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「煮付けも美味しくいただきました」



 食事を終え、諸々片しながら少年らと情報のすり合わせをする。

 物質創造した鍋はずく鉄に戻して、きゅっと圧縮して巾着袋に。皿に使った木も同様に。この度空中揚げ物を実装したので、仕舞う調理器具は煮込みに使ったものだけだ。

 汚れの類いは素材レベルに戻した際に、設定していないので付いて来ない。とは言い条、消滅しているわけではないので、微生物がそうするように、物質創造で分解した状態を生み出して自然に還す。

 少年らの方は特にこれと言ったイベントはなかったらしい。昼は取らずに半ロバ馬を走らせ、日が暮れる前に野営をはじめて保存食を掻き込み、人よりも、頑張って貰った半ロバ馬の世話を重点的にやった。野菜も街で買ったばかりの新鮮なものだ。

 急ぐ予定があるならいざ知らず、平時から馬に無理させるのはよくないが、馬力に定評のある、どっしりとした半ロバ馬にはこれくらいわけないそうだ。


 少年らは私が街で何をしていたのか気もそぞろだったようだが、こっちも別にこれといったことはない。食べ歩きに付き合わされたと言ったら猫どもに拗ねられた。一人だけ良い想いしやがってと。代わりに朝飯食わせたからいいだろう? もうブランチか。

 移動時間を短縮出来たら街で食べられるんだが、まあ、身の丈にあった移動をしなければ、困るのは冒険者の方だ。電車で移動して、車中から見える店にお使い行って来いと言われて、行ける人はそう居ない。自分の足で歩き、目で見て理解しなければ、地の利は得られない。世界は地続きなのだから。

 少年らは私と白い少女の関係性を知りたがったが、なんと言うべきかな。とりあえず、「会うのははじめてだが、共に同じ文化に造詣が深い同好の士」と言ったが、納得はして貰えなかった。煙に巻いているつもりはないのだがね。持って回った言い回しは生まれつきだ。

 彼女が人化した竜種であると告げると、驚かれたが得心いったようだ。

 仲間内で話し合う単語の中には、長寿、古代遺跡、先史文明だのが出てきたが、まあ勝手に勘違いする分には構わない。

 私は考古学キャラではないのだけれど。千年前の匂いに興奮して濡れたり、金のために遺跡を荒らす盗賊の生皮を剥いで、高笑いしながら火炙りするような寄特な性癖はしていない。千年前なんて、ついこの間だしな。


 白いのに漏洩の確認はとっていないので、私がばらしたことは秘密にして欲しいと頼んだが、竜種がこっそり冒険者をやってるなんて知れたら大混乱に陥るので、元から漏らすつもりはないようだ。

 レアものなのか。白いのの話では、こっそり王城で御馳走を食ってるらしいので、存外そこらじゅうに紛れている気がしたのだが。市井には情報が降りて来んか。


 半ロバ馬にトウモロコシを食わせていると、猫どもからお声がかかる。なんだ、折角嫌われている私がこうして媚びを売っていると言うに。ほーら、たんと食べてよく肥えるんだよー。

