もせずとも不快だから言っているわけで。
ん、もういいのか。じゃあとっとと運ぶぞ。はぁ、だるい。
◆
船は出港した。日差しが強いのでパラソルを作る。風のお陰か飛沫のお陰か、大分マシになったな。これなら船旅の間、グロッキーせずに済みそうだ。
私の目でも陸地が見えなくなり、航行が安定したのか、シロクマ船長がブリッジを抜け出し、私の方に大股で歩いて来た。確かに、二足歩行の獣人というには股下が短い。胴体の長いリアル体型をしている。
「いやぁ、びっくりさせられたぜ。ただの嬢ちゃんじゃなかったんだな」
何の話だ。というか、私のことをただの小娘だと思っていたのか。どうりで馴れ馴れしいと思った。前世では、動物は本能的に寄り付かないから新鮮だったぞ。終いにゃその毛並み、もふもふしたろか。
もっと言うと、冒険者ギルドに出入りしているのがただの子供なわけないと思うのだが。ああ、魔法使いだと思ったのか。エルフと言えば後衛だ。
ん? エルフというのもいま知ったと? 酒場でさんざ私の頭をかいぐりしていただろうが。あの頃のお前はどこに行ったんだ。私とは遊びだったのか。ひょっとして双子の別熊パターンなのか。いや、白熊の見分けなどつかんが。流石に眼帯まで同じ海賊シロクマは見間違えんだろう。
獣人から見れば耳の長さなんて誤差の範囲か。それはお宅が鈍いだけではないのか。いや、私も言われるまで、獣型の獣人と、二足歩行する獣型の獣人の見分けもついていなかったが。えーと、船医のアルパカは二足歩行型だよな? え? 短足の獣型獣人が器用に二本足で立っている? わかるか。
「こんなちっこい嬢ちゃんが、あんなにパワーがあるとはなぁ。魔法ってのは凄いもんだ。がはは」
魔法は使っておらんが、まあいいか。私は否定も肯定もしない。勘違いしたければそれでいい。
どうやら私の所行は常軌を逸しているものらしい。少年にも説教をされた。あれくらいでか、情けない。最近の若い者はひ弱だな。トーテムポールも担げまい。
「しっかしエルフ、エルフね……。んお? じゃあひょっとすると嬢ちゃん、見た目通りの歳じゃねえのか」
「まあな。お前よりは年上であるよ。見ての通りなんで、敬えなんて言わんがね」
「おいおい。確かに冒険者ギルドのキクジローさんと比べちゃぺーぺーだがよ、俺ぁもう80だぜ? 人族よりはいってんのよ」
獣人というのは寿命が長いんだろうか。おっさんと同じくらいかと思ったが、随分年上だ。だのに若々しくてエネルギッシュだ。因みに、初老くらいかと思ってた看板猫は百三十であった。強いわけだ。現役が長ければ、それだけ研鑽は増す。
「そうか。私は三千だ」
「……あ? なにが?」
「今は年齢の話題だったと記憶しているが」
「え、3000って年齢の話題で挙がる数字なのか? 歴史とか経理の話じゃねえ?」
「三千なんてあっという間だ。殆んど寝て過ごしていた気もする」
「え、マジなの?」
「冗談として成立していないではないか。吐くならもっと小粋なジョークにするよ。山海が抱腹絶倒するようなやつを。しまった私に冗談のセンスはなかった。エノレフ先生の来世にご期待ください」
「マジかよ」
「まじまじだ」
流石にシロクマ船長でも受け入れ難いのか、腕を組んで唸っている。私としてはどっちでもいいんだが。難しい表情のままで、私の頭に手が伸びるのはなんでだ? 無意識か?
しかし、髪を軽く叩くにくきうがまふっとしている。不思議なことに、このシロクマの毛皮はもふもふなのだ。潮風に晒されているし、熊は剛毛と聞くが。神秘の種族であるな、獣人。
見た目は普通のシロクマだ。話は少し逸れるが、ホッキョクグマではない。北極にいないので。異世界の言葉で、白い○○という言葉が使われている。この○○の単語が熊系の獣人を示すのだろう。
前に遭遇したくまーは、異世界でもくまーと発音するので、そもそも違う種類だと認識されている。造形は似ているが、くまーはきぐるみのようなデフォルメ熊、船長はリアルシロクマなので、まあ似てないっちゃ似てない。ゴリラゴリラゴリラとアウストラロピテクスくらい似てない。
つまり、くまーは地上最強生物だが、熊獣人は普通の獣人として扱われているようだ。海を渡ってもクマがついて回るのかと思ったよ。
「ま、俺にとっちゃ嬢ちゃんは嬢ちゃんだ。ちっこいしな。がはは! もっと沢山食ってでかくなれよ!」
好きにしてくれて構わんがね。食っても大きくなれんのよ。これでも大食らいな方なのだが。




