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「異世界談義をしました」



 私と白い少女は視線を合わせたまま動かない。しかし白くて少女とかうちのパーティと被ってるな。まあいいか。

 白い少女の同行者らしき二人の少女が、足を止めた白い少女を訝しんでも、少年が半ロバ馬を降りて、私の目の前で手のひらを振ってもお構い無しだ。

 私のこの服装、ハイスクールの制服に視線をやる様子、エルフでエノレフに反応したことから、私は釣竿を物質創造して、振りかぶって白い少女の前に釣糸を垂らした。


「……」

「……」


 見詰め合ったまま動かない私たち。その異様な様子から白い少女の同行者は警戒を顕にし、少年は私の奇行には慣れたものなのか、「なにやってんだコイツ」と呆れた視線を送るに止まる。

 白い少女は必死に釣糸から目を逸らしつつ、冷や汗が増え始める。釣糸の先には針はなく、代わりにひらがなで『えるふ』と書かれた紙が付いている。


「……」

「……」


 沈黙。ざわめく二パーティの内、私と白い少女だけが一言も発さない。

 緊張していた白い少女の同行者が困惑し、少年が頭を抱えて半ロバ馬に寄り掛かるくらいの時間が過ぎ、通りすぎる通行人から、何事かと好奇の視線を浴びながら、目を逸らす白い少女は汗が止まらない。

 意識を逸らそうとしているのに、どうしてもどうしても逸らし切れずに、気になって仕方がない様子の白い少女は、ややあって目を瞑り、ついに堪えきれずに『えるふ』と書かれた紙を両の手のひらで挟み込んだ。


「フィィィィィッシュ!! ィイイイヤッホぅぅぅぅぅぅっ!!」


「なにやってんのお前ええええ!?」


「そ、そんな餌に釣られクマー!」


「アルマさん!? 貴女何を言っていますの!?」


 一気に場が混沌として来たな。まあ私のせいなんだが。

 少年は「あ、あれは古代エ(アーティフィシャ)ルフ言語ルエルフィックテキスト! じゃあ、こいつもそうなのか……?」と勘違いしている模様。もう日本語=エルフ語で認識してしまっているようだ。別に正す気もないが。

 最近……じゃないな。晩年はずっと日本だったので、日本語で相対した……っけ? やっほーは日本語だよな。うん。日本語で良かったようだ。ネットの知識だが、異世界転生者は日本人が多いそうなので、目の前でネット用語を晒してくれやがりました、白い少女も日本人なのだろう。

 何故日本人ばかりが転生するのかは、異世界に一つはキモノだとかハカーマを着た島国があるのと似た理由だと思われる。


 『えるふ』と書かれた紙を挟んだままの白い少女は、詰め寄る同行者を宥めながら、不安と期待が()い交ぜになった目でこちらに視線を送り、空気を読んで半ロバ馬から降りた少年以下四名も私の側に来た。

 同行者を宥めている間に気が逸れたので、手にした釣竿を消しておく。


「すまん少年、野暮用が出来た。後で追い付くので、先に行っててくれ」


「待つよ。気になるから。……知り合いなのか?」


「そうではない。秘密の暗号のようなものだ。まあ、同志、と言えるかも知れないな」


「ほーん……」


「意気投合して向こうに付いて行く、なんてことはないから心配するな」


「し、心配なんてしてねーし」


「私は猫どもに言ったんだよ? ほれ、耳と尻尾が萎れておる」


「くっ、このやろー」


「けけけ。では行け、急ぐ旅ではないが、若者の時間は短いぞ?」


「……わかったよ。後で追い付けよ?」


「ああ。お前たちが、シカより逃げ足が早くなければ追い付くよ」


 愛敬のある顔立ちの半ロバ馬に颯爽と跨がり、常歩(なみあし)でのんびりと門へと向かう少年ら。少女はちらちらとこちらを振り返っていたが、猫どもは白い少女の方に興味があるようで、尻尾を振りながら耳を傾けていた。

