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「ウィンドウショッピング(魔法)」



「さ、行こうか」


 私は立ち上がって、お尻や膝裏を(はた)いて汚れを落とす。この服も物質創造したものなので、消して新しく作り直せば、というか、脱ぐと消えるので、必然的に毎日新品なのだが、座ったら叩くのが様式美だ。

 言葉の意味がよくわからなかったのか、少女は小首を傾いで、言葉が浸透する間を空けるが、わざわざそれを待つ必要もない。私は少女の手を取った。


「今日はお前を借り受けると言ったろう? まだ公園で休んだだけではないか。

 行こう。付き合ってくれるんだよな?」


 一瞬キョトンと私を見上げた少女だが、ようやく理解出来たのか、手を握り返して、体重を掛けないように立ち上がる。気を遣わずとも、少女に引っ張られた程度で揺らぐ程、か弱くはない。私が引っ張っても良かったのだが、少女の手が引っこ抜けないように加減が出来るかわからないので。

 私が人間の赤子を拾った時は、加減を覚えるまで大変だった。よく五体満足で健やかに育ったと思う。


 ドリンクの器は公園のゴミ箱に捨てる。屋台の軽食が豊富なのは結構だが、どうしてもゴミは出る。

 この街でポイ捨ては罰金で、警邏の兵にしょっぴかれるのだ。殺菌魔法といい、清潔さにこだわりのある世界だ。警邏はただ巡回してるだけだと人員の無駄だからか、ゴミ拾いもやらされており、ポイ捨てを取り締まる目は厳しい。

 交易路ということで、怒鳴り合うような商人同士のトラブルもそれなりにあるのだが、ブラックなんじゃなかろうか。


 歩き出した私たちだが、少女は繋いだ手を離してはくれず、結果、町行く人に微笑ましい視線を向けられることとなる。

 まあ、少女とて十三の少女。子供が子供の手を引いているのが微笑ましい一因ではあるのだろう。

 ただ、少女の身長は三つ年上の猫どもとそう変わらない。百六十弱と言ったところ。おっさんが百八十強なので、欧米身長と言えるが、少年と猫どもは日本人並だ。猫どもは腰も高いしメリハリがあるので、日本人体型とは言えないが、身長は十六歳で百六十ない。

 モヒカンの時も思ったが、あまり年齢と成長と強さは比例しないようだ。

 少年に聞いた話だが、身長百五十㎝、体重五百㎏で小太りの有名冒険者も居たらしい。伝説では、ドラゴンも投げ飛ばすマメタンクとか。またドラゴンか。くまでも投げてみない? 武器がマサカリになるからやめようか。


 街を見ても、少女くらいの身長体型で、幼児の手を引いて買い物しているお母さんらしき人もいる。姉かもしれないが、雰囲気でなんとなく貫禄がわかるものだ。エプロンだし。姉にあの着こなしは出来まい。

 そんなわけで、手を繋いだ私たちも微笑ましい目で見られているのだが……。いや、いくら文化的に出産年齢が幼くとも、流石に年齢二桁並の私と親子には見えんだろう。

 ……私が欧米並の十歳か日本人並の十歳かは、敢えて解説しなくともいいな。うん。


「どこに向かってるんですか?」

「もうすぐに着く。見えたぞ」


 少女の疑問に、私は指を差して答えるが、少女は首を揺らして見えない指の先を見る。

 ああ、少女の目では見えないか。これがおっさんなら遠見が出来るし、猫どもも目が良いので見えたろう。

 ん……猫って視力は良いんだっけ? まあ、こういうことを言うと、猫じゃなくて猫獣人、と苛立たせてしまう。奴等はタマネギも食べるしチョコも好むのだ。いくら動物と似た性質を持っていても、獣人と動物は違う。その手の文言には飽き飽きしているだろう。

 因みにマタタビでは酔う。にゃんとも都合の良い種族である。


 話が逸れた。私の感覚で対応すると齟齬が生まれるということ。この辺りも気を付けねばね。

 しばらく、少女の歩幅に合わせてのんびり街を進むと、少女にも看板が読めたのか、あんまり納得してなさそうに首を捻る。

 私の目的地は魔法屋だ。なんとも異世界感溢れるファンタジー専門店ではないか。

 武器屋が武器・防具の小売店である場合があるように、魔法屋も魔法・道具屋である場合があるのだが、この店は魔法専門店のようだ。不思議な響きだ。ぱっと聞き何を扱っているのかわからん。


 主な取り扱い商品は、武器屋に売っていない杖や短剣などの、魔法使いが使うような武器。それに魔鉱石だ。

 魔鉱石は武器に取り付けると、魔法を扱う際の補助となり、この店では加工や取り付けもやって貰える。

 武器屋にも杖や短剣は売っているが、そちらは頑丈さや切れ味に主眼を置いた武器であり、こちらに売られているのは、武器としての性能は落ちるが、魔法の補助となる素材で出来ている。

