「少女回。お忘れでしょうか、名前はアリッサです」
モヒカンパーティと別れて、少年らは街に繰り出す。
まだまだ元気だ。私はまた宿にでも行って休むのかと思ったが、アクティブに行くらしい。
「依頼でも見に行くか?」
「はしごしよう。まだ食える」
「明日はどうする? 依頼? 次?」
「発つなら準備は……必要ないが。今日中には行きたくないな」
「交易路ですし、お買い物もいいかもしれません」
おっさん以外は元気だな。私はもう休みたいよ。
流石に帰って来て当日に街を発つことはないというのが共通認識のようだが、口に出して共有化を図る。
まだ街に残るのか、明日にも発つのか、それによって今日の予定も変わるだろう。
依頼を達成して冒険者ギルドに報告に行ったところ、捕らえた盗賊について無理矢理聞かされた。
前に私たちがいた街、あそこから先んじて逃げて来た商人がいたらしい。「ベテランの猟師がくまが出たというので、慌てて逃げて来た」と。
それを聞いた人は半信半疑だったが、それに続く商人も同じようなことを言って次々と逃げて来たのだ。
うだつの上がらない冒険者はそれを知り『今なら金を持った商人が、大した護衛もつけずに慌ててやって来る。確実に稼げる上、すぐに逃げれば足もつかない』と、盗賊行為に走ったという顛末だ。
またくまか。
また、レッド・オーガが街の近くに現れたり、魔物や、もぐらといった野生の動物の動きもおかしく、くまが現れた影響で、生息域が変わった、或いは一時的に避難するなり、大移動があったのではないかと、ギルドでは注意を促された。
どこにでも出てくるな、くまは。この国を出るまでついて回るんだろうか。
そんなわけで、普段は依頼の少ないこの街でも、特需で慌ただしい。少し依頼をこなしてから行くのも十分に選択肢であろう。
しかし少年はすっぱりと切り捨てた。くまの出た街で決断したことで、大筋の方針を決めたようだ。
明日、この街を発つ。今日の予定を決めた。
「少年、私からいいかな?」
「なんだ?」
「少女を借りたい。悪いが付き合ってくれ」
後半は少女に向けて言う。自由行動ということで、おっさんの方をちらちら窺っていた少女は、虚を付かれ目を見開いたが、すぐに綻ばせた。
少年らも、意外な組み合わせだと顔に出ていたが、仲良くなる切欠になるか、と、了承してくれた。なんだかんだ言って、私は新参者だからな。距離を図りかねるところがある。
「すまんなおっさん。デートはまた今度にしてくれ」
「……気にするな、俺は一人で飲み直すつもりだ」
「待て、逃げるな。ちゃんと、今度少女とデートをすると言質を取るから」
「だから早めに会話を切り上げたんだよ!」
「フランツさま……いえ、いいのです。私のような女と一緒に過ごしたところでつまらないでしょうから」
「いや、そういう意味ではけして……はっ、乗せられてないか!?」
ちっ、勘の鋭い。
「じゃあわたしたちはカイとデートしてくる」
「そのあとはやどやでしっぽりむふふといきたいものですな」
「いかねえよ! ギルド行ってくる。今日明日で出来る依頼があるかも知れないし」
「待つ。服買おう服」
「珍しい食べ物探そうそうしよう」
少年は猫どもに両腕を組まれて、連行されて行った。その隙におっさんも離脱。少女も重い女になりたくないと、笑顔で見送る。
それでも名残り惜しそうに背中を見ていたが、私が隣にいるのを思い出して、こちらに視線を移して笑顔を見せる。
「さ、私たちも参りましょう?」
「お前、自分の魔法が嫌いだろう」
笑顔が凍りつく少女に背を向け、ちょっと歩こうか、と促して歩き出す。フリーズすら許さない姿勢に、少女も慌ててついて来た。
回復魔法は兎も角、ブル・オーガに使っていた、生命力を奪うという魔法は、それはもうお粗末な出来だった。
それから少女のことを観察させて貰ったが、どうにも魔法の話題になると表情が曇るようだった。おっとり巨乳など、少女を揺さぶるための餌に過ぎない。実験台とも言う。
行動心理学、現代風に言うならメンタリズムだろうか。元・人間を主食にしていた狩人として、学んだ技術の一つ。鋭い五感や威圧といった、生まれ持った技能ではないが、対人戦では役に立つものだ。
これでも感情の機微には聡い。それを活かせないだけで。
歩きながら頭の中を整理したのか、どこかで腰を落ち着けて話したいと言われ、街の中にある自然公園に入る。
屋台でクレープを買ってベンチに腰掛ける。少女はフルーツミックスの生クリーム、私がチョコバナナだ。好みの設定は以前にフラグを立ててある。少女が果実で私がチョコ。
日差しは強い。生クリームが溶けない内に食べる。少女は意外と逞しく、一口ずつ食べさせあった。
「……」
「話してみろ。少年らのように、深い関係にあるものには話し難くとも、私のような新参者には話せることもある」
「……いえ、みなさん、薄々は気付いているかも知れません」
「それでも話したくないんだな?」
こっくりと頷く少女。肩口で切り揃えられた亜麻色の髪が揺れ、その俯いた表情を隠す。
クレープが溶けるぞ、と言うと、慌てて齧る。下向いた気分も少しは和らいだ。甘味様々であるな。
私もクレープを口にする。本来であれば簡単に食い尽くせるが、ペースは少女に合わせてある。先に食べ終わっていると、残された方は気を遣うものだ。それぐらいの機微は読める。
「誰かに聞いて貰うことですっきりすることもある。他言はしないので、話すだけ話せばどうだ」
再度促され、少女は揺れる瞳を閉じ、次に開けた時には覚悟を決めていた。あんまりにも真剣な表情だったので、またクレープが溶けそうだと言うと、こぼれそうな生クリームの部分を数度食み、空気が弛緩する。
慌てたのか、頬についたクリームを、物質創造したハンカチで拭いてやると、頬を染めて羞じらった。
「……どこから話しましょう。私がみなさんにお会いした時のことが関わっているのです。かいつまんで言うとーー」
「いや、全部聞きたい。それぐらいの時間はある」
少女が窺うように小首を傾け、私の顔を覗く。私は寛いだ様子でクレープを口にし、少女のようにお上品ではないので、唇に付いたクリームに、ちろりと出した舌を這わせて舐めとる。
実際には日差しがちょっと辛いんだがね。これも少女に気兼ねさせないためだ。少女の様子をこっそり窺うと、少し暑そうだったので、折を見て木陰に誘導すべきだろう。
前を向いた少女は、横に並んだ私に向けてというより、ぽつぽつと溢すように、昔の話をし始めてくれた。
森にいたサキュバスも、パーティの仲間も、両方とも少女と呼んでいますが、本人的にはちゃんと見分けはつけています。
淫魔のことを忘れているわけではない……はず。




