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「やった エルフ? をつかまえたぞ」



 今夜は朝までパーリナイの方ではなく、最低二人からなる小規模行動部隊のお誘いということになる。

 私は二人にのこのこ付いて行くことにする。奢ってくれるというので。私は大喰らいな方だ。自覚はなかったが、森では少女にびっくりされていたので。流石に気が付いた。

 そのこともきちんと話したが、うちも食べる方だから気にすんなと豪快に笑われた。私が小さいからと舐めてないかね? シカくらいなら三頭は食うよ。


 まあ、白状すると燃費が良く、人類と違って食い溜め出来るので、一度に食べる量は多いが、その後絶食をするのだが。

 今回はうわばみでお腹いっぱいになってるので、もう四、五週間は何も食わずに寝ていられる。腹持ちがいいな、あのヘビ。機会があればまた食べたい。

 食べ物は空腹が最高のスパイスだ。つまむ程度に(とど)めよう。


 パーティメンバーだという二人と合流し、お薦めのお店に向かう。

 大剣を背負った突っ込みの少年に、ショートソードを()いた猫。

 それから杖を持ってお上品に歩く少女に、弓を提げた、中年と呼ばれると傷付く加齢臭が気になり初めの四人だ。

 私は気になることがあったので、猫担当と思しき少年に声をかける。


「気になることがあるのだが」

「なんだ?」

「黒猫が白猫になっている」


 私の前に現れた時、猫獣人は黒い毛並みをしていた。しかし少年の隣を歩く猫は、髪から耳から尻尾まで真っ白だ。


「ふっふっふ。かかったな」

「それはわたしのざんぞうなのだよ。ミヤコではないのだよ」

「これがひぎ、かわりみのじゅつ~」


 残像じゃないんかい。

 どこからともなく現れた黒猫の方が、白猫の方と重なって、左右に分かれて後ろから出て来る。

 凄いな。匂いまで同じとは。少し鼻に頼り過ぎたかも知れん。

 どうやら双子らしい。猫なら珍しくないが、こういうのは一卵性というんだろうか? シルエットも同じ、色違いの2Pカラーだ。


「ほう、二人いたのか」

「わたしはミヤコだよ」

「わたしはリュンクスだよ」

「ふたりあわせて~」

「「とくにきめてない!」」


 両手を上げ、明後日の方向を見詰めて謎のポーズを決める猫ども。半眼ではないが、どっちも徹底して無表情である。

 猫担当の少年は頭痛が痛いのを(こら)えるように頭を抱え、おっとりした少女はにこにこと手を叩き、中年は他人の振りをしている。

 街の往来だ。派手な爆音と色煙の演出はなくとも耳目を引く。

 私はひとつ頷いた。


「大変だな」

「わかるか」


 他人事(ひとごと)だがね。

 昼の早い内にも関わらず、それなりに混み合った店内で大テーブルを確保し、適当に注文して、改めて自己紹介をする。

 少年がカイゼンベルク。少女がアリッサ。中年がフランツで、白猫がミヤコ、黒猫がリュンクスだそうだ。


「長いからカイでいい」

「カイは無駄に格好いい名前だから、勇者カイゼンベルクって名乗りたくて冒険者になった」

「ガキの頃の黒歴史を、会う人会う人、鉄板の掴みみたいに言うなあーーーッ!!」

「店の中だ、静かにしろカイゼン」

「ド正論なのに納得しがたい俺がいる……! あ、騒いですんません。気を付けます」


 真面目だ。ちょっと嫌そうな顔を向けられただけで、立ち上がり、綺麗に腰を曲げて頭を下げる。

 大衆食堂なんて騒がしいのが当たり前なくらいだ。流石にそこまでされると、相手の方が恐縮してしまう。謝罪馴れしているな。理由はわかった。

 少年と猫どもは幼なじみらしい。冒険者になるため村を飛び出して、中年に迷惑をかけて面倒を見て貰うことに。四人で冒険者として名を上げていた頃に、立ち寄った村で少女を加えたそうだ。