 具体的に言うと、武器屋の杖は固く、人を殴り易い重心をしていたり、刃物を仕込んだステッキだったり。高価なものだと、希少な木に特殊な加工を施し、剣と打ち合える強度にしたものもある。主に槍の柄に使われるそうだ。

 魔法屋の杖は魔法が浸透し易い木で作ってある。手から魔法を発射するより、杖に浸透させて放った方が、命中率や弾速が上がり、減衰も抑えられるとか。イメージ的には銃身か。

 また、魔力を流せば流すほど強度が上がる性質も持っており、初心者が落とした杖が踏まれて真っ二つに折れたが、熟練者は魔法を維持したまま敵にぶん投げ、突き刺して至近距離で減衰なく暴発させる荒業も披露するとか。きちんと魔力を流し込めば、手元を離れても強度を維持し、傷一つ付かないという。

 魔法が浸透しやすい木ってなんだろうね。マホガニー?


 当然、いっぱしの冒険者である少女も、自前の杖を持っている。魔鉱石付きだ。


「エノレフさまも杖を買うんですか?」

「どうかな。それはまた今度としよう」


 杖に取り付ける石にはランクがある。一般に流通しているのは、冒険者でも手が届く値段の魔鉱石と、高価で、貴族や騎士、高ランクの冒険者や専門医などしか手が出ない、魔石の二つだ。

 地面から掘れる魔鉱石を加工すると魔石になるのだが、研磨するのに希少な触媒が必要で、どうしても値が吊り上がる。

 魔鉱石はそこそこの量が出土するので、効果は薄いが、多くのものは我慢してそのまま使っている。

 魔石以上の品物もあるのだが、お金で手に入るものではないので今回は割愛とする。


 少女に手を離して貰い、棚に陳列されている商品を後目に真っ直ぐにカウンターに向かう。杖や短剣は兎も角、水晶玉みたいのも武器なんだろうか。魔法道具は置いてないと聞くが。

 これも魔力を込めると頑丈になるのだろうか。割れなくなればぶん投げても使えるな。


「店主、いいか?」

「随分と尊大な嬢ちゃんだな。……ああ、そうか」


 店内は如何にもな雰囲気で暗いが、カウンターに座った老人は問題なく私の擬態長耳が見えたようだ。エルフは珍しいのか、エルフじゃない私を無遠慮にじろじろと眺め回す。


「何の用かね。売り物は棚に置いてあるだろう?」

「魔鉱石の精製をやって貰いたい」

「お嬢さん、残念だがね。どこも品薄で、触媒が手に入らないんだ。金の問題ではなく、無い袖は振れないね」


 私の服装から、我が儘な子女にでも見えるのか、先んじて金では解決出来ないと言い含める老人。心配せずとも、そこまで裕福ではない。その日暮らしの冒険者だ。まだ貯えはあるが。

 私は少女と老人から見えないように物質創造で、圧縮していたシカの角を一本復元し、カウンターに置いてやる。

 魔鉱石を精製する触媒、その一つに、シカの角があることはリサーチ済みだ。高ランクの冒険者ならば魔石武器を持てる所以でもある。無論、他にも魔物から採取出来る触媒もあるが、大抵は強敵らしい。


「ほう……お嬢さん、どこでこれを?」

「私が狩ったものだ。肉は美味しく頂いた」


 少女は私がシカ殺しだというのを知っているが、店主の老人は驚いたようだった。それでも声を出したりしないですんなり納得する辺り、この世界では見た目で判断することの意味の薄さを物語っている。

 老人はシカの角を触って、胸ポケットから出したモノクルで観察する。緩慢な動きで丁寧に置き直し、モノクル越しに私の顔をじっと見て来る。


「お嬢さん、こいつをどこで手に入れなすった」


 同じ質問をされた。ふむ、誰が採ったではなく、何処のシカかを聞いておるのかな。

 何故そんなことを気にするのだろう。品質に問題があったかな。まあ、私が一度きゅっとして、復元したものなので仕方ないかも知れん。シカの角は粉に挽いて使うと聞いたので乾燥させてあるのだが、やり方を間違えた可能性もある。物質創造で復元したので、ひびなど見た目は悪くない筈だ。