 おや、逃げられた。何故(なにゆえ)に。


「エル、お水ちょうだいお水」

「暑い。さっぱりしたい」


 贅沢を覚えてしまったな。我慢は出来る子だから、いいか。


「ごはん食べたし、風呂にしようか」

「わぁい」

「エル、あいしてる」

「おい……風呂まであるの? というかこの家、なんなの?」

「風呂くらいあるに決まっているだろう? 煙突が見えんのか」

「そこじゃなくてな。なんで遅れて出たお前が先にいて、風呂付きの家でゆっくりしてんだって話をだな」

「ゆっくりはしていない。先に食事にしようと思って」

「違う。そこじゃない」


 少し試したいことがあるので、猫どもには待っていて貰う。

 簡素なログホームだ。私自身が手ずから作った。作業工程もソラでなぞれる。つまり、物質創造の作成条件は満たしているということだ。

 丸太小屋につかった木材や真鍮、ガラスを物質創造で一纏めにし、小さく圧縮する。流石に大きいので、ビー玉くらいのグラデーションが斑な球体になった。

 この材料を使って物質創造を行い、丸太小屋を作り出すと、先程きゅっとする前となんら変わらない代物が、目の前に出来上がる。

 成功だな。ポータブルホームが出来た。なんかカプセルから家が出てきたり、ボールから動物が出てくるアニメを思い出した。

 一連を見ていた少年が一つ頷く。


「よし、もうお前のやることに疑問を持つのはやめるわ」

「諦めるなよ。人生とは死ぬまで探求だ。お前がつっこまなければ誰がつっこむんだ」

「誰のせいだ誰の! もーいい、もーつっこまないからな!」


 少年が意固地になってしまった。それほど心配はしていない。今後も煽っていけば堪えきれずにつっこむだろう。

 最初に作った1R(ワンルーム)と、風呂場は別にしてある。こうするつもりで、渡り廊下で繋いでおいた。

 トイレ、脱衣場、浴室のエリアも、丸太小屋と同じように圧縮と再現を行い、出来を確かめる。こっちは排水溝があるので、地面に空けた穴だけ残った。

 満足のいく出来に仕上がったので、トイレと排水溝用に空けた穴に合わせて、風呂場を物質創造し直す。


「さて、風呂にしよう。全員で入れるほどの広さに作ったが、少年とおっさんはどうする?」

「エル、流石にみんないっしょはやだ」

「カイとミヤたち、フランツとアリッサにわけるべき」

「男女で分けろー!」


 少年がまたつっこんでる。猫ども相手なら健在であるな。あと、それで分けると私が仲間外れになるのだが。私は見られて気にするほど若くはないが、流石に目の前でおっぱじめられると困る。空気読み的な観点で。

 結局男どもは入らず、女四人で風呂に入ることになった。少年も風呂嫌いというわけではないのだが、機会に恵まれないな。街では金が勿体無くて、今は真っ昼間から時間を掛けるより、少しでも歩みを進めたいらしい。今日の野営の時には風呂に入ると猫どもに約束させられたが、こっそり混ぜていた、いっしょに入る約束は即座に看過されていた。ガードが固いな。

 浴槽に湯は張っておらず、猫どもの耳と尻尾がテンションダウンするアクシデントはあったが、元々湯沸かし機能など付いてはいない。水分操作で地下水を満たし、同水分操作でお湯にするだけだ。時間は掛からないが、私がやらねば風呂には入れない欠点がある。この浴室自体、私が居なければ物質創造出来ないのだから、関係ないと言えばないのだが。

 追い焚きも継ぎ足し機能もないが、私が片手間でやる。それこそ湯水の如く使ってくれて構わない。

 アメニティは課題だな。木桶やタオルくらいなら自分で作ったのがあるが、シャンプーまで浴室に設置すると、物質創造した際の処理がはね上がる。幸い、構造は知っているので出来なくはないのだが。

 ただ、私は物質創造の処理限界というのを感じたことはない。丸太小屋とは言え、家一つを物質創造しようとは思わなかったし、やろうとも思わなかった。実際にやってみると、大した苦でもない。これも異世界マジックかな。気が大きくなっているのだろうか。


 余談ではあるが、物質創造は私の能力というか、種族柄大なり小なり使える。私たちの着ている服は、大抵自身の作り出した身体の一部のようなものだ。だから、死ぬ時には同じく灰となる。

 向き不向きがあり、それが得意な者は幻の館を作って客をもてなし、命辛々逃げ出して振り返ると、そこには崩れた廃墟が広がっている~なんて演出もして見せる。日本では、たぬきかきつねに化かされた、というんだったか。流石に私たちは自称高貴なんで、糞とか食わせたりはしない。


