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「タナカは異世界でも受け入れられる良い名前です」



 港街に着いた。日程的に、昼前に辿り着くようにしたので、早速料理屋に直行だ。

 いつもは、三日食ってないのか、と言わんばかりの欠食児童ぶりだが、私が調理担当になってからは、道中でもそれなりのものが食えるようになったので、いつもよりおかわりは二杯くらい少ない。その代わりデザートは沢山食ってた。流石に甘味は作れるほど、私の腕前は上がっていない。


 この街から船に乗り、ダンジョンがあるという別の大陸に渡る。

 腹ごなしを済ませて船を見に行くと、高速便で十五日、通常で三十日掛かるという。高速便はべらぼうに高い。

 我々は冒険者なので、通常の、商人と行く、貨物護送ツアーに申し込んだ。要するに商船の護衛依頼だ。それなりに大きい船で、護衛も四パーティ募集していた。

 ……というか、帆船じゃないんだな。船底には魔物避けが施されていて、いざと言う時は高速船にも使われている加速装置で後続を引き離すと、ふーん。ふーん?

 まあいいか。気にすまい。貨物室には保存の魔方陣があり、長旅でも安心。私は基準がよくわからないのでそんなものかと思っていたが、おっさんが言うには相当お高い船らしい。流石に軍艦とまではいかないが、有事の際には輸送船として運用される代物だそう。

 護衛の募集要項も、Dランク以上のパーティとされている。それが凄いのかはわからないが、DとEには大きな壁があるんだとか。少女なども、討伐に対する貢献は素晴らしいが、単身での戦闘力もなければD以上にはなれないらしい。

 パーティ単位にした場合、例外はあるが、通常適用されるのは過半数を越えたランクとなる。うちは少年がC、猫どもおっさん私がD、少女がEなので、過半数がDランクのパーティ『少年と愉快な仲間たち』だ。

 これが、『レッド・オーガのデコイとなった、空気の読めないDランク冒険者が率いるパーティ』だと、一人のDランクと複数のEランクなので、Eランクパーティ。白い少女の青眼(ブルーアイズ)は、三人ともCランクなので、Cランクパーティとなる。

 ここで例外だ。固定メンバー、パーティ単位で依頼をこなしていると、当然それは周りにも認知される。功績を上げ、ギルドの覚えも良くなれば、パーティ単位で○ランク相当と認可されることがあるのだ。当然、それは情報のやり取りをしている世界中のギルドで適用される。

 具体的に言うと、Cランクの冒険者カイ率いるパーティ『少年と愉快な仲間たち』は、その戦果から、Cランクパーティ相当である、とのお墨付きを貰っており、事実、ギルドカードにもその記載がある。

 これは実は珍しいことではない。Cランクの冒険者の数はそう多くない。いっぱしを越えた大ベテランの域に達しており、それと組んでいるのだから周りの練度も高い。後は結果が全てだ。Cランクにまでなった冒険者は、そうそう下手を打つこともなく、殆どのCランク冒険者の所属は、過半数は満たしていないけど、戦力的にはCランクパーティになっている。

 人数とはどうなんだろうな。二十人くらいを纏め上げることが出来るなら、高難度の依頼達成も安定するだろう。

それはパーティとして認められるのか。収支は知らん。


 出発は十日後。それまではギルドで手頃な依頼を受けようと、少年と愉快な仲間たちは、港街の冒険者ギルドへと足を向ける。

 道中、私は白い少女との会話を思い出し、少年へとあの提案をすることにした。


「少年、このパーティに名前はないのか? いつまでも、『少年と愉快な猫ども』では呼び難かろう」

「いつそんな名前がついた。やめてくんねーかなー、そういうの」


 何やら少年の歯切れが悪い。少年はこういうの、好きそうだが、はて。その疑問に代わりに答えてくれたのは、酸いも甘いも一緒に経験していた猫どもだった。


「カイもチーム名は沢山考えてた」

「でも、あまりにセンスが悪くてみんなから総スカンを食らって不貞腐れた」

「有名になったパーティは、自然と呼び名がつくこともあるらしい」

「カイは無謀にもそれを目指してる」

「他人からの呼び名なんて、どうせロクなことにならないのにね」

「ねー」


 なるほど。少年らしいといえばらしいか。確かに無謀だな。私のようなものが、面白おかしくする可能性の方が高い。


「参考までに、少年が提案したのはどんなだったんだ?」

「聞くか? 聞きたいか? 最高に格好いいのにみんな理解してくれないんだ。ズバババシュバッサ団とか最高にイカして」

「ないな」

「ないわー」

「ないわー」

「ぐっ……、じゃあ勇気100倍希望に胸躍り隊は」

「ないな」

「ないわー」

「ないわー」

「虎の子だ! スーパーウルトラグレートハイパーメガミラクルワンダフルグレートすごいタナカ!」

「ないわ」

「ないにゃー」

「ないにゃー」


 日本語アーティフィシャルエルフィックテキストを使いこなすんじゃない。なんだ? モヒカーンといい、お前の大好きな勇者ヨウからもたらされたのか? 田中ヨウだったりするのか?

