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「気まぐれでお仕事をしました」



 肉も食い終わってまったりする。雨はまだ止んでない。オーガの死体は布にくるまれてその辺に転がっている。平和だ。

 準備は私がやったので、片付けは猫どもや少女が申し出てくれた。と言っても、木から物質創造した食器は、荷物になるので洗う必要はないし、鍋も鉄に戻す。食事の片付けは必要ない。

 やることと言ったら小ヤギの解体なので、モヒカンたちと手分けしてやっている。正確には、少年、猫ども、子分、下っぱの五人。他は、功労賞だったり負担が大きかったので休憩だ。

 お茶なんて上等なものは無い。竈で沸かした白湯を飲んで、口の中の脂を落とす。温かいものを飲むと落ち着くと言う。私は落ち着いたであろう、おっとり巨乳に改めて話を聞いた。


「なんで弟子入りなんてしたかったんだ?」


「それは……自分が不甲斐なくって……。少しでも、強くなれればって」


「その力は何のための強さだ? 弟子入りをしたら、拘束時間が生まれ、パーティには居られなくなると、考えなかったとは言わせない。

 お前は今ある仲間と離れてでも、強くなることを選んだのか? それはなんのための強さだ? 仲間と共に、助け合っていく強さではいけなかったのか?」


「……そ、れは……」


「エルフさま、あんまりいじめねぇでやって下さい。パーティは強い絆で結ばれている、けして離れることはない、なんて、言いやせんよ。他にやりたいことが出来たなら、おれらは笑って見送りやす」


 勿論、ずっと四人でやって来たんで、寂しいことは寂しいですがね。そう言って笑うモヒカン。他の二人でも同じことを言うだろうと、言外に滲ませるほど、その言葉には仲間への信頼感があった。良いパーティだね。見た目は世紀末だけど。

 私はますます俯いてしまったおっとり巨乳の頭を、ぽんぽんと軽く叩き、髪を掴んで上を向かせる。


「それはいいんだ。私はまだ答えを聞いていない。ーーそれはなんのための強さだ? 応えろ」


 穏やかになり掛けた空気が凍りつく。唖然と口を開けてるモヒカンには悪いが、なあなあで済ませる気もない。いや、別にいいんだけどさ済ませても。でもなんとなく。減るもんじゃないし。


「なんのために力が欲しい? なんのための強さが欲しい。

 その胸の中にある望みはなんだ。その望みは、今を変える価値があるほどの希求なのか。お前が真に求むるなれば、その胸の内にあるものを晒けて見せろ」


 金の瞳とおっとり巨乳の瞳を正面から通わせ、髪を掴んでいた手を離して両頬に添える。文字通り魅入られたように、引き攣ったおっとり巨乳は逸らすことが出来ず、しゃがみこんだまま、見下ろす私の瞳の中に写る、己の瞳の内を見詰める。


「あなたの叶えたい願いはなんですか?」


 糸が切れる。過負荷に耐えきれなくなった身体が意識を手放すことを選択し、力を失ったおっとり巨乳を支えて、頭を私の膝に寝かせた。

 気になって見ていたギャラリーは、事情を説明して欲しそうだったが、おっとり巨乳に気を遣ってか口を開かない。

 どうせしばらくは目を覚まさない。いつも通りにしていればいいと、私から説明する。


「なぁに、ただの暗示だよ」

「ただの?」

「暗示?」


 胡散臭いことこの上なさそうな声音で言われた。失敬だな。暗示は暗示だろう。

 魔法は心に左右される。ただ漫然と、教科書に書いてある通りのやり方を(なぞ)ったところで、教科書通りの結果しか生まれない。

 己の心に求むるものがあるのなら、己の心に聞いてみるべきだ。


「門を叩く者にのみ、扉は開かれる。これも暗示だよ」


「なるほど、わからん」


「おっさんの心は覗きを求めているから、遠見の魔法を使えるようになったのだろう?」


「それに関してだけは、強く否と言わせて貰う」


「心の底から求めれば、透視の魔法も発現出来るかも知れん。頑張れ、己の欲と真摯に向き合い、エロスを極限まで高めて願うのだ。

 とりあえず、そこにいる少女を、服の上から想像して、じっくりたっぷりねぶるように凝視するところからはじめようか」


「もし本当に透視まで出来れば心強いが、あんたの言う通りにはなりたくない俺がいる!」


「すまん。流石に少女の目の前で、こっちの意識のない巨乳を視姦しろとは言えんのだ。おっさんの欲望の捌け口にするには少々貧相かも知れんが、瑞々しい華奢な肢体を手折る背徳感で己を高めてくれ。なに、少女ならおっさんの欲望を受け止めてくれるさ」


