「寝る前の無駄な雑談って無駄に楽しいよね」
明日の出立の準備を済ませ、床につく。
消耗品の類も買い揃え、潮風に対する手入れ道具や、刃物が錆び付かないようにコーティング処理を施して貰ったとのこと。
そんな便利なものがあるのか……。私の爪は施していないが、物質創造を使えば錆くらい落とせるので問題はなかった。
「エルー、何かお話してー」
「寝ろ」
灯りの魔道具を消して、身を横たえていると、猫のどっちかが声を出し、少年が軽く諌める。これは白猫かな。
しかし、魔道具は触れていないと作動しないというが、何故灯りはON・OFFのスイッチ式なんだろうか。他の魔道具では出来ないんだろうか。不思議だ。
「何を聞きたいんだ?」
「なんでもー」
「エルのことがしりたい」
普段、野営の時は持ち回りで哨戒するため、全員が寝転がっている機会は珍しいのだろう。
実はモヒカンパーティと同行している時にも、何度か揃っていたことはあるのだが、猫にもなんらかのルールはあるのか。安全地帯でないと落ち着けないとか。私からすると、人間の群れの中の方がストレスを感じるがね。まあ、野外は野外で日が差さないように気を遣うのだが。それも生前の話。
「では、二十の質問でもするか」
「二十?」
「たくさん聞いていいの?」
「ゲームだよ。細かいルールはあるが、私が頭に思い浮かべた言葉を、他の者が質問をして暴いていく。質問には、『はい』か『いいえ』でのみ答える。まあ、やりながら詰めていこう」
「寝ようよ……」
少年の言葉はスルーした。少女も参戦を表明し、おっさんと少年は聞くに止める。
最初なので、お題を決めることにした。何がいいかと聞いたら、パーティに話していない私の秘密が知りたい。とのこと。
少年は突っ込み体質だが、猫ども以下は私が何をしても追及することはない。ドライヤーとか物質創造したが、何か訊かれることはなかった。またやって、と言われるばかりだ。
ドライヤーか。物質創造したのは電池式だが、電池がどうやって作られるのか私は知らない。動力を魔鉱石やらにして再現出来ないだろうか。
ドライヤーを物質創造するに際し、内部構造を暴いている。それは認知しているということ。私の手から離れれば、雲散霧消をする物質創造ではあるが、それを消えないように実物を持たせることは出来る。
材質とパーツ毎に、一つずつ物質創造を行い、手ずから組み上げればいい。材料さえ揃えば可能だ。電池が無いから動かないが。プラスチックってどうやって作るんだろ。炭素があれば酸素と水素でなんとかなるかな……。
まあ、いいか。別に私は困らない。実用化に漕ぎ着ければ便利ではあろうが、猫どもくらい私が面倒を見れる。人間どもの生活が便利など知ったことではない。
ともあれ。
「正否に関わらず、ゲームが終わったら伝えられる秘密と、正解が出なければ答えるつもりはないレベルの秘密、どちらがいい?」
「どっちもがいい」
「正解が出なくても大きな秘密を教えて欲しい」
「『いいえ』」
「『はい』か『いいえ』で答えた……」
私が独断で、答え合わせが出来る方を選ぶ。そっちの方がわかりやすいだろう。
内容は……どうしようか。実はエルフじゃないとか言ったらびっくりされるよな。わりと秘密が多い私だが、話せる秘密はそう多くはない。
んー……そうだな。これだったら差し支えなかろ。
「決めたぞ。問一、質問を頼む」
「エルの初恋の人は誰だった?」
いきなりyes/noでは回答不能な質問がやって来たぞー。
「問一、不回答。質問は、『はい』か『いいえ』で答えられるものに限られる。質問権を一つ無駄にし、問二」
「むう……」
「次はわたし。エルは好きな相手はいる?」
恋愛脳か。年頃の娘ならこんなものなのか……。ガールズトークでパジャマパーリナイしていると、少年とおっさんが居たたまれないぞ。そういう話は野営のテント内でしときなさい。
「問二、回答、『いいえ』。続いて、問三、設問」
「アリッサ、いきます。えっと……その秘密は、私たちにも関わりがあるものですか?」
普通の質問が来た。流石少女、理解力があるし、善良である。猫どもはわかった上で無視したり、わからなかったらスルーして強行するからな。
「問三、回答、『はい』。ルールについて補足する。少なくとも、私は『はい』か『いいえ』でしか答えない。『ややはい』、『どちらかと言えばはい』、『どちらとも言えない』など、曖昧な表現は使わない。また、『はい』と『いいえ』、『はい』であり『いいえ』でもあるものは、少しでも肯定出来れば『はい』と答える。そのため、一見すると両立しない質問の回答が、両方とも『はい』となる可能性がある。