「で、なんで私を?」

「あー……、どうしよ」

「素直に言ったらどうだ? 取り繕うのは苦手だろう」

「カイゼンさまの魅力は、言葉を飾らないで素直にずけずけものを言うところですから」

「アリッサちゃん、褒めてないなそれ。怒ってる?」

「怒ってません」

「怒ってる時の反応だそれ!」


 詳しく話を聞くと、猫どもと比べて、慎ましやかなことで歯に衣を着せなかったらしい。

 確かに猫どもは細いのにそこそこある。対して少女は身長はそう変わらないのに慎ましやか(二回目)だ。

 どうでもいいが私には無い。欲しいとも思わないので共感は出来ないが、ハラスメントなのは間違いないので少女に同調しておく。


「うちのパーティを見てどう思った?」


 少年が大剣で猫二人が剣。少女が魔法で中年が弓。

 バランスがいいと思ったが、少女はヒーラーらしい。


「後衛火力が足りない?」

「ああ、特に魔法が弱くて。硬いやつが苦手なんだ」

「申し訳ありません……私が不甲斐ないばっかりに」

「そんなことない。アリッサはがんばってる」

「アリッサがいなかったらカイはとっくに死んでる」

「ハラスメントだぞ、少年」

「ハラスメントってなにさ!? 俺も感謝しているよ! 気を遣わずずけずけものを言ってごめんね!」


 で、一般的に魔法が得意と言われる、エルフが一人で、新規の冒険者になったと聞いて、会ってみようと思ったそうだ。

 最初は魔法を補って貰う代わりに、不慣れな冒険者稼業を手伝うと持ち掛けるつもりだったが、聞き込みをしている内に、はじめからDランクで、一人でも手堅く稼げる逞しい人物ということがわかった。


「で、誘っても、こっちが能力目当てで近付いたと思われそうだなーと思って、声をかけるのはやめようかーとも話し合ったけど、考えるのが面倒臭くなって初志貫徹で取り敢えず誘ってみた!」

素直(バカ)だな」

「ああ、俺みたいに年を取るとこう素直(バカ)になれん」

素直(バカ)はカイのいいところ」

「カイは素直(バカ)

「何故だろう。素直って言葉なのにバカって言われてるような気がするー」


 しかし一小隊、私を入れて六人って多くないか? 取り分とか大丈夫なのか。それともこれが普通なのか。

 他にも色々と気になる点はあったが、お互い一番聞きたいのはこれだろう。


「で、後衛がもう一枚欲しいと思ってたんだけど……爪?」

「前衛なの?」

「前に出る方が得意ではあるな」


 私はエルフではないので魔法が不得手だ。遠距離攻撃も出来なくはないが、魔法(物理)になる。

 ご希望の職種ではないので、マッチング不成立だろう。苦情なら、私の職業を魔法使いにした案内係に言ってくれ。私のせいではあんまりない。あんまり。少ししかない。


「エルフなのに爪って、なあ」

「格好いいだろう? ほら、ワンアクションで爪が飛び出る」

「格好いい。わかる」

「普段は爪を隠せるのも格好いい」

「わかってくれるか。ほれみろ少年」

「俺がおかしいのか……? もう話が合ってやがる」

「カイゼンさま、私もあんまりわかりませんから……」

「……」


 おっさんは少年の心を失ってないな。

 猫どもに爪を貸し出して格好いいポーズを決めて遊んでみる。ふむ、やはり猫に爪は似合うな。ちなみに猫獣人の手はにくきうではない。剣を持ちやすい手だ。

 遊んでいると、料理が運ばれて来たので一同一度、そっちに集中する。

 ふむ、なかなか大量。どうやら若者は結構食うらしい。少年はがつがつと、猫どもは細い身体のどこに入るのかもくもくと食べている。

 少女はお上品に一口が小さく、おっさんはそろそろ腹の肉が落ちなくなるのを心配している。


 私も頼んだ鶏肉のバターソテーにナイフを入れ、一口大にしてフォークで口に運ぶ。


 ……旨い。皮目がパリパリ、肉はしっとりジューシーで、余分な脂が落ちているのか、くどさを感じず、するりと喉を通る。

 鶏腿の肉に塩を振り、バターで焼いただけの料理にも関わらず、均一に通った火の加減、旨さを感じるベストな塩の量。ともすれば臭みを感じ易い鶏肉に、植物油ではなく牛の乳からなるバターを使い、風味を増し、コクを足している心憎さ。

 これはただ焼いた鶏肉ではない。人類の叡知が詰まった、人の文化の結晶だ。


 私が冒険者に登録し、金を得ようとした理由はここにある。

 人間の作る、料理というものは、うまいのだ……!


 ぶっちゃけ今まで生で食ってたのが馬鹿らしくなってくる。なんだ血ってあんなのただの生臭い排泄物ではないか。捨ててしまえ。

 どうして私はいままであんな不味いものを好んで飲んでいたのか、理解に苦しむ。

 生前はあれが旨かったんだよ。鼻孔を通る芳醇な命の匂い。ねっとりと喉に絡み付く塊のような雫。こくりと喉を鳴らせば快感が脳髄を痺れさせる。これがなければ生きていけないくらいの中毒症状だったんだ。生命維持に必要だから。

 人は変われば変わるものだな。アルコール依存を克服したみたいだ。子供舌と笑わば笑えい。

 生より調理されたものの方が美味しい。これは世界の真理だ。


 ごめんよ少女(イルル)。私が間違っていたよ。もう動物の頭蓋をご馳走とか言って食わせようとしない。約束しよう。もう会うこともないだろうが。


 この世界は歪だ。剣と魔法を使って、科学技術のなにも発展していないのに、何故か妙に食に力が入っている。

 幅広い調理法と、香辛料と素材をふんだんに使った街の大衆食堂。季節のフルーツを年中楽しめ、プリンやアイスクリームなど、どこかで見たような洗練された甘味が並ぶスイーツ屋。

