「窓が欲しくなりました」
両耳のトゲは回収。耳も食べる。もふもふこりこりで悪くない。栄養はなさそうだが。
森を歩きながら狩りを続ける。今度は小石でなくトゲを使って弾く。というか、弾ける。
最初は加減が難しくって弾いてしまったが、何度か繰り返す内に慣れてきて、今ではトゲを使ってうさぎの首を刎ねる事も出来る。正直やり過ぎた。
うさぎ一匹につき両耳のトゲ二本が手に入るので、一本使っても手元に一本残る。そうやって数が増え、五十本分のトゲが手元にある。
余談ではあるが、私のうさぎの数え方は一匹二匹だ。だって、うさぎは鳥じゃないもの。
道中、うさぎ以外にもリスやネズミ、タヌキにキツネ、イノシシやシカ、小鳥やフクロウ、ヘビにトカゲにカエル、そしてもちろん多量の虫と、多種多様な生物も見付けた。食ったのはうさぎだけだが。なんというか、そんなテンションだった。
結構な距離を移動し、日も暮れて昇ってしまったが、胃袋もいい加減満足しただろう。これでまた眠りについても文句は言わせない。
しかし……腹が減る度に狩りに出るのもな。保存食……干し肉……塩か。
塩……塩湖なんて都合のいいものはないだろう。海まで何マイルあるのかも不明である。岩塩?……岩塩ってそもそもなんだろう。食べられる岩?まあ、世界にはミネラルを得るために土を食う国もあるし、そんなものなのだろう。
……いいか、面倒くさい。腹が減ったら狩りをする。古式床しい人類の基本スタイルである。土はあんまり美味しくないし、地面を掘って塩が出るというのはあまり期待出来ない。
さて、腹は満たせた。睡眠も取った。そろそろ動こう。少しだけ。
私の作った家……、家、だが。素人が作ったものだ。頑丈さには自信があるが、正直良い出来とは言い難い。
ドアをはじめとして、窓もないから、見た目からしてもう家には見えない。良くて倉庫とかその辺りだ。しかも屋根は、作り直すからと一部分接合が甘く、その気になれば開く事も出来る。
これはもう家とも言えない。箱だ。私を入れている自称宝箱のガラクタ容れだ。
なんとかせねばならない。正直暮らせなくはないが、洞穴とどう差があると言うのか。折角作ったからには胸を張りたい。見栄を張るのは他でもない自分に。私が文明人だと証明しよう。
見栄えの良い家のため、欲しいのは窓だ。理想の窓にはガラスが不可欠となる。つまりガラスを作らなければならない。
ガラスの材料は砂と石。細かく言うなら石灰だのシリカだの……詳しくは覚えてない。ナトリウムも必要だったかな?まあ、川原の石で足りるだろう。足りなければちょっと疲れるだけだ。
川まで戻って、川原の石と砂を集める。光る砂……クォーツはあまり量がない。これは疲れそうだ。
ちぃとばかし動こうか。正味、私はこれがなければ、面倒を承知で人里に下りるか、不便を受け入れて洞穴で原始生活を送っていたことだろう。
秘奥、物質創造。
仰々しい名称ではあるが、無から有を生み出す奇跡のような法ではない。
出せるには出せる。今来ているこの服や、寝る時に使った寝具のように。しかし、言うなればこれは質量を持った幻のようなもので、私の身体を離れた瞬間に雲霧の如くだろう。幸いにして寝相は良い方なので、寝ている間に枕を失うという事態は避けれている。
自分の手のひらだけにある窓など意味がない。幻を現実にする為には、それを構成する物質が必要となる。
ガラスであるなら石と砂。服であるなら綿や麻。
まるで錬金術だと言ったやつがいたが、こんな力業と一緒にすると、世の錬金術士が助走つけて殴るレベルなので止めて欲しい。以前、興味があってかじったことがあるが、あの学問は芸術的と言って過言ではない美しさだった。まあ、創作であるなら力業も嫌いじゃないけどね。錬金術師とか、陰陽師とか。
おまけではあるが、私は蚕の生態も目で見て調べ上げたので、蚕のエサの植物があればシルク製のものも作れる。
昔馴染みのクソオカマなんかは、能力の拡大解釈などと呆れていたが。その蚕は大層な偏食家で、桑しか食べない事を知って、『桑の葉からシルク製品を造れる』という、凄いんだか凄くないんだかという特技に落ち着いた。
ふむ、能力の拡大解釈か……。当時はアホらしいとしか思っていなかったが、こう、異世界に来ると夢というか、可能性が広がる気がするな。
この世界が、元の世界でよくあった異世界への移動ものと同じように、いわゆる剣と魔法の世界であるなら、この世界へ来た時点で私にも何らかの変化が起きているかも知れない。
魔法か……。憧れないと言ったら嘘になるね。
まあ、今は夢物語より現実の労働だ。ガラスを作ろう。
石と砂を使って物質創造を行う。満足のいく純度が出来上がらず、失敗作を作っては気にいらーんと叩き割り、それを元に新しいガラスを物質創造する。何故割るのか?様式美である。
はめ殺しの丸窓もお洒落で素敵だと思うが、今回は換気も考えた四角窓を目指す。念のため三面、計六枚の硝子板が欲しい。
少々疲れたが、気泡や歪みのない透明な硝子板が完成した。後はこれに合う木枠を作り、丸太箱の壁を削って取り付けるだけだ。もう日が暮れている……。いや、この疲労がより良い睡眠を産むのだと考えよう。
窓か……、窓があると日が差し込む。となると、安眠の為には遮光、カーテンも欲しくなる。
恥ずかしながら、綿や麻といった植物の見分けは付かない。桑の木ならわかるが、今回の探索では見付からなかった。
能力の拡大解釈か……。雑草から、頑張ってシルクを作れないもんかな?
しかし、そんなことまで出来たらもうチリから万物を創造出来るレベルなんじゃなかろうか。流石にそこまで人間辞めてるつもりはない。
……でも、出来たら便利だな。代償にすっごい疲れるとか。どの道、引きこもってごろごろしているだけの生活なのでペナルティにはならない。まあ、体力を使い果たして、存在を保てるのはは数分数秒とかになりかねないだろうけどね。
休むに似た考えをしつつも作業は終わった。カーテンはないが、一緒にカーテンがシャーってなるやつも出来た。耐久力が心配だった蝶番と違って、ロフトの車輪は小型化している。レールも木製だが、滑らかに動くだろうか。
窓枠もそうだが……潤滑は、ニスか?樹脂でいいんだったか。それも調達しよう。
窓予定地の丸太を切り取って窓枠を嵌め込む。小屋の中が明るくなった。少々気になるが、今回はこれでいいだろう。もう眠い。寝たい。私は私を働かせすぎである。
ベッドの木枠にシーツを、頭の下には枕を、身体の上には毛布を物質創造して横になる。あーこれこれ。この瞬間のために生きてるなあ。今日も疲れたからあっという間に眠れそうだ。
すやあ。
物語の主人公って大なり小なり変わった人ですよね。




