「くまはどこまでも追ってきました」
朝食を終え、朝から満足して出発する。
それから街に着くまでは特筆大書すべきことはなかった。強いていうなら、知り合ったばかりの私たちが、雑談に花を咲かせてお互いのことを認識した程度だ。
「噂話程度の、眉唾な寝物語なんだが……」
「ふむ」
「この世のどこかには、いくらでも物が入り、品質が劣化せず、重さも感じない、古代の秘宝があるって話だ。もしかして、それがそうなのか?」
「いや、そんなわけがないが」
「じゃあ、フライパンとか、鉄板とか、どこから出したんだよ……」
その場で生み出しただけだからなぁ。
しかしこの世界、アイテムイベントリは無いのか……。なんとなく意外だ。
聞くと、手荷物や武器防具程度なら収納出来る、手のひら大の石サイズのマジックアイテムはあるらしい。
けれど、真っ先に要人の暗殺などに使われ、研究は中断。あることにはあるが、庶民には手を出せない値段になってしまった。
今では要人の私服護衛なりが主に使い、謁見の際には魔力感知器で体内も調べられるなど、対策に追われている。
人間同士の争いで、魔物に対する牙が失われる。迷惑な話だね。
……ん? あるのなら、なんでこの巾着袋にそれが入ってると思わなかったんだ? エルフだから? そっかあ。
◆「休憩中の雑談」
「私は水の魔法が使える」
と、いうことにしてある。
「環境にもよるが、飲み水や、身体を洗う水の心配はしなくていい」
「わーわー」
「やんややんやー」
「湿気った薪なんかも乾燥出来るし、獣の内臓も、水分を奪って風化出来る。流石に肉を干し肉に、とかは知識も経験もないので難しいが」
「薪を乾燥出来るだけでもありがたい」
「雨に振られるとどうしてもな……。乾燥出来るってのは、人間もか」
「出来なくはないと思うが、加減がわからないのでやりたくないな。私自身には遠慮なく使うが。
素直にタオルで身体を拭きなさい。濡れたタオルは乾燥させてあげるから」
概ね好評を得られた。飲み水が確保出来るだけでも違うらしい。人間は血で水分を摂らないからな。
私のようにエレメント……地水火風空の魔法を使う人間は貴重らしい。
制御が難しく、出力も低いので、一般的には、魔鉱石と呼ばれる石を研磨して、武器に取り付けて、魔法を増幅させるそうだ。主に杖の先端などに取り付けられ、職業魔法使いを名乗ることとなる。
私はこの魔鉱石を使わず水を制御して見せているので、エルフはやっぱ凄いと感心されてしまった。ギルドの受付の反応の理由がわかった。少し申し訳ない。
これは、私の手品によるものだ。
私たちはある程度、血液を操作することが出来る。威圧や隷属と同じように、生まれもった技能の一つ。
私はこの世界で生まれ変わった際、これを使って樹木の血液たる水分を奪い取り、乾燥させ飲み水にした。
しかし気付いた。気付いてしまった。
『木にとっての水って血液か? ごはんじゃないのか? じゃあ血液ってなんだ? 樹液か?』と。
だのに、私は木から水分を奪い取れてしまった。それと同じ感覚で地面や川から水分を奪い取ったところ、同じように出来てしまった。
私の脳内に棲んでるクソオカマが「能力の拡大解釈ねぇ」と呆れた声でため息を漏らしたところで、私の血液操作には水分操作の発展系が外付けされたのだ。
よって、これは水魔法ではないんだが……、そもそも、魔法ってなんだろうな?
これ以上深入りすると、色んな意味で取り返しのつかないことになると、本能がアラート鳴らしまくっているので、私は考えるのをやめた。
私の魔法もどきを説明したので、少年らからもスペックの開示がなされる。
「俺の魔法は切断。武器は大剣だけど、普通の長剣も使う」
「二刀流か」
「ちげーよ。こんなでけーの片手で振り回すか」
「なんだ、大剣二刀流は基本だと思ってた」
「マジか。世界は広いなー。俺は一本扱うので精一杯だよ」
まあ大物二刀流なんて出オチみたいなもんだ。なんだかんだで一刀流が一番格好いい。
「ミヤとリンは武器同じだよ」
「ショートソードとダガーだよ」
「魔法は使えない」
「獣人は使えない人多いんだよね」
少年が腰に佩いているソードを、両手でも持てるロングソードと呼ぶなら、猫どもは柄が短く、取り回しの容易い軽いショートソードだ。
ロングソードとショートソードの定義には所説あるため、割愛とする。少年の剣なら馬上でも、降りても取り回せるだろう。
ダガーは、峰が刃を絡めるデザインで、ソードブレイカーに近い。ナイフで防いで剣で攻撃が基本……いや、相手魔物だから関係ないか?
