表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

「治療少女育成計画」



「さて、少女の進退について皆と相談したいと思う」


 正式に加入したので、いや、元々気後れするような性分ではないが。私が主導でパーティに議題を持って来る。

 矢面に立たされた少女は杖をぎゅっと抱いて、緊張の面持ちだ。


「知っての通り、本日先刻少女の杖を新調し、より効果的に魔法を運用出来るようになった。今後の少女の役割について、忌憚ない意見を聞かせて欲しい。少女、構わないな?」


「はい」


 少女が力強く頷くのを受け、残る四人は視線を彷徨わせて、それぞれにアイコンタクトを図る。ややあって、先陣を切るのは少年だ。


「役割……。俺としては、アリッサちゃんはフランツと一緒に控えてればいいと思うんだけど。安全だし、もし俺達がピンチに陥ったら、前線まで上がって来れるだろう」


「アリッサは頼りになる」

「安心して戦える」


「魔物の弱体化を計れるのもわかるが、使いすぎると、いざと言う時に回復が足りなくなるという懸念もある」


 予想通りの意見に、私は二度三度と頷く。事前に打ち合わせをしていた少女も、表情には出してないものの、やはり気落ちしている様子。


「ぶっちゃけ少年らは強い。苦戦する相手は滅多にいないし、そういう相手からは敏感に距離を置くだろう。少女が攻撃に加わったところで焼け石に水。大局は変わらん。それは少女にだってわかっている。

 だが、少女は歩く薬箱ではないのだ。蚊帳の中にいるような、仲間外れはやめてやれ。少女の自尊心に関わる」


 薄々は感じていたのだろう。或いは、忌憚ない意見をと言われた時点でこの展開は予想していたのか、全員眉尻を下げて神妙な表情だ。

 少女にだってわかっている。他のみんなもわかっている。現状が最適解だと。だが、そこには全員の負い目がある。少女に我慢を強いている負い目。皆が戦っているのに、守られているだけの負い目。負い目を感じて誰も動けないから、私のような異分子が必要となる。

 そのしこりは、取り除けるなら除きたい。勿論、命を張った冒険者だ。それを押して行っても何ら問題は起こらないとは思うけど。


「これから少女を鍛えようと思う。最終的には、格上の相手に有効打を与えられるのを見据えてだ。そうすれば、パーティ全体の総合力アップになるだろう。異論は?」


「ない。けど、可能なのか? 現実問題として」


「やってみなければわからん。だが、私の知る少女は、弱い村娘ではなく、冒険者カイゼンベルクパーティの一員なのだ。強くなることに、弱音を吐くこともあるまい?」


「はいっ、私、頑張ります」


 少女の境遇や、単純な腕っぷし、少女自体の心根もあって、無意識の内に大事にされていたのだろう。

 人間、鍛えれば強くなるものだ。私は暇もあるし、少女はやる気に満ちている。環境は整っていると言える。


「合意を得られたところで、方向性だ。大まかに分けて三つ。少女の基礎能力の向上、武器を増やす、生命を奪う魔法を鍛える。

 この内、大なり小なり基礎能力は必須だと考える。魔法に関しては一先(ひとま)ず置いて、後衛として、少女に武器を持たせた経験はあるか?」


「弓とナイフは教えたことがある。どちらも、あー、身に付かなかったが」

「的に当たらなかった」

「弓を引くのも疲れてた」

「どちらも体力と技術が必要だ。成り立ての時とは違い、明確な目的意識を持った今なら話は別だ。問題は、牽制程度にしかならんということ。勿論手数が増えるだけで前衛が楽になるのは間違いないが、格上には通じん。

 弓よりかは、クロスボウも一考の余地があるか?」

「クロスボウか……確かに弓よりは手頃だが。手入れが多少面倒な程度か。アリッサなら、そっちの方の努力が向いていると思う。

 だが、弓にせよクロスボウにせよ、杖を持っていては難しい」

「普段は背負っているし、回復は戦闘後と割り切るか、それか、止まり木を射撃補正に使うため、杖を地面に立てることも。ああ、片手で扱うなら、投石器(スリング)はどうだ?」


 紐付きの布に石を収めたものを物質創造し、遠心力で勢いをつける。古式ゆかしい人類の投擲武器だ。流石に投げ槍の方が歴史は古いだろうが。

 少年が声をあげるが、石も私が物質創造したものなので、発射と同時に消滅する。宿屋に被害は出さないよ。


「あ、あの……」


 私とおっさんが少女の後衛火力を検討していると、当人からのお声がかかる。

 本人の好みもあるだろう。好きこそものの上手なれ、だ。弓はおっさんとお揃いでやる気も出るだろうが、クロスボウはグレーかも知れない。


「私、実は、遠くのものに当てるのが、苦手で……」


 それ以前の問題だった。ノーコン系人類か。

 なんでも、投げナイフくらいは覚えておくべきだと、教わって以来こっそり練習しているのだが、一向に的に当たらないらしい。何事にも向き不向きがある。射撃は諦めた方が建設的か。


「とするとやはり魔法か」

「門外漢だからよくわかんないんだけど、鍛えてどうにかなりそうか?」

「あの魔法を使うと、アリッサ苦しそう」

「魔力も沢山使う。すぐバテる」

「いざという時に、回復魔法が使えなくなるかも知れません……」

「やってみなくてはわからん。辛いからと素振りを止めて、剣の腕は上達するのか?」


 私の言葉に、少年と猫どもが言葉に詰まってぐうの音も出なくなる。反復練習など基礎の基礎のそのまた基礎だ。やればやるほど上達はするし、どんどんと楽になる。

 魔法が同じとは言えないが、試さない理由はない。少女の場合、問題となっているのは忌避感の方だろう。両親を刺し殺した剣で素振りしろと言われてるようなものだ。

 上手くいかなければその時考える。


「回復が必要ない、余裕がある時に少しずつ実地を繰り返そう。最初は動く的ではなく、捕らえた相手をじわじわと弱らせるのがいいかも知れない。感覚を掴むのにはうってつけだ」


 狂暴な魔物ではなく、かわいい動物とかな。安全だし、メンタルを鍛えるならむしろベストだ。少女の顔色はもう悪い。


「それと平行して、少女の基礎体力の向上と前衛での立ち居振舞いを鍛える。わかるとは思うが、別に前に出て殴りかかるわけではない。自身の身を守りながら立ち回ることで、敵を引き付けたり押さえたり、前衛の怪我を治しながら戦えることが出来るようになれば、パーティ全体の戦術の幅が広がる」


「……お前が教えるのか?」


「棒術ならかじったことはある。丁度暇だし、適任だろう? 私は相手が少女だからと、甘やかしたりはしないしな」


 甘やかさないと聞いて、少女と少年の顔が引き攣る。モヒカンパーティの魔法使いに指導した時のことを思い出してるのかも知れない。あのおっとり巨乳、せっかく私やモヒカンが、野営とは思えない料理を作ってやったのに、全部吐き出すんだものな。他のみんなは荷台を引いているのに、一人だけ載ってるし。

 だが安心して欲しい。彼奴(あやつ)みたいにおざなりにするつもりはない。私が直々に見てやるのだ。特訓メニューは比じゃない。


「敵を始末するのに刃が付いている必要はない。それを少女に教えてやることにしよう」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 おかしいな。もう心が折れそうだよ?


 先の話になるが、少女の特訓は、周りが甘やかすお陰で大分マイルドなものになってしまう。むう、これではくまと打ち合うなど夢のまた夢だぞ? 生涯かかっても厳しい。

 うん? 普通の人間はくまと殴りあったりはしない? 惰弱な。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