 あれ……でも、所詮幻は幻で、素材を元にして、現世に顕現させられる奴はいないんだっけ。……まあいいか。どうせもう私しかいないんだ。私だけが多数派よ。


 風呂から上がって浴室を仕舞い、水は持ってきたとは反対に、地面の下に持っていく。水捌けは大丈夫だろうか。旅の恥はかき捨てでいいか。

 少年は、誰かここを通ったら、なんて言い訳をすればいいんだ、と頭を抱えていたらしい。幸い誰も通らなかったが、今夜からは街道から離れた場所に家を作るべきかな。堂々としてればバレないと思うが。

 結局手頃な移動手段は思い付かなかったので、少年らの半ロバ馬に、車輪付きの板で並走する。今回も物質創造で街道を均しながら。途中からの半端な仕事ですまない。ガタガタするのに耐えきれなかっただけなんだ。

 それからこれといった出来事もなく順調に進み、明日には街に着くという、人間のレンジ内。潮の香りが強くなって来るなか、最初に魔物に気付いたのは目の良いおっさんだ。


「このままの速度で行くとスティングレイとかち合う。この距離ならやり過ごせるが、どうする?」


 おっさんが口にしたのは私の聞き覚えのない単語だった。どんな魔物か詳しく聞くと、『平べったい魚』『尾に毒針がある』などの情報が入って来たので私の頭の中でスティングレイと翻訳しておく。ヒラメやカレイの可能性もあるけど、見ればわかるだろう。


「おっさん、その魚は『手頃な相手』か?」


 おっさんは私の言いたいことを正しく理解した。背中に付けた少女の身が強張ったことを。

 おっさんが頷き、少年からゴーサインが出て、そのまま警戒体勢で街道を進む。間もなく魚特有の生臭い匂いを感じ、視界にもそれが見えて来た。

 エイだ。三匹いる。なんか緑色で、逆さまに浮かんで空から下を見ている。ヒレがびらびらしてスカイフィッシュのようだ。や、見たことはないんだけど。

 緑色なのは迷彩だろう。草地に潜んだり、森で遭遇すると若干見辛そうだ。魚が空を飛んでることについてはつっこむまい。魔法がある世界だ。どうやって飛んでいるかなど愚問である。これが本当のトビエイ……いや、なんでもない。

 ただ、魚臭いというのは食性によるものだ。ペンギンが臭いのと同じく、海のものは大体臭い。同じ匂いがしているということは、あのエイも海の中のものを食っているということになるのだが、何故空にまで進出しているのだろう。エサが足りないのかな?

 日本の猫なんかは魚が好きというが、私は生臭い匂いがあまり好きではない。鼻が良いので。ただ、同じく嗅覚に優れた動物が気にしていないので、強い匂いというのは野生ではむしろ魅力なのかも知れない。犬やブタなんかは、散歩中に落ちている腐海を平然と食べるし、気にするのは人間くらいなものか。

 エイはエイヒレが旨いらしい。取れたてを刺身で頂けるとか。何事も挑戦だな。


 少年の視界でも捉え、半ロバ馬から降りて走り出す。黒猫、おっさん、少女が続き、白猫は馬を見ている。繋いでいないのは、不意に魔物に襲われた時、独自の判断で逃げて貰うからだ。

 品種改良のお陰か、半分ロバみたいな馬は賢く、危険に逃げ出しても、また乗り手の元に戻って来る。態度の悪い乗り手相手には戻って来ず、馬をロストした違約金を払わせた後、しれっと元の街に顔を出したりする。

 

 緑エイもこちらに気付いたようだ。尾の中程に生えた毒針を背中側に反らせ、必死にこちらを威嚇する。逆さまになっているので、構図としては尾針を向けるハチのようだ。違うのは、尾はムチ状にしなるということか。

 返しのあるノコギリ状の尾針は刺さると抜けないし、毒は激痛を伴い、下手すればショック死だ。油断が出来る相手ではない。早速一匹おっさんの矢に射抜かれて墜落したが、油断してはいけない。

 弱点は柔らかいお腹らしい。通常のエイは海底を腹這いになって隠しているが、異世界緑エイは、弱点を天に向けているので地を這う人間どもの攻撃は届かない。おっさんのように、弓を曲射でもしない限りは。

 おっさんが一撃で仕留めたエイに近寄って、尾針を根元から切り取っておく。これで取れたてぴちぴちの食材一丁上がりだ。魚の血は生臭くて好きじゃないが、一応血液操作で奪っておく。食べ物は無駄にしない主義です。

 んー、でも、人間って魚の血抜きはしないんだっけ? 血合いが好きとかいう通もいるらしい。大型魚なら抜くのかな?