他にも投げナイフを仕込んでいるようだ。
「俺の魔法は遠見だ。障害物は透かせないが、遮蔽物がなければ2キロ先まで見透せる」
この世界にも距離の単位はあったが、面倒なので脳内で大まかに翻訳した。
「透視も出来れば覗き放題だなおっさん」
「そんなことはしない……」
「女の身体に興味はないのか」
「そうは言ってない。俺だって健全な男だ」
「良かったな、おっさんは少女の肢体でも興奮するようだぞ」
「は、はい……」
「高いところに登ったらすぐ気付く」
「少しでも視線を感じたら目を潰そう」
「何を言っても逃げられなかった気がする!」
武器は主に弓。森林行軍にも使える鉈、ダガーと投げナイフも控えとしてある。それと罠も用意があるようだ。後方で周辺警戒をしながら敵の牽制、抜けた敵からヒーラーを守るなど、おっさんだけに一番忙しいと役どころ。
「私は生命の魔法が使えます。傷を治せる他、生命力を奪うことが出来るのですが……」
「諸刃の刃なんだ。回復は問題なく行えるんだが、攻撃に使うと自分の生命力を使う」
「なんとか上手く使えないもんかと、魔法に詳しい人に見て貰えないかと思ったんだけど……」
「力に慣れなくてすまんな」
「いいえ、私の力が至らないのが悪いのです。お役に立てるよう、誠心誠意努力します」
気負っているな。武器は一般的なスタッフ。先端に魔鉱石がくっついている。
少女は魔鉱石を使っているが、少年とおっさんは付けていない。外部に出力する場合は補助となるが、内側で完結する魔法には効果が無いとのこと。そんなもんか。
口頭だけではわからないことも多かろう。然りとて、焦らなくとも戦闘の機会はいくらでもある。
街道には結界とやらがあるとは言え、魔物の往来が完全に無くなるわけではない筈だ。道中、一度くらい魔物と遭遇したいものだね。
◆「野営その二」
「ぶっちゃけていいか?」
「何の話だ?」
「たとえ眠っていても、たぶん起きてる人間よりも私のが感知範囲が広い」
全員押し黙った。「本当か?」などという問いは無意味だ。実積がない以上、信用するかどうかの話になる。
私が言わんとしていることを吟味し、乗った場合のリスクとリターンを頭の中で算盤し、自然と視線はリーダーに集まる。
「……一人に負担をかけるやり方は容認出来ない。これからも交代制でやる」
全員、納得して頷く。私も一つ頷き、一応、ディスカッションとして、メリットを口に出すことで共有化を計り、売り込みをしておく。
「見張りを私に任せることで、睡眠の質が改善し、パフォーマンスが上がることで、より精度や稼ぎにプラスに働くと思うが」
「言わんとしてることはわかるけど、あんまり楽をすると反動が怖いからさ。お前だって、今はまだ完全にうちに居着くって決めたわけじゃないんだろ? それに、少なくとも今は、人任せにしてのうのうと寝ていられないと思う。
お前だって気を張ってるのは辛いだろ? 一人じゃないんだから、交代したら遠慮せず休んでくれ」
「ふむ、困るなそれは。私もずっとこうだったので、辺りを気にしないで眠るのは無理だと思う。これでは人のことを言えないな」
「よっしゃ勝った」
「だが、今後はわからないな? 焚き火は消して、全員が周辺警戒をしながら半覚醒の休息を取る未来もあるわけだ」
「……それ、そっちの方が疲れないか?」
「慣れればちゃんと休める。別に熟睡しても構わないぞ。私が起こすから」
「いやいや」
なかなか双方が納得するすり合わせは成立しないものだ。
パーティと私、のみならず、個人同士でもそれは顕著である。
「一緒に寝よう。わたしが抱く」
「ダメ。リンが抱く」
「私は抱き枕か」
「ふわー。抱きしめるといっそう気持ちいい」
「アリッサも抱く? もふもふだよ」
「私はぬいぐるみか何かか」
猫から猫へ、猫から少女へと地面を経由して貰えない。少女は私を尊重しているのか、膝裏に手を入れて据わりを良くしてくれた。あ、小動物に負担をかけない抱き方だこれ。
「少年からも、猫どもになんとか言ってやってくれ」
「……なあ、そういや俺名乗ったよな? 小僧なのは認めるけど、名前、覚えてるか?」
「か……カイドウ」
「誰だ」
「東海道中膝栗毛!」
「だから誰なんだそれは!? 人名なのか!?」