 タナカはともかく、かつての勇者パーティの一員だった、筋骨隆々のモヒカン戦士が、モヒカーンと呼ばれていたことから、モヒカーンは『強き者』『偉大な戦士』という意味がある言葉として世に伝わったらしい。あの髪型は、一部の男たちから絶大な支持を受ける流行ファッションだとか。戦犯だな。

 私と猫どもから門前払いを食らった少年は、並んで歩くおっさんと少女にすがる目を向ける。が、まるで擁護出来ないとあっさり逸らされた。少女は苦笑い、おっさんは『そんな名前で呼ばれることになった日にゃ、恥ずかしくって表を歩けん』と渋面だ。少年の感性に合う味方はいないようだ。喜ばしいことに。


「少年、私からも却下だ。それはない」

「くぅ……、ちくしょう、何がいけないんだ」

「長い。短縮しろ。二文字くらいに。『タナ』までなら可」

「そこなの?」

「冒険者パーティ、『タナ』。近日公開」

「俺が悪かった……」


 これどうしようもねぇな。少年は除け者にして、何か良いパーティ名はないものかと会議したが、なかなか意見がすり合うものがなかった。主に私の「呼びやすく二文字くらいで」が足を引っ張ったので。

 だって……あんまり長いと、『少年ら』でよくない? と思ってしまうのだ。痛し刀死(いたしかたなし)

 猫どもに至っては『エル』でいいんじゃない? とか言い出す始末。私の名前……というか、呼び名と被ったらややこしいこと山の如しだ。無茶を言った私が悪いのだけれど。

 おっさんはこういうの苦手らしくて、役に立たない。猫どもから出てくるのは、『縁側』『おコタ』『しっぽ』『ごはん』『カイ』など、脊髄反射で言ってるとしか思えない単語。猫か。

 少女なんかは「胸がどきどきするような冒険の日々で、辛いこともいっぱいありますけど、みんなといると楽しくて、ほわほわするようなあったかい気持ちになれるんです」と、なにやら抽象的だ。もう面倒だから『おコタほわほわタナカ』にするか、みんなの意見を擦り合わせて。いかん、私の意見が反映されてない。略して『オワタ』だな。Cランク冒険者パーティ、『オワタ』! やめよう。


 総合会館はスルーして、いつも通り酒場から、軽く挨拶しながら入る。魚くさい。肴は魚か。そのまんまだな。

 港街だけあって、男どもは日に焼けて浅黒く、筋骨隆々で熱気が凄い。海の迷信はないのか、女性も多く見られるが、どいつもこいつも女海賊みたいな容姿で、男以上にガタイがいい。どこの世界も女はたくましいな。あまり長居したくない酒場だ。

 足早に冒険者ギルドに入ると、そこには普通の受付嬢と普通の女性冒険者がいて、一気に清涼感を増した。どうやら、それには理由があるようだ。

 カウンターの一つ、職員の代わりに、一匹の三毛猫が鎮座していた。トップスには『看板猫のキクジロー君』とあり、『ギルマス』と書かれたタスキを掛けている。

 女性冒険者は、酒場なんかより、キクジローに夢中のようだ。猫じゃらしを振っているが、キクジローは気怠げにあくびをして、尻尾の先をおざなりに振っている。そんなつれない態度がまたウケているようだ。猫好きの心かな。


 私は猫どもの様子を見つつ、看板猫をスルーして依頼ボードに向かう。特段面白そうな依頼は無さそうだ。当然だが。

 そんなわけで、少年は持ち前の社交性を発揮して、受付嬢に最近の景気を聞きに行く。冒険者なら、依頼の傾向でもある程度わかるが、はじめての土地では、こうして地元の人間に聞くのが一番だ。何が採れやすいだとか、何が不足しているとか、何の被害が多いだとか。

 少年はそういう、わりに合わないんだけど、誰かがやらないといけない依頼が好きだ。ボランティア精神は半分。そうやって人に親切にすることによって、自分が目指している勇者に近付けるという自己満足が強い。感謝は承認欲求を満たす一番の薬である。

 夏になるとスティングレイの巣分けが増えて、街の近くに来られて困るんですよーといった会話を後目に、私は看板猫の方に行ってみる。……ハチかな?


 看板猫は伏せったまま片目で私をちらりと見遣り、挨拶でもするように尻尾をぱたりと倒す。私はその様子をじーっと見ている。耳とヒゲがぴくぴく動き、無関心を装いつつも、猫らしい見極めをしているのが見て取れる。

 私の見た目は子供と変わらない。看板猫に猫じゃらしを向けていた女性冒険者が、新しい仲間がやって来たと思ったのか、何故か私に猫じゃらしを振って来た。どうせよと言うんだ。とりあえず手を猫の手にして、いや、これは肉体変化ではなく、料理でよくする、指先を丸めたあの手だ。その猫の手で、猫じゃらしを払ってみる。

 もちろん手加減はしている。本気でやったらエノコログサなどぱーんだ。これで満足か。女性冒険者はきゃあきゃあ言いながら、満足したのか看板猫との間を空けてくれた。私は小動物ではないのだがね。

 女性冒険者に遠巻きに見られながら、私は看板猫と向き合う。正確には、目を閉じてそっぽを向く看板猫の横顔をじっと見詰める。


 少年は街の周囲を見回って、スティングレイの巣が近くに出来ていないか調査することにしたらしい。スティングレイは、腕っぷしだけで冒険者を志したごろつきとは致命的に相性が悪い。しかも、巣となると兵隊エイがわんさか出てくるので、厄介な相手だ。魔法で纏めて駆除すると食べられないし、安全と収穫を両立しにくい。

 ただ、少年らのように、余裕を持って相対出来るなら、美味しい相手らしい。卵も幼性体もそれぞれ需要があるのだ。ハチだな。

 向こうの会話を耳にしながらも、意識は看板猫から外さない。無言で、じーっと横顔を見詰めていると、圧を感じるのか、看板猫は居心地悪そうだ。

 それでもなお、看板猫に視線を注いでいると、頬を汗が伝っていく。冷や汗というか、プレッシャーに堪えきれなくなった時に表現される、あれだ。馬脚を現したな。猫なのに。

 やがて観念したのか、そいつは私を見て、ため息交じりに口を開いた。


「そんなに熱い視線で見詰められると、吾輩穴が空いてしまいますにゃあ。何か御用ですかにゃ? 美しいお嬢さん」



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