「これで俺が透視魔法を求めたら、大いなる誤解が生まれるだろうと言っているんだ! 百年の恋も冷めるわ!」


「フランツさま、私なら大丈夫です。私でどんな妄想をしていただいても、それを現実に移しても。私は受け入れますわ。むしろ、していただきたいです。見ていただけるというなら、好きなだけ見てください。私は、フランツさまにでしたら、どんな姿でも見ていただきたいです」


「すまないが少し黙っていてくれ……!」


 おっさんは頭痛が痛い。笑ってたモヒカンも引いている。少年のような図太さが足りないね。こればかりは慣れか。

 小ヤギの解体が終わり、取り外した内臓と骨は埋める。内臓も食えるのに勿体ないと猫どもは言うが、こんなに大量に、恐らく草食獣と思しき動物を狩ったのだ。肉食獣が食べる分を残しておかないと、森が禿げる。

 そう言うと、猫どもはよくわからなそうな顔をしていたが、言う通りにしてくれた。

 小ヤギの肉は私が包んでリヤカーに積んでいく。小ヤギの骨は頭も含めて使い途が少ないらしく、肉だけなので嵩張らない。

 偶蹄目ではシカは勿論のこと、ヒツジの角なんかも使えるらしい。悲しいな、ヤギ。


「……その高級そうな布はどっから持って来たんだ?」


「桑の木ってどこにでも生えてるし、実は美味しいし、葉や根は薬になるし、凄い植物だよな」


「なんで答えないんだよぅ」


 答えは言ったが。

 道中の散策で異世界麻も回収しておいたので、ロープも物質創造してリヤカーに固定しておく。

 水分操作で水分から熱を奪い、氷にして、これも布でくるんでリヤカーに載せた。簡易クーラーボックスだ。無いよりはマシ。

 オーガや小ヤギの武器はどこから調達したのだろう。物の価値は見た目通りなので、ドロップアイテムとして持ち帰る。嵩張るので、破損しているものや価値の低いものは置いていくというので、私がこっそり回収して巾着袋に入れる。素材毎に解体して、きゅっと圧縮した。こんなものは自然に残しておいても邪魔にしかならない。エコだよ。

 リヤカーに載せたら、大きい布で覆ってロープで固定した。

 もう一つのリヤカーにはレッド・ブルをそのまま積む。その場で解体するより価値が上がるらしい。

 丸ごと持ち運べるなんて滅多にないことだ、と少年たちは喜び、一リヤカー一オーガだと思っていたモヒカンたちは、予想外の積載量に帰りを考えてぐったりしている。肉を食って落ち着いて、興奮物質が抜けて来たようだ。

 こちらにも氷を積んでロープで固定した。

 雨が降っているからとて冒険者は休業にならない。腹も満たされたのでキリキリ労働だ。出立準備を済ませ、雨避けにマントを羽織って屋根から出る。


「すいやせん、ベスがまだ目を覚まさねーんですが……」


 モヒカンが呼び止める。おっとり巨乳の名前らしい。そう言えば四人組の名前を聞いていなかった。私が聞き流していただけで、自己紹介は済ませているそうだ。私がピンと来ていない様子なのを察して、おっさんが教えてくれた。

 おっとり巨乳がベス、子分がミヒャエル、下っぱはエリザベス、モヒカンがモヒカーンだそうだ。


「ふざけてんの?」


「えっ、な、なんでおれ、怒られてんすかね」


 異文化の言語だ。エロマンガ島とかオマーン国債のように、響きだけが符号することは無い話ではない。しかしこれは、色々とふざけてるとしか思えない。責任者呼んで来い。いや、いいや面倒臭い。どうせ私はモヒカン呼ばわりだし、名前なんかすぐ忘れる。

 モヒカンに罪はないが、フォローはしない。嘆息しておっとり巨乳のローブをひっ掴む。

 オーガが肉の上にでも載せておけ。その内起きる。


「エルフさま、それはあんまりでさぁ」


 子分はそう言うが、少年らのパーティも待つ気はないようだ。少年と猫どもがおっとり巨乳を載せてさっさと行ってしまう。少女とおっさんは三人になったモヒカンたちを手助けした。

 私は少年らの方だ。おっとり巨乳が落ちないように、また、仰向けに寝かせて雨に濡れるのも忍びない。水分操作で雨を避けてやる。


 雨の止んだその日の宵、野営の最中におっとり巨乳は目を覚ました。

 目を擦るわけでも、むずかるような唸り声を上げるでもない。身体を横たえたままの姿勢で、目だけを開いて微動だにしない姿に、気付いた下っぱがぎょっと仰け反った。


「あ、あ、おー。お、起きたかい。長いお昼寝だったねあはは」


「……」


 しかし微動だにしない。立ち直り、努めて世間話を振ったはいいが、努力している次点で滑った時が辛い。自然にしてればいいだろうに。

 おっとり巨乳が上体を起こし、緩慢な動きで立ち上がる。自身の杖を持って、虚空を見詰める様子に、気が付いた者たちは何事かと見守った。

 モヒカンたちは心配そうに、少年らは、知り合いとは言え会ったばかりの人物。僅かな警戒を滲ませて。ギャラリーが動かない中、おっとり巨乳は、後は火種を持って来るだけ、という薪に杖を向けた。


「……」


 何事かを口の中で呟いている。猫どもすら聞き取れないレベルだろう。自身すら何を言っているのかわからないかも知れない。

 その言葉を、聴いているのは、私くらいだ。


「……にたくい、たくない、ぃにたくない、しにたくない、死にたくないーー!」


 光。そして耳をつんざく絶縁破壊の轟音。押し出された空気が振動と共に押し寄せ、光は一瞬ではなく、虚空と地上を何度も行き交い、瞳に焼き付く。

 終わった後には、焼けた薪が吹き飛び、地面すら黒く焦げて炎が残っていた。


 耳がやられたのか、一言も発さない一同に代わり、私はひとつ頷き、この場を纏める。


「てってれー。おっとり巨乳は新しい魔法を覚えた」


 低い姿勢で身体ごとぶつかられ、腰に手を回される。下半身タックルはルール通りだったろうか。


「師匠ぉ~っ、わたし、やれました! やってやれましたよぉ~っ」


「ええい、抱きつくんじゃない。誰が師匠か」


 何がとは言わないがぎゅむぎゅむと押し付けられる。上半身タックルならレッドカードだ、命に関わる。いや、私はある程度呼吸には自由が利くのだが。棺桶で寝るくらいだし。

 ようやく耳が戻って来たのか、解凍された少年は、飛び散った薪を、火を絶やさないように纏めて焚き火にする。


「はぁー……、とんでもないな」


「高が雷魔法だろう?」


「半分以上はお前に向けて言ってんだよ?」


「心外だな。私が何をしたと言うんだ」


「二、三言葉を交わして寝かせただけで、他人の魔法が強化されんのは異常事態だっつってんだよ! エルフってのはどうなってんだ?」


「我が儘だな。魔法担当という名目で私に声を掛けたと言うに、いざ期待通りに働けば頭ごなしに怒鳴りつけられる。私は悲しいよ、少年」


「くそう、何も間違ったことは言っちゃいないはずなのに、俺が悪いみたいな気にさせられる!」


 何を盛り上がってるんだろうね、この子は。

 特段難しいことをしたわけじゃない。種族柄、相手の心を揺らす術を知っているだけだ。私じゃなくとも出来る。知っていれば。

 ん……? しかし、魔法に造詣が深いわけでもない私が、どうして知っていたのだろう。忘れているだけで、どこかで聞いたのだろうか。長生きしていると、どうでもいいことは覚えていられない。

 まあいいか。長生きの秘訣は深く考えないことだ。


 落雷だけでは無駄が多いので、杖の先端に放電させるスタン・ロッドと、杖の先端を始点にして、ステップトリーダを伸ばして敵に直接ラインを作る横に落ちる落雷のコツを教えておく。

 勿論頭上からピンポイントで狙う落雷も使い途はあるので、鍛練は怠らないように。どれも味方に当てないように気を付けろよ? 誘導路のみならず、感電にもな。


「ありがとうございます、精進しますよ、ししょー」


 師匠は止せ、七面倒臭い。

 何かの葛藤と戦っている少年を余所に、モヒカンら三人は田舎の老人みたいな呑気な顔をしている。思考放棄とも言う。


「よかったなぁベス」

「んだんだ」

「エルフさまの弟子だなんて、なんだか遠くにいっちまったみてぇだべ」


 イントネーションは私のイメージです。弟子に取った覚えはないが。


「そんなことないですよ。私はみんなと冒険するために強くなりたかったんです。私、もっと強くなって、みんなの役に立ちますから。置いてけぼりにしないでくださいね……?」


 ちょっと強い魔法が使えるようになったからとて、強くなったわけではないのだがな。

 乗りかかった舟だ。そっちの方も老婆心でお節介を焼いておくか。


 帰りの道程、結局おっとり巨乳はガタガタ揺れるリヤカーで、荷物と一緒に運ばれる運びとなった。きっと新しく魔法が使えるようになって疲れたんだね。

 ……雷を避けるコツ? 使うのは人間なんだから、目を見ればわかるだろう。



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