「生活を見直すことにしました」
私は目を覚まさなかった。
正確には、まだだ、この程度ではまだ終わらんよの精神で惰眠を貪っていた。いつかは私も目を覚ますだろう。しかしそれはいつかであって今ではない。私の惰眠はまだ終わっちゃいないんだ。
……わかっている。こうして、つらつらと思考をしている時点で負けているようなものだと。
原因はやはり、窓だろう。日が昇る度に環境が変わるのは思った以上にリソースを使う。微睡みに集中が出来ない。まだ六日しか経っていないと言うのに。
それと……なんだろうか。あまり良くない臭いがする。憧れの丸太小屋ではあるが、もう少し手入れが必要だろうか。部屋の隅に転がしたうさぎのトゲの所為ではあるまい。
私の睡眠を妨げるものは取り除かなくてはならない。そろそろと起きよう。今がその時だ。
物質創造した毛布から抜け出そうとして、ふと気付く。……汚れている?
布団を抱き枕にしたり、噛んだり、涎を垂らすような趣味はない。これでも寝具には敬意を払い、最低限気を使っているつもりだ。マジ布団さんリスペクトっす。この汚れはなんだろう。知らない内に小屋に野生動物でも入り込んだか?しかし、私が気付かない訳がないよな……。
私が気付かない。野生動物。
そこまで考えて、その可能性に思い至る。
まさか、臭う野生動物って、私……?
自分の手首を顔の前まで持ってきて、その匂いを嗅いでみる。なんてこった。野良犬みたいな臭いがする。
これは由々しき事態だ。まったく気付かなかった。
考えてみれば、人間は新陳代謝をすれば垢も出る。寝ているだけで汚れていくのだ。トイレに関して言及すると、丸太小屋を作った初日にちょっとばかし本気で物質創造を行い、便器の下、縦に掘った井戸に、横に掘った下水路を繋げ、圧力で流して排泄物をフィルターに通して濾過して自然に還す現代並みのシステムを確立したので問題ないが、水浴びの必要性を考えていなかった。
だって……、トイレは必要だ。私は物質創造がなければ人里に下っていただろう。文明大事。排泄物を過度に忌避するのは人類くらいなものだ、とある有袋類なんかは子育てに排泄物を食わすくらい自然界では珍しくないことだと仰せども、人間の排泄物を路上に投げ捨てていた時代はあまりに不衛生で病気が蔓延していたし、忌避感は人類が生存するための本能だと訴えておく。古来から綺麗好きで、水と共にあった日本人には無縁かも知れんがね。
閑話休題。生活排水はその濾過水路に流せば良いのだし、川で水浴びをするよりも、身体洗浄システムを作る方が有意義である。
つまりは風呂。現状で現実的なのは、無駄にわくわくする響きのドラム缶風呂である。
……ドラム缶を物質創造するのと、木材で浴槽を作るのどちらが簡単だろうか。しかし、木材を火で炙ったらダメだよな……。
ドラム缶とは言うが、材料はドラムではなく鉄の筈だ。流石にドラムから作れというのはかなり厳しい。私に音楽的センスはない。
で、鉄の材料は酸化鉄……。地面に埋まっている鉱石だ。しかし、例によって見分けなど付かない。星の中心核まで行けば石を投げればぶつかるぐらいにあるだろうが、流石に生還は出来まい。私はか弱いのだ。
ドラム缶風呂は泣く泣く諦める。人里に行けば鉄製品はあるだろう。或いは、旅人でもなんでも通るところなら落とし物が残っているかも知れない。どんなに朽ちていようが、物質創造ならリサイクル出来る。
今は諦めるとして、現実的には木枠の浴槽か。なら中身はどうするか。
候補1、別にお湯を作って流し込む。
候補2、直接火を当てないように炙る。
候補3、何か熱いものを浴槽に入れる。
ここに候補4の、諦めて水浴びをするが加わるわけだが……。どうせなら拘りたい。やってから諦めよう。具体的には、作ったはいいが手入れや準備が面倒で使わないまであり得る。
さて候補1だが、これは結局直接炙る器が必要になってくる。直接火を当ててもいいのなら、浴槽の一部、ないし注げるようにすれば同じことだ。つまり候補2と被る。
出来るだろうか。火を当てても大丈夫そうなのは……石?耐久性は大丈夫だろうか。急激に熱して、お湯が冷めたら割れそうで怖い。
候補3、熱いもの……考えたのは件の石だ。焚き火で熱した石を浴槽にどぼん。ぐつぐつ茹だって私はシチューか。まあ水の量を調節して適温にするしかあるまい。維持出来ないから冷めるのが難点ではある。これが一番原始つ的……もとい、現実的かな。なんとも情けない。
湯そのものを用立てられれば簡単なんだがな。自然に湯があれば……地熱……温泉……。温泉。
あー……、温泉か。その発想はなかったわー。今更気付くとは……。棲み家予定地も水辺より湯が湧くところの方が良かったかも知れん。いや、早計か。個人的に暑くて蒸し蒸ししているのは好きじゃないし。
火に当てるものと言えばレンガだ。レンガは土を焼いて作る。元々暖炉を作るつもりはあったのだし、風呂焚きに転用しても問題なかろう。
暖炉を作るくらいのレンガとなると、レンガを焼くための釜が欲しくなる。まずは、釜を作るためのレンガが必要になり、釜を作るためのレンガを焼くためのレンガの釜が……おや?
なんだかよくわからなくなってきた。レンガについては正直よくわからない。粘土をこねて作るだとか、最初は土を固めて焼くとか、その程度だ。
粘土質の土で物質創造すればレンガも出来そうな気もするが……。
こういうのは、手作りだから愛着が湧くのだろう?この家だってそうだ。ガラスは物質創造したが、他は全て手掘りで、自分で組み上げた。それが手作りというものだ。トイレのことは忘れろ。
市販のチョコを砕いて溶かして精製し直したものは手作りチョコなのだ。家を手作りしたいからといって、森から育てるのは流石に無理だ。家向きの木材になるよう品種改良するほど私の気は長くない。
つまり、大まかに考えて、風呂のためには木材で浴槽を作り、土を焼いてレンガを作る必要がある。その他、利便性を考えたら細々としたシステムも。
……。
よし、水浴びをしよう。汚れたままで居たくないので。