 少年らが発つと同時、白い少女の説得も終わったようで、同行者らしき二人の少女は離れ、白い少女や私の方をちらちら窺いながら、ギルドがある方に歩き去って行った。

 白い少女と私、距離を置いたまま二度(ふたたび)見詰め合う。


 雪の精のように儚げで、ともすれば吹き消えそうな希薄な存在感。怯えの混じった眼差しでこちらを窺う様子は小動物の如し。

 思わず守ってあげたくなるようなか弱さ、というやつだ。私は男ではないが、十分母性に訴えかける庇護欲を覚えるが。

 白い少女は青眼をへにゃりと緩め、両手を肩の高さまで上げて親しみをアピールする。


「こ、こんにちはー。で、いいんですよね? あいどんのう、はーわいゆー。ぼくはアルマって言います。あなたのお名前は……?」


 囁くような、けれど不思議と耳に残るウィスパーヴォイス。しかして中身は見た目通りではない模様。

 さっきのネット用語の時も思ったが、神秘的な外聞に反して、なんというか普通の女子っぽい。よく言えば親しみ易いのだろう。同行者とな会話も気安いものだった。

 ふむ、見た目が平凡でありながら、中身が野生な私とは真逆であるな。


「いいえ、わたしはハワイではありません」

「通じたっ!? じゃ、じゃあ、やっぱりあなたも……」

「うむ」


「貴様らもある日偶然拾った毒電波により宇宙の真理に目覚めた、宇宙意志イデに導かれし神の使徒であるな?」


「全然違った! なにそれこわい! なにがこわいって複数系なのが一番こわい! 何が見えてますか!?」

「かかか。冗句なのじゃ。本気にするでないわ」

「ああ……びっくらこきました。心臓が止まるかと思いましたよ」


 心音は依然として聴こえんがな。私のような種族の、得意分野に於けるその隠匿、称賛に値するよ。


「わらわはエノレフと名乗っておるのじゃ。偽名じゃがの」

「偽名なんだ……」

「お主のようなものが釣れると思っての。見事に引っ掛かったのじゃ」

「悔しい。でも制服かわいいです。びくんびくん」


 イケる口だな。しかしブレザーは目立つので、一般的なフリルブラウスとプリーツスカートに物質創造する。

 夏場だしこんなものでいいだろう。目の前の白い少女の格好は、見ているだけで暑っ苦しそうだ。汗の匂いすらしやがらないが。


「服装が変わりました!」

「さて、少し歩こうかの」

「街の外に出ますか?」

「いや、紛れよう。堂々とした方が目立たないものじゃ」

「ですねー。あ、ぼくアイス食べたいです」

「わらわはソフトクリームが好きじゃ」


 初対面なので仕方ないかも知れないが、私の喋り方にツッコミはない。ネットスラングを知っているなら反応しても良さそうなものだが、まあ良かろ。

 私が見た目通りの年齢でないことを、わかりやすいキャッチーなキャラ付けで表現しただけだ。深い意味はない。

 ノーリアクションなのでちょっと寂しい。私も『ボクっ娘』なる存在になんの反応も示してないし、お相子か。

 しかし日本人は変なことを考えるな。一人称でジャンル分けがあるとは。ネットでは、『ボク』と『ぼく』と『僕』で明確な差分があると言うが、よくわからん。白い少女はどれだろう。すこぶるどうでもいいな。


 屋台でアイスキャンディーとソフトクリームを購入し、ベンチに隣り合う私たち。白い少女も、なんらかの認識を阻害しているのか、目立つ格好をしているわりに、街人に注目される様子はない。

 私がソフトクリームを唇で()み、白い少女はアイスの先端を少しずつ齧る。舐めないふたり。口火を切ったのは白い少女だ。


「なにから話しましょうか」

「ふむ、情報の擦り合わせからしようかの。お互いが当たり前に思っていることも、実は食い違っている可能性があるのじゃ」

「わかりました。えっと……」

「わらわからいこうか。わらわは前世で死亡し、気が付いたらこの世界にいたのじゃ。転生なのか、肉体を再生された転移なのかはわからんが、少なくとも、生前とはこの身体の作りが別物じゃ」


