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「打ち上げと洒落込みました」



 急ぐ必要は、まあ獲物の劣化があったのでのんびりはせず、けど無理はしない速度でさっさと帰る。

 この世界、街の近辺で魔物と遭遇戦になることはあまりない。魔物も命が惜しいからだ。

 無論、例外はある。レッド・オーガみたいに、明らかに環境とは違うものが現れ、住み処を奪われたものが逃げて来た場合など。好戦的ではないらしく、人間が音を立てて歩いていると近寄って来ることはなかった。

 魔物と動物の違いは、積極的に人間を襲うかどうからしい。変わった造形のもぐらや、野生のイノシシなんかは、身を守るために攻撃はするが、基本姿勢は逃げを打つ。

 反面、小ヤギなんかは、遭遇すれば、たとえ相手の方が数も多く、力が上の場合でも、狂ったように殴りかかって来る。オーガの手下になってる場合以外では、仲間割れするので群れないそうだ。

 随分と曖昧な区分だ。さっきみたいに、本来の縄張りではないせいか、人間相手に逃げを打つ魔物は魔物と呼べるのだろうか。

 それとも、見た目や匂いが変わっているだけで、あれは動物扱いだったのかね?


 そんなわけで、行きはよいよい帰りもらくちん。足止めされることもなく街に戻って来た。

 レッド・ブルは買い取り所で丁寧に処理され、内臓も余さず保存される。すぐに保存魔法される他、高級品なので、幾ら冒険者が解体に手慣れてるとは言え、プロの処置と比べると価格に差が出てしまうそうだ。手数料を取られてでも、丸ごと持ち込んだ方が黒字になる所以である。

 レッド・ブルと小ヤギの肉、持っていた武器の売上金は二パーティで半々にしようとしたが、モヒカンたちはこれを固辞。半分も貰えるほど活躍してないとのこと。世紀末真面目だな。

 なら人数で分けて六対四と提案するも、モヒカンは冒険者ギルドで白黒ハッキリ着けようやと取り合ってくれない。

 私は事情がわからなかったが、わりとどうでもよかったのでぼんやりしていると、おっさんが例によってそれに気付いて説明してくれた。目敏いな。理解してないで付いて来るより、きちんと知識を持って対応出来るようになれという。

 おっさんは大人だね。いつまでも一緒に居るわけではないというのがよくわかってる。寄る年波もあるし、おっさんも引退を考える年齢なんだろうなぁ。まだまだ目を離せない若者に、自分の知識を少しでも伝授しようとしているのだろう。今、世話を焼かれているのは年寄りの私だが。


「依頼達成、お疲れ様です。難しい依頼を達成していただき、ありがとうございました。ギルドカードの提示をお願いします」


 依頼を達成したらギルドカードを見せる必要があるらしい。身分証明のみならず、カードには討伐した魔物が記録される仕組みになっている。

 ……いや、なんでみんな平然としてるの? おかしいやん? 明らかに文明レベルを逸脱してるやん? 自動生成マップ、アイテムインベントリに並ぶゲーム三大神器のひとつやん?

 明らかに身一つしかないのに、重い武器を百も二百も持ち歩けたり、自身のみならず、向いてる方向に移動経路、場合によってはモンスターのシンボルまで丸わかりのマップを、ひのきのぼうと同じ初期から持っているのと比べたら、自分でせっせと書き込んでいる設定と言い訳出来るモンスター図鑑は、幾らかグレードが落ちるかも知れないが、達成確認にも使用するシステムとして使われているのは明らかにおかしい。

 どうにも、洗練された食文化の時と同じく、元から知識を持っているものが再現した感がある。穿った見方なのかね。


「レッド・オーガとブル・オーガを、それぞれ単独討伐……!?」


 パーティ討伐か単独討伐かどうかも分かるそうだ。ますますもってとんでも技術である。団体で挑んだにも関わらず、レッド・ブルは単独扱い。一体どうやって判別しているんだ? 中に小さい人が入っていて見てるのか?