 そんな感じで舐めているが、少年と黒猫は緑エイを引き付けて苦戦中だ。相手が飛んでいるだけならカウンターを狙えるが、なんと緑エイは尾針から針のようなものを飛ばして遠距離攻撃をしている。ひっきりなしの連弾で、地面に当たると刺りはせず、軽く弾けて土を(めく)った。さしずめヘリの機銃か。これは相性が悪い。

 おっさんに聞くと、あれはスティング・レイという魔法弾だそう。なるほど、魔法か。その発想はなかった。

 しかし、物理攻撃でないのはまだマシか。毛虫なんかには微細な毒針をクラスターする厄介な輩もいる。クラゲだってもっと性質の悪いやつはごまんといるだろう。無毒な魔法弾など、良心的ですらある。

 黒猫はこちらの魚の処理が終わったのを横目で見た後、ふともものホルスターから抜いた、スローイングナイフを緑エイの目の間に正確に突き立てる。どうやら手こずる相手では無いらしい。途切れることのない魔法弾を、軽く躱しながら、余裕の投擲だった。

 急所を撃ち抜かれた緑エイも墜落し、後一匹。少年は何か考えがあるのか、剣も抜かずに回避に専念している。

 やがて緑エイも焦れたのか、尾針から魔法弾を発射しながら、戦闘機の如く突撃して来た。迫りながらばら蒔かれる連弾に、流石に回避しきれないとロングソードを抜いた少年は、刃で魔法弾をいなし、交差する瞬間、緑エイの尾を切り捨てる。

 エイの毒針は矢毒にも使われる。つまりは売れるのだ。黒猫が始末した方も、尾ごと根元から抉り取る。毒針は一本ではない。長いのは一本だが、オコゼのように尾から数本生えている。

 ちなみにだが、私はエイの毒が効くほど軟弱な身体はしていないので、自前の爪で安全に処理をした。


 魚は意外としぶとい。尾を切り離されてもびっちびっち暴れている緑エイに、少年は少女を呼ぶ。

 厄介な武器は奪った。ちと死にかけだが、これは少女用の練習相手なのだ。

 魔法に関しては私に一任されている。私は緑エイを指差し、少女に告げた。


「練習だ、少女。殺せ」


 私は前世で疑問に思っていたことがある。サブカルなんかで出てくるキャラクターの設定だ。

 『虫一匹殺せないような優しい女の子。家庭的で料理上手』

 いや、それ両立出来ないだろう。料理をするということは、生き物の死骸を切ったり叩いたり焼いたりすることだ。魚を三枚に卸せずに料理上手を名乗るのか。綺麗事で料理は出来ん。豚バラ肉とか普通にグロいし、ハンバーグを手ごねしている時の感触は筆舌に尽くしがたいものがある。

 ベジタリアンなら大丈夫? 花を摘み、地面から根こそぎにされても植物なら心は痛まないと? 自分が摘み取った命ではない? それこそ詭弁だ。自分が手を下したわけではないから、生き物の肉をどう嬲っても構わないとは。


 生きていくことは殺すことだ。少女にだってそれはわかっている。冒険者として、何度となく魔物と戦っている。この苛酷な世界で、自分の身を守るために。生きるために。

 少女は優しい。傷付ける力ではなく、人を癒すことに注力し、志してきたことも、正しいし、間違ってはいない。

 だが、それでも。自分が生き延びるために殺す命の全てを、人任せにしてはいけないと私は思っている。


 

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