 白い少女は、うんうんと、驚いた様子もなく頷く。一先ずは想像と食い違ってはいないようだ。

 私の身体を頭の天辺から爪先まで眺め回し、「エルフって違うものですかー」と独りごちたので、その間違いは正しておく。


「いや、エルフではないのじゃ。子供の振りするのも面倒での、見た目通りの年齢でなくともおかしくない種族に擬態している」

「んー……、疑問がわんさか出てきたですけど、とりあえず、ぎ、擬態ってどうやってです……?」

「見るかの?」


 手招きし、近付いて来た白い少女に見えるように、また、一応外からは見えないように耳を隠し、白い少女にもわかりやすいように、尖った耳をゆっくりと縮めて普通の耳に変える。

 その後、同じようにゆっくり、耳を長く尖らせて、一般的な認識のエルフっぽくして見せた。


「おー……、これって、触ってみても大丈夫ですか?」

「構わんよ。材質は耳介と同じく軟骨と皮膚なので、触っておもしろいものではないがの」

「エルフ耳触るのって、異世界へ行った時の夢のひとつじゃありません? わ、くにくにしてます」


 わからん。

 何が楽しいのか、白い少女はエルフ擬態耳をつまんだり、さすったりと嬉しそうだ。それは偽物であって、夢のエルフ耳ではないんだぞ?

 肉体を変えることは難しいことではない。いや、一部分を、それもデータの無い状態でやるのは、はじめの頃は難しかった気もするが、今では普通に出来る。

 これも私の種族性の一つ。食べた人間の遺伝子情報を肉体に取り込み、それを出力することが出来る。無論、人間の身体が一年ばかしで食べたものに置換されるように、私も消化をするので、ずっとではないが。

 私が『現存する最後の吸血鬼』などと呼ばれるほど長生き出来たのも、これを使い、食べた人間のガワを被って目を眩ましていたことが大きい。

 軟骨と皮膚を耳に足し、尖らせる。金の虹彩を目に移し、色を変える。これだけの簡単な変化だ。前世と比べ、苦にはならない。願わくば、今生では自分の姿を偽らず、気楽に生きたいものである。

 人間という群れの中で、私たちは乏しい。追われて、隠れて、人見知りは加速するばかり。

 私たちの中には、自らを人間よりも優れた種として、人間を家畜にして支配しようとした者もいるが、私ははじめから、勝てるとは思っていない。結果は歴史が証明している。臆病者、恥知らずと(そし)られた私だけが長生きをし、それもついこの間死んだのだから、人間大勝利である。


 そんな私も今では多数派。勝ち馬の尻に乗っかって楽をしようそうしよう。

 まあ、周りにはエルフと偽っているので、結局少数派だがね。人に馴染めない私にはこのくらいが丁度良い。


「いつまで触っておるのじゃー」

「わ、ごめんなさい。……訊いてもいいですか?」


 肉体変化については答えるつもりはない。流石にびっくりされるだろうからな。

 流石にそれはわかっているのか、白い少女が質問したのは別のことだった。


「転生か、肉体を再生して転移かわからないと言うことは、容姿に大きな変化は無い、ということですよね?」


 まあ、私の容姿は大凡(おおよそ)日本人離れしているからな。日本人ではないので当然だが。


「見た目通りの年齢ではなく、生前と容姿が変わらないと言うのは……やっぱり、生長の遅い種族に転生してるんじゃないですか? ぼくもこんな見た目をしてますが、もうこの世界に転生して、300年くらい生きてますし」


 ふむ……断片情報だけ継ぎ接ぎするとそんな認識になるのか。

 つまり、私は幼くして死に、そのままの姿で長寿の種族へと転生し、容姿は幼いままで長生きしてるんじゃないかと言いたいんだな。

 私は幼くして死んだわけではないので、前提が間違っている。しかし、私の現在が人間以外の種族であるという可能性には一考の余地があるな。新陳代謝、排泄、太陽を浴びても平気、などの要素から、当たり前のように人間だと思っていたが、考えてみれば、大抵の生き物はみんなその条件に当てはまる。