今回で言うなら、新たに『その秘密は、私たちに関係がないものですか』と問われれば、私はまた『はい』と答える」
「関係があると言えばあるし、ないと言えばない秘密なのですね……」
「問四、設問」
「わたし復活。んー、今まで何人くらいと付き合ったことがある? エルって恋愛経験は豊富?」
「問四、不回答。数は『はい』か『いいえ』では答えられない。また、複数の質問をしてはならない。問五、設問」
「くそう」
「わたしに任せろー。エルって恋愛経験は豊富?」
変わらんなぁ、質問。なんとなく意外ではある。猫どもって、恋愛に興味あるんだな。
「問五、回答、『いいえ』。問六、設問」
「私ですね。……この問題って、恋愛に関係ありますか?」
良い子だな、少女。猫どもへの牽制球だろう。問題は、これくらいで猫どもが自重することは無いであろうことか。
「問六、回答、『いいえ』。問七、設問」
「エルはカイのこと、好き?」
おっと。猫どもも女らしい。私がパーティに参加を決めた理由に、少年を挙げたので危機感を持ったのかな? 心配せずとも、取ったりはしない。馬鹿な犬をかわいいと思っても、恋をしたりはせんだろう。いや、人によるし、恋愛の自由を否定するものではないけれど。
「問七、回答、『はい』。問八、設問」
「わたしとミヤ、アリッサはすき?」
……どうやら買いかぶりだったらしい。一連のはこの質問のための壮大な前振りか。いや、その場その場でのアドリブか。猫ども、はかりしれねえ。
好きって言って欲しいメンヘラみたいに見えなくもないけど、これから……、これから本格的に背中を預けることになるのだから、聞いておきたいのは普通の……、普通のことかこれ。まあ聞いておきたいんだろう。
「問八、回答、『はい』」
「なかよしいえー」
「いえー」
「エルもいっしょに」
「いえー」
「アリッサも」
「い、いえー」
「もう寝ようぜ……」
女子のノリに付いていけない少年から泣きが入った。私も付いてはいけないけれどね。女の子って年じゃない。
「あ、エルさん、フランツさまは……」
「普通かな」
「なんでそこだけ普通に答えるんだ! 普通に傷付くぞ!」
『はい』か『いいえ』で答えられないからだよ。
そんな感じでぐだぐだだったが、猫どもの質問もまともになり、二十の質問も半ばを過ぎる。
「問十一、回答、『いいえ』。問十二、設問」
「……」
「アリッサだよ?」
「……ふあ、あ、えと、私ですか?」
「最後までいったら答え合わせはするが、寝落ちしたらお流れだぞー。明日、答えだけ教えることはない」
「アリッサ、がんばる」
「が、がんばりまふ」
「もう寝かせてやれよ」
やっぱり少年は黙殺された。少女は寝惚け眼をこすって必死に質問を考える。
最後までいけば答え合わせだ。適当な質問でも問題はない。しかし、脳が眠いと正常な判断そのものが出来ず、無駄に時間をかけて、うとうとしてしまう。
「その……それは魔法に関することです……か……?」
「問十二、回答、『いいえ』。問十三、設問」
「すかー」
「寝とる!」
白猫が寝た。しかしこの少年、ノリノリである。
元々、魔物が跋扈する野外でも寝られる冒険者だ。ベッドの上で布団にくるまる誘惑には抗い難い。
白猫の寝息に、黒猫が引っ張られ、少女は必死に目蓋をこする。最早自軍は私の前に陥落寸前、その窮地に、満を持して少年が立ち上がる。
「仕方ない……、この問題、俺が引き継ぐ」
「すやあ」
「寝とる!」
すまん少年。面倒臭くなったんだ。本当にすまないと思っている。思うだけだが。
ちなみに今回の解答は、『実は私は子供好き』である。少女はもちろん、少年と猫どもも、私から見ればまだまだ子供である。この世界の成人年齢がどうとかではなく。
他に開示出来そうなこともなかったのでな。私は、秘密にしていること以外はオープンな性質だよ。
夜行性ではない猫どもが本格的に寝入り、抗っていた少女も陥落し、一人項垂れる少年を置いて、私も本寝に入る。
気落ちする少年に声をかけたのは、誰であろう。若者を見守って殆ど空気に徹していたおっさんだった。
「カイゼン」
「フランツ、おれ、おれは……」
「もう寝ろ」
「あ、はい」
すやあ。