「どこだったかな。故郷の森なのだがね。ここからどれくらいあるかと言われると困るよ」

「なるほど、エルフの森……どおりで……」


 嘘は吐いていません。向こうが勝手に勘違いしただけなので、わたしわるくないヨ。うん。

 老人の反応を見るに、感触は悪く無さそうだ。興味深そうにシカの角を観察している。これなら問題なく目的の交渉に移れる。


「それで、どうだ。過不足あるか」

「一つ精製するのに、角一本丸々も使わんよ。これを譲って貰えると言うなら貰い過ぎだな」

「正直だな。足元を見てもいいか?」

「何か望みがあるのか? 言ってみなさい」

「作業に使った余りはくれてやる。その代わり、作業中の様子を見せて貰えまいか?」

「ほお……それはそれは。また大きく出たのぅ」


 知識は裏切らない。今は役に立つかはわからないが、なんとなく興味があったのだ。今の私は俄然、魔鉱石を魔石に精製する過程を見てみたい。

 楽しげに瞳を細めて、私とシカの角を交互に観察している老人。こちらの感触も悪くはないが、ふむ。まあいいか。

 老人の反応を見るに、シカの角の品質は悪くないのだろう。余りも渡すと言うのだ。問題は値段交渉かな。


「どうしてそんなものが見たいのかね。見ていて面白いものでもなかろうに」

「面白いかどうかは私が決める。どんなものであろうと、何度と同じ経験を繰り返せば()せ、反面初体験というのは胸躍るもの。私は知らない。だから見たい。理由としては不服かな?」

「ふむ。いや納得のいくものだ。エルフの里では、魔鉱石の精製はやっていなかったのかね?」

「なにぶん人里離れた田舎でね。持っているものはいなかったよ」

「なるほどのぅ……。すると、お嬢さんが持ち帰った技術が、エルフの里に伝わるという事じゃな」

「お買い得だね。老い先短い老人の技が向こう千年は残るのだ。名誉だの痕跡だのを重んじる人間にとっては垂涎ものの提案と言える。それともなにかい? 人間至上主義で、他種族には秘匿すると?」

「そんなことは言わんよ。ただのぅ、老い先短いとは言え、売れなくなれば食っていけんからの。どうしても流出には慎重になる」

「ふむ。エルフの客がいなくなる可能性か。……で、売り上げに影響するほどエルフは店に訪れているのかな?」

「はっはっは。50年この店をやっとるが、お嬢さんがはじめてじゃよ。やつら、人間の作る魔具など質が悪くて使い物にならんと思っておるのじゃ。人の進歩は日進月歩だと言うに」

「わかる気がするよ」


 人間というのはちょっと目を離していた隙におかしな方向へすっ飛んでいく。電波を飛ばし、短音と長音でやり取りをしていたと思ったら、いきなりケータイ電話だ。なんでこんな小さなものから人の声が聴こえて来るんだ? と訝しんだ思い出がある。わけがわからないよ。

 老人に同意して苦笑いをしていると、シワのように笑い、エルフらしくないのぅ、と楽しげだ。エルフではないのでね。


「いいじゃろ。特別に作業を見せてやろう。それから、加工代も要らん。杖と魔鉱石を用立てるなら、その分のお代は貰うがの」

「本当は誰でも作業を見られるんだろう?」

「ほっほ。あまり老人をいじめんどくれ。調整のために、使用者当人の魔力を注ぐとよく馴染むんじゃよ」


 年の功というやつか、老人の心は読みにくい。少女を騙しているようで気が引けたのか、善良な人間で助かったね。

 邪魔しないように、離れて商品を見ていた少女をカウンターまで呼び付け、持っている杖を老人に見せるように促す。


「えっと、エノレフさまの杖を見繕いに来たのではなかったのですか?」

「趣味の時間なら一人でゆっくりするさ。少女と二人で来た意味がなかろ?」

「ですが、魔石なんて高価なもの……」

「なに、先はああ言ったが趣味みたいなものだ。少女でお試しをしたいだけだから、気にしないでいい。それとも、その杖に愛着があるのか?」


 一瞬、その顔に葛藤が浮かぶも、すぐに決意を固めてカウンターに杖を置く少女。察するに、仲間との思い出……いや、家族の方が強いかな? そんな様に見て取れる。

 杖からは血と汗が染み込んだ匂いがするし、物持ちが良いのだろう。けして、臭いというわけではないことを、少女の名誉のためにここに記しておく。猫どもでも気にならないレベルだ。

 カウンターに置かれた杖を手に取り、角度を付けてじっくりと眺め回す老人。気が済んだのか、持ち主である少女をモノクル越しにじっと眺め、杖と交互に見遣る。


「良い杖だ。大事にされている」

「ありがとうございます」

「お嬢ちゃんは回復魔法使いかな?」

「はい」

「それと妨害も行える」


 私が補足をすると、少女は隠したが、一瞬飲み込み切れない感情が浮かぶ。老人は気付いていないだろう。或いは、杖を見れば言わずともわかるのか。

 老人は二度三度頷き、しばらく待っているよう伝えて店の置くに引っ込んだ。



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