 人間以外の知的生命体が存在する以上、その可能性は視野に入れておくべきだった。


「んや、わらわはまだこの世界で一年ぽっちしか経ってないのじゃ」

「あー、不老不死のスキルを持っていればーー1年ですか!?」

「異世界生活一年生じゃな。よろしく先輩」

「わーい、ぼく異世界生活300年生~。っていいんですよそれは。じゃあ、若返って肉体再生のパターンです? もしかして結構、おばあちゃん……?」

「ババアであることは否定せんがの。別に若返ってはおらんのじゃ。生前も今生も、生まれてこの方容姿の方は変わったことがない」

「ん、んんー……。なぞなぞですね。ヒント、ヒントはありません?」

「別に勿体振ることはないぞよ。生まれ変わって人間になったが、生前、人間どもはわらわのことを吸血鬼などと呼んでおった」

「……」


 一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに神妙な顔を作り、私の瞳を真っ直ぐに見返す。


「……中二病?」


「……一応、日本人にはそういう疾患があることは聞き及んではいるがの。やれ困った。悪魔を証明することはわらわには出来ん」

「あ、ええっと……ごめんなさい」

「そういうとこだぞ。やれ中二病だ、やれツンデレだ、やれフラグだ。物事にタグ付けをし、型に当て嵌めてテンプレートだと騒ぎ立てる。そういうとこだぞ日本人」

「ごめんなさい……」


「でも、吸血鬼なんて……。おとぎ話の類じゃないです? あ! 当たり前みたいに同郷だと思ってましたけど、もしかして、違いましたか……?」

「そりゃ、隠れ住んでいる者たちじゃからな。知らんのも無理はなかろ。ほれ、テレビじゃUMAだの宇宙人だの、思い出したように特集を組むじゃろ。あれと同じじゃ、捜して見付かるもんでもない」

「ん、んー。でも、現代日本に吸血鬼なんて、ファンタジーですよ」

「異世界に生まれ変わっている時点で何を今更。事実は小説よりも奇なり、じゃ。それともこれは夢の中か何かで、現実の貴様はコンピューターに脳を繋いでファンタジー体験でもしているのかの?」

「それは……ヤですね……」


 異世界と元の世界は別なのか、自分の中で元の世界は聖域と化しているのか、異世界の存在を知り、常識を拡張してなお、受け入れるのには躊躇いを見せる様子。

 ともあれ、私が元々長生きである前提で、状況を整理し直す白い少女。どうやら頭は切れる方のようだ。


「元々長生きで……、この世界で1年しか経ってなくて……、人間になってて……。

 身体は……大体10歳くらいです? この10年の記憶はないんですか?」

「無いな。とんと思い出せん。一年ほど前に、森で目覚めたのが最初だ」

「よくある異世界転生話では、産まれた時から前世の思考能力を持っている場合や、赤子では演算能力が足りなくて、ある程度してから取り戻す場合、この世界の住人として生きて、強い衝撃によって前世を思い出す場合など一般的ですが、後で思い出した場合も大抵は今生の記憶が残っているものです。

 でも、前世を思い出すまでの記憶を失う例も、ないことはないんですよ。まあ、その場合も、容姿は日本人離れして、今生の家族がいたりするんですが……」

「では、やはり私は再生転移なのかね。……というか、そこってそんなに気になるのかの? 貴様は見たところ、転生のようじゃが」

「んー……、もしも、あなたがこの世界に来たのが10年前なら……。

 いいえ、やっぱりなんでもないです。忘れてください」


 忘れろと言うなら気にしないが。長生きの秘訣は好奇心を持たないことだよ。私にとってはどうでもいいことだ。

 当然のことだが、白い少女が言っている転生例というのは、生前のサブカルの話だ。現実では違うと言われればそれまでだが、白い少女は卵の時から生前の記憶があったらしい。

 ……卵?



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