「なんだっけか。アイゼンシュヴェルグくんだっけ」
「惜しい! けど全然違う」
「年を取ると人の名前が覚えられなくてなぁ」
「仕方ない。ベッドの中でもっと交友を深める」
「よいではないか、よいではないか」
「お前らもだからな? こいつの名前、言わないように避けてるの気付いてるぞ」
猫どもが目を逸らす。どうやら私と似ているらしい。そうだよな。名前なんて覚えられないよな。お前、でもそこの、でも好きに呼べばいいんだよそんなの。少年は頭が固い。
少年が覚えてるのは確認している。それを盾に、猫どもに私の名前を言ってみろと強要している。
「え、え……」
「えー、あー」
「「エルフ」」
「見りゃあわかる」
残念、不正解だ。
「カイのごぼどうがエレノアさまだから、びみょうにあたまにはいってこない」
「もうエルでいいんじゃないかな」
「エルがいい。よびやすくてかわいい」
「好きに呼んでくれて構わんよ」
「いいんかい」
「いいんだよなんでも。私も好きに呼ぶからな。少年、猫どもこと、白猫、黒猫。少女とおっさん」
「おっさんじゃない」
「……なあ、32っておっさんじゃないのかな?」
「私からすれば小童だよ」
「ああもう、これだから長命種は……」
そろそろ少女は私の髪を梳くのをやめなさい。
大体の他人は私に気を遣うので、マスコット扱いははじめての経験だ。だが、私とて構われすぎるとストレスになる身。
私の持ち回りの後はテントに戻らず、その辺で天蓋付きベッドを物質創造して横になっていると、次の人に大いにびっくりされた。
◆「遭遇」
「前方に荷馬車。人間が二十人ほど。血を流している」
私がよく通る声で伝えると、少年がハンドシグナルで馬を並走させ、中年が街道の先に目を凝らす。
荷馬車と護衛が盗賊と交戦中らしい。どこにでも湧くな、盗賊って。あと半日もすれば街に着く距離だが、危なくはないのか?
おっさんから状況を聞いた少年は迷わず突撃指示を出し、最大戦速で馬を走らせる。それでも、半分ロバみたいな馬はパッカパッカと緊張感がないが、これでも頑張っている方なのだろう。
少年の判断は猪ではないのかと思ったが、ある意味では模範解答らしい。
盗賊が戦闘になるのは確実に勝てる相手だけだ。強奪は、生きるための仕事なのだから、怪我や死亡のリスクは避けるのが当然のこと。
護衛が余程弱そうだったのか、大人数で武装解除させてから襲いかかった外道なのかはわからないが、天秤が傾けば撤退する可能性が高い。そのくらいに盗賊の士気は低い。
間もなく猫どもの視界に馬車が入り、遅れて少年の目にも映ったところで、おっさんが馬上から矢を射掛ける。
おっさんならもっと遠くから当てられるというが、奇襲の意味はあんまりない。見殺しにはならないように目を光らせてはいた。
一般的な視野の少年が目視出来たということは、向こうからも見える距離ということ。矢が飛んで来たということは、乱入者である我々が既に状況を把握しているという証左だ。
護衛が四人。商人が御者を含め三人、盗賊が十三人。
我々六人が加われば、足手まといを除いて十対十三だ。盗賊の被害が大きくなる。
しかし、盗賊は戦うことを選んだ。規模も大きいし、どうにも妙だとおっさんは言う。
この世界、大きな盗賊団はとんと見ない。規模が大きくなれば街の外に拠点を作り、隊商の商売が成り立つ範囲で通行料を頂き、周囲の魔物を狩って食糧とする。
それはもうサバイバーではないかと思ったが、魔物も貴重な資源である現状、消費しかしない盗賊団は蛇蝎の如く嫌われ、冒険者ギルドから目の敵にされて執拗に討伐隊が組まれ、国が動いて開墾地送りにされる。
だから、盗賊は小規模で動き、護衛をけちった荷馬車なり、弱そうな護衛を僅かに数で制するのだ。
十三人は多い。街から近いし、臨時収入目当ての荒くれ者の可能性が高い。
半数が商人側の押さえ込みに入り、残る六人が我々の足止めに構える。薄汚れたボロだが、そこそこ堂に入った構えだ。
人間が強いというのは、こういう無法者でも一般人では敵わない戦闘能力を持っていて困る。
おっさんは少女と共に馬に乗ったまま、中距離で留まり、猫どもが飛び降りて、少年が馬上で剣を携えて突っ込む。その馬、借り物だよな?
おっさんの矢が一段高い馬上から盗賊を狙い、駆け抜ける少年を止めることも出来ずに蹴散らされる。討ち漏らした賊は猫どもがきっちり始末し、少年は後顧の憂いなく護衛に手こずっている残りに吶喊した。
その時点で既に盗賊は逃げ腰だったが、少年らの連携は逃がすに及ばず、瞬く間に残る六人も制圧される。
少年らは残心して警戒を弛めない。が、護衛らしき人たちに声を掛けようとすると、護衛の一人から鋭い声が飛ぶ。
「あ、あと一人居ます! どこかに隠れて……っ」
「……いいえ、こっちにいます。馬車の前ですよ」
固い声に、追い付いた少年らのパーティは顔を見合わせた。護衛は顔を青くして、慌てて駆け込む。遅れて私たちが見に行くと、御者らしき老人と、子供を抱いた婦人の前に、残る盗賊の最後の一匹が倒れていた。
「これはあなた方が?」
少年がご婦人と御者に訊ねる。冒険者崩れの盗賊が一般人よりは強いのもそうだが、一見すると無害そうな女性や老人が、元冒険者の強者であることもざらにあるのがこの世界だ。しかし、二方は困惑した様子で頭を振る。
想定外の増援に、人質にでも使おうとしたのか、大人しくしろと刃物を突き付けられ、もう駄目だ、というところで突然膝から崩れ落ちて失神したとのこと。
護衛らしき四人組も顔を見合わせる。
「私たちが相手にしていた盗賊も、唐突に動きが悪くなりましたよね」
「病気か? それなら必死な行動も納得出来る。見ろ、顔面蒼白だ」
「戦う前は、顔色が悪いとは思わなかったけどなあ」
「援軍が来てから突然、だよな?」
その症状に覚えがあったのか、うちのパーティの視線が少女に集まる。生命を操る魔法、相手の体力を奪う効果に症状が似ているのだろう。
しかし、攻撃に使う生命の魔法は相応に体力を使うらしい。少女を案じてか、少しきつめが混じった視線に、少女が慌てて否定し、口を開いたところで私がそれに被せた。
「少女は生命の魔法を使う。怪我した者は訴え出るといい。それでいいか?」
「え、あ、は、はいっ。私が回復しますから、遠慮せずに言ってくださいね」
生命の魔法と言われて思うところがあったのか、護衛の顔に理解の色が広がっていく。
自分たちより先に依頼人を優先して欲しいという訴えに、お陰さまで私たちも馬も怪我一つありませんと労る婦人。
それに安堵して、怪我をした三人が治療されながら、口々に少女に感謝を伝えた。頭から血が出ていたり、肩から先が動かなかったり。盗賊の数が多かったのもあるが見た目結構やばい。けど、この世界の冒険者からするとそこそこの怪我らしい。
わりとざっくりいってる残る一人が、掠り傷だからと遠慮をして、少女に怒られている。
「勝手に決めてすまなかったな」
「気にすんな。言われなくても勝手にやってたよ。
……なあ、もしかして、やったのってお前か?」
対盗賊戦、唯一何も働いていない存在に目を向ける少年。私は肩をすくめてみせる。
「少年、知っているかね。人体の六十%は水分で出来ているらしいよ」
なんとも言えない表情で二の句が次げない少年に、盗賊を拘束していた猫どもと、周辺警戒をしていたおっさんが合流する。
後続はなし。当たりどころが悪かった盗賊三人が死亡で、十名生存とのこと。
怪我の治療も終わり、感謝と今後を伝えるために、護衛の依頼人らしきご婦人と話し合いの席を設けることになる。
「面倒だからもう先に行っていいか?」
「いいわけないだろ……」
「お礼はきっちりもらう」
「これ冒険者の義務ね」
色々と面倒臭い仕来たりがあるらしい。少年としては颯爽と助けて名も名乗らず立ち去りたいらしいが、冒険者が仕事をして、きちんと報酬を貰わなければ、それが前例となり、せこい商人が踏み倒す事例が生まれかねないとか。そんなことが罷り通れば、冒険者は依頼無しには商人を見捨てかねなく、双方にとって悪いことずくめだとか。
話を聞くと、ご婦人はさる商人の奥さんで、娘と僅かな資財と一緒に隣街に避難するところだったらしい。
安全で短い行路ということもあり、僅かな護衛で十分だと思っていたのだが、こんなことになり、きな臭い状勢に、少年らも護衛として雇いたいと言って来た。
隣街に避難? というところに私は首を傾げるが、くまが出たことだろうとおっさんが補足してくれる。
少年らが持ち帰った森の様子によると、地形が変わるほどの荒れようで、仮にくまでなくとも、何か恐ろしい災害のような何かが暴れ回ったのは確実とのこと。ギルド内にはすぐに情報が伝わり、慎重な商人は街を出る動きが活発になっていた。
奥さんの旦那さんは、街に残って情報を集めるらしい。もしも本当にくまなら、隣街のみならず、国を発つ覚悟が必要になるからとのこと。万が一の可能性に、先に大事なものを逃がしておいたのだろうが、そっちが先に狙われちゃ世話ないな。
降って湧いた護衛依頼に、すぐには判断せず、少年は他の皆にも意見を聞く。
「どうする?」
「議論の余地ない」
「盗賊の運搬もあるしな」
「困っている方を助けるのが冒険者です」
「エルはどう?」
「面倒だから私だけ先に行きたいと言ってもダメなんだろう?」
「まあな」
選択肢ははじめからなかった。
追加の護衛に関して、元の護衛である四人も異論は無いようだった。
怪我を無償で治療して貰ったし、そうでなくとも命の恩人だ。Eランクのパーティらしく、自分たちが苦戦した盗賊を容易く蹴散らした少年に尊敬の眼差しを向けている。
見た目は成人四人に見えるんだがな。この世界実力が全てか。
少年は護衛の依頼を快く引き受け、救助料を含めた護衛の依頼をその場で書面に興して合意する。現地の緊急依頼ということで、相場より高い金額を提示されたが、街から近く、これ以上の襲撃も予想されないことから、少年は値切る。護衛というより、安心を与えるくらいしか仕事はない。元々雇っていた護衛額の一人頭を半分にし、それを六人分とした。
正式に同僚になったので、好意に甘えるわけにはいかないと、応急手当程度で遠慮された治療を限界まで再開する少女。
魔力切れで倒れては敵わないと、おっさんが付き添い、猫どもは掠り傷だと言った一人と、縛った盗賊を荷馬車にくくりつけている。
少年は死体漁りだ。
「身元を証明するものは、流石にないか」
「それはどうするんだ?」
「戦利品は討伐者の懐に全て入る。生きていれば討伐料が入るんだが……死体は半額だ。討伐証明に首は持って行くが、それ以外を置いて行くのもな」
「馬にくくりつければ運べるんじゃないか」
「……いいのか?」
「ん?」
「ああいや、首だけなら隠せるけど、死体丸々だと、どうあっても目に入る」
私はそりゃあそうだと頷く。少年は、自身の気遣いが完全にムダだったとため息を吐いた。
ああ、少女辺りは気分が悪くなるか。だが、所詮この世は弱肉強食、死んだ人間など屠殺された豚も同然よ。
流石の私も死体には興味がないがね。今は人間だし、生前も生き血でないと意味がなかったから。
少年の馬に死体。猫どもが二人。おっさんと少女で馬が埋まる。護衛四人は徒歩で警戒、現在は歩かせた盗賊に睨みを利かせているが、同じく歩きの私に疑問があるようだ。
だって、スケボーは浮くじゃない? いや、スケートボードに飛行能力があるとかではなく。道中に少年らから向けられた視線と、客観視した自分に流石に理解したよ。
馬との相性が悪いとは伝えたが、あんまり納得はされていない。すると、荷馬車の中からお呼びがかかり、猫どもが話を聞いて来ると、私を荷馬車の中に入れたいとのこと。
正味面倒臭かったが、パーティリーダーたる少年からさっさと行けとのお達しがあったので、渋々荷馬車に乗り込む。
見た目通りの年齢ではないこと。これでも護衛より高いDランクであることを伝えたが、それとは別に、もし良ければでいいので、娘の相手をして欲しいとのこと。
奥さんの娘さんは三、四歳。同年代の友達と思われても困るのだが。
幸い、子供は嫌いではない。揺れる荷馬車で、娘のクッション代わりに尻に敷かれて、物質創造した絵本を読んでやるくらいには馴染んだ。
「ある日、森の中、くまさんに出会った」
「くまさん?」
「くまさん」
「くまさんから逃げる際に、イヤリングを落としてしまい……」
これ絵本だっけ? まあいいか。
そんな感じで次の街についた。特筆大書すべき点はなかった。
くまの影響力からは逃れられない。