 人々は豊かな食事を求めて、よく働いた。

 魔物を狩り、動物を狩り、植物を採った。

 流通を良くするために街道を整備し、魔物避けの結界を織り込み、殆どが石畳で轍に嵌まることはない。

 環境保存魔法をこぞって研究し、馬車の荷台に仕付けることで、内地でも魚介類を、傷みやすい果実を、どこでも食べられるようになった。

 家畜を飼育し、野菜や果実を育て、香辛料を増産し、人々の食生活は豊かになった。


 その立役者の一つが、ギルドだ。勿論、これらの革新は国が主導で行った事業だが、その中にはギルドへの出資も含まれる。

 冒険者の仕事は獲物を狩ってくることだけではない。

 街道を整備するための労働力、作業中の護衛。

 家畜や畑を守るために、街や村周辺の定期巡回による魔物の討伐。

 魔物避けがあるとは言え、完全ではなく、また盗賊から守る、流通そのものの護衛。


 冒険者は頑張った。お金を稼げば旨いものが食える。強くなればお金を稼げる。

 ちょっと頑張り過ぎて、今や冒険者ギルドにはEランク、3~5メートルの大鬼が率いる群れをパーティ討伐出来る人間がそこらじゅうに転がっている。

 街の周辺から魔物は駆逐され、冒険者を志す若者は、引退した冒険者に指導をされて実力を伸ばされた状態で遠征から始める。

 冒険者になれるものは、ベテランの指導を受けられる、ある程度の家庭のものが殆どで、仕事に(あぶ)れたものや犯罪者は、国が主導で「遊んでる暇があれば畑を耕せ」と開墾地に送られる。

 ベテラン冒険者の転職先は、後進の指導のみならず、自分の身は守れる農夫になったり、護衛要らずの商人に転向したり、コネや旅の経験を活かして、僻地の珍しい植物なんかを環境保存の結界(ハウス)栽培をして富を得たりと、冒険者はわりと憧れの職業だ。勿論死と隣合わせなのは変わらないが。

 食の力って凄い。何せ私が働くくらいだ。天岩戸も抉じ開けられるだろう。


 速度が足りないので、品物によっては割高だし、増産体制も未熟なので、現代並とは言わないが、この世界の歴史の長さや水準は、現代と比べてそう差がないのかも知れない。

 保存魔法なんか、冷凍保存よりも品質を維持出来る。環境そのものをフォーミングしてしまうので、どんな場所でも育生が出来る。菌の保持も自在のようだ。

 品種改良も頻繁に行われており、より繁殖力が高く、肉が取れ、卵や乳の出が良い魔物なんかも……。当然、逃げ出して野生化しているのはご愛嬌。人間って変わんねえな。

 一応補足するが、保存魔法と環境保存結界は別物である。


 食は世界を進める力だということが判明した。もしもこの世界に、現代の知識を持った存在がかつており、食文化を広めたとするのなら、相当に罪深いと言えるだろう。

 そんなわけで、少年たちも結構な実力者だ。少年がランクC、猫どもと中年がDで、少女がEだと聞いた。

 ベテラン、いっぱし×3、一人前のパーティだ。一目置かれており、昨日は森の調査に向かっていたらしい。


「ま、ランクが高いとこういう面倒事にも巻き込まれるけど、無視するわけにもいかねーからな」

「時間だけかかって身入りが少なかった」

「森は荒らされ放題で動物もいなかった」


 くまが出没したと言うことで、高ランクの冒険者である彼らに白羽の矢が立った。

 随分気楽なので、くまくらい討伐出来るのかと訊くと、普通に死を覚悟して行ったらしい。


「死ぬかもしれなくてもカイはいく」

「命がいくつあってもたりない」

「だからって、他の誰かに、代わりに死んでくれ、って言えないだろ。

 それに、俺の剣がどこまで通用するか試したい。まかり間違って勝てれば、俺もくま殺しの勇者だ」

「カイはばか」

「ばーかばーか」

「うるへー。バカで悪いか」


 ふむ……隠れ蓑には悪くないかな。

 個人的に、こういう向こう見ずは嫌いじゃない。中年も放って置けないのだろう。呆れてはいるが、息子を見るような顔をしている。こっちも貧乏くじだな。面倒見がよさそうだ。

 少女に至っては、その馬鹿に救われた一人なのだろう。じゃれあう三人を見る眼差しは感謝のそれだ。


「それで、どうだ? 俺たちと一緒に冒険しないか?」

「私でいいのかね? お望みのものとは、少し大分違うと思うが」

「関