 そういうものだと、皆は当たり前のように享受しており、疑問に思っているのは私だけのよう。与えたダメージとかではなく、戦闘に於ける総合的な貢献度で決まる。

 でないとヒーラーはいつまで経っても昇段出来ない。パーティの生命線として奮闘しているのに、扱いが不遇では誰もやりたがらなくなる。癒し手とか聖女としては、討伐数に記録されないのなら本望かも知れないが。

 だからそれをどうやって判別しているのか、という疑問は、言っても無駄なので呑み込んだ。


 余談ではあるが、人間の討伐数は記録されない。これだけハイスペックなら多分出来るんだろうが、ハイリスクハイリターンのハイエンドみたいなものだ、英断であるな

 というわけで、この世界のモンスター図鑑に人間系モンスターは登録されませんでした。


 私のモンスター図鑑……もとい、ギルドカードに魔力を込めると、空中にスコアがAR投影のように表示される。

 ブル・オーガ 単独討伐数1

 小ヤギ 単独討伐22 部隊討伐数8


 ギルドカードを手にしてからなので、表示されているのはこれだけだ。

 もぐらはやはり動物扱い。どうやって討伐依頼の証明をするのかと少し思ったが、基本的に畑を荒らすのを倒すので、依頼主に直接見て貰って可不可を判断して貰うのだろう。

 小ヤギは額を撃ち抜いたのが単独討伐で、貧血や脱水症状にした討伐補助が部隊扱いなのだろう。こうして見ると私、仕事してないな。

 レッド・オーガは少年が真っ二つにしたとは言え、おっさんの援護のお陰で優位に進めていた。それでも単独討伐扱いなので、援護がなくとも十分だったのではと判別されている。私が動きを鈍らせた小ヤギも、わざわざ邪魔するまでもなく簡単に倒せた奴は含まれていないのだろう。


 これで少年たちとモヒカンたちのスコアが明らかになったので、だいたいその通りに分ける。レッド・ブルは私たちの単独討伐扱いなので、モヒカンたちの分け前は大量に引き受けた小ヤギの分だ。

 分断したお陰で大分助かったので、少年は色を付けて渡す。ブル・オーガが乱入したとは言え、自分たちだけより安全に小ヤギを始末出来たので、これでも貰い過ぎだと言ったが、少年は「正当な働きくらいは受け取ってくれ」と強引に押し付けた。

 これがブル・オーガが出た時、少女を置いて我先に逃げるような輩だったら少年もシビアに分けただろう。少女から改めてお礼も言われ、思わぬ高収入にモヒカンたちも嬉しそうだ。

 小ヤギの売上ほぼ全てを渡したが、それでも八:二でレッド・ブルに軍配が上がる。変異種というのはレア物らしい。

 依頼の報酬は一パーティ毎なので、きっちり分けて終了。

 最後におっさんが、ブル・オーガが水の中から現れたことを伝え、これでギルド全体に情報が共有される。学者ギルドは魔物の生態調査を纏めているし、鳥系の獣人が全国を飛び交って情報のやり取りをしているらしい。頼めば郵便も引き受けてくれるそうな。


 無事依頼を完了し、高額の収入もあったので、全員でブランチに繰り出す。猫どもが抜け目なく、旨くて昼間から宴会が出来る定食屋を確保し、支払いは少年が今回の収入から出す。


「お前らがランク上がって、ひよっこを引っ張っていけるようになったら、同じように奢ってやってくれ。俺たちもそうして貰ったんだ」


 舎弟と化したモヒカンたちも遠慮せず飲み食いし、それでもフードファイトの如く平らげる少年と猫どもにドン引き。打ち上げは楽しく進んだ。

 この世界、高ランクになればなるほどよく食う傾向にあるらしい。百七十そこそこの少年が、どう見ても二メートル越えの筋肉ダルマを腕相撲で軽く抑え込んでいたのは面白かった。筋肉の密度が違うのだろうか。その分代謝も必要なのだろう。

 モヒカン、強くなるには沢山食わなければいけないと思うのはある意味真理だが、顔色が土気色だぞ。勿体無いから吐くなよ。


 今回もあまり働かなかったので、私は食うより飲む方だ。ワインを転がしてじっくり味わう。私は種族柄、赤を勧められることが多いが、別に白だろうと梅だろうと芋焼酎だろうと普通に嗜む。ただ、麦はイメージに合わないから止めろとは言われる。

 まあこの世界、飲酒に年齢制限は設けられていないんだが、やはり私の容姿で嗜んでいると二度見はされる。嗜好品の類いが規制されるのは、若者の無気力と生産力の低下を問題視されて、国が乗り出すのが主な理由だ。この世界、食い物関係が早くに発展したので「葉っぱ買うくらいなら食い物だ!」と健全に乗り越えたようだ。(やく)は飯が不味くなる。酒は仕方ない。生産力が向上するから仕方ない。色々と業が深い。

 ついでに、人間が強いせいか、(やく)の効き目も薄い。魔法がなければ手術が大変だったかも知れん。痛みにも強いようだが。モヒカンとか酒ビンで頭殴られて血まみれになっても笑ってるし。どうしてそんなことになっているかわからないが、少女が心配するから止めなさい。


 私はお腹が空いてない時以外、あまりものをたべたくない。何故なら、お腹が空いてる時に食べた方が美味しいからだ。

 食にうるさいものなんかは、腹が満ちている時に食べて、旨いと感じるものが真に美味しいものだと言うが、私は旨ければなんでもいい。なるべく旨いものを旨いと感じたいだけだ。

 だから、リスのように細々と食べるよりも、纏めてガツンと食べたいものなのだが……他人と同道していると難しいのだろうな。

 いちいち食事に時間を取られては非効率だ。調理する手間は、まあ美味しい料理のためには必要経費なのだが、それも毎食では嵩んで来る。

 面倒ではあるが、非効率なのが人間だ。私が時間を気にすることの方が噴飯ものだろう。人間になった以上、この手間も楽しまないとな。


 頭の中で色々と考えてはいるが、表情には出ないのが私だ。別に眠くてぼーっとしているわけではない。白猫、酔っているからといって私を捕獲しようとするんじゃない。私はぬいぐるみではないぞ。

 モヒカンパーティは呑兵衛が揃っている。人の金だからかも知れないが。強くはないらしく、顔を真っ赤にして楽しそうだ。酔うのに量が必要なわけではなく、安酒で顔を楽しそうにしているのは、ある意味一番ベストな酒の楽しみ方だと思う。

 少年らは酒よりも食い気だ。少年や猫どもは一杯だけ。ちょっと顔を赤らめて、普段よりはしゃいでいる。

 おっさんは静かにグラスを傾けていて、酔う気配はない。少女は一滴も口にしないようだ。勧めてみると、苦いのがダメらしい。

 ふーん。そろそろいいか。


「じゃあ、お前たちは王都に向かうんだな」

「へい、兄貴たちは?」

「俺たちは海の方だな」

「海っすか! 実はおれ、あっちの方の出身なんすよ~」


 モヒカン、漁師体型だもんな。よりマッシヴにしたおやぢを想像してしまった。と、思ったらリゾート地の旅館経営らしい。詐欺だ。料理人は現役、接客にも使えない。強面警備員しかやることがないので、客に悪影響だからと放逐されて冒険者になったらしい。それなら納得。


 私たちもだが、モヒカンたちもすぐに発つそうだ。少年から誘ったとは言え、Eランクのパーティが分不相応な依頼を達成させて貰ったのは、外聞がよろしくない。冒険者ギルドの中には、よく思わない輩も出てくるだろう。

 もっとも、ギルドで職員に話を聞いた限りでは、あの時いた冒険者はすでに旅立ったらしい。この街は交易路で、定期的に街周辺の魔物狩りをするために依頼を出す以外は、あまり仕事がないので冒険者が定着しない。

 近くに畑とかもないので、駆除や防衛依頼はなく、品物が豊富で採取も頼まれない。商人の護衛が主な依頼で、すぐに行ってしまうのだ。

 今回のように、突発的な魔物の襲来の時には、隣街の王都に救援を求めるそうだ。少年がたまたま居合わせたからいいが、王都に連絡が行った後だったら、すこぶる面倒なことになっていたことは想像に難くない。主にモヒカンたちが突き上げを食らう。

 そんなわけで、依頼の集まる王都に向かうのは、冒険者としては当然の流れと言える。


「うぅ、もうお別れなんてさみしいです。おししょぉ~」


 酒のせいか泣きが入っているおっとり巨乳の上半身タックルを、椅子から立ち上がって躱す。おっとり巨乳はそのまま椅子の上に倒れた。

 なんで避けたのかと問われれば、呼吸に融通が利くと言っても苦しいことは苦しいからだ。何故かSAN値がごりごり持っていかれる気がする。向こうはエアバックがあるのだから、倒れてもダメージはあるまい。しかし、受け身も取らんか。酔っているな。

 むっくりと椅子から起き上がったおっとり巨乳は、脇に立ってワインを傾けている私を、据わった目で見上げる。酔っ払い特有の、のっそりとした無言である。

 それから数度、ベアハッグを仕掛けて来るが、避けようと思った私を捉えることは出来ない。猫どもにも無理なことを、後衛魔法使いに出来るものかよ。


 おっとり巨乳に泣きが入り、陽気なモヒカンどもがそれを見て笑う。猫どもが混乱に乗じるつもりなので気を払わねばな。


 結果としては、漁夫の利を得た少女の膝の上でデザートを口に運ばれる次第となった。人生とは(まま)ならないものである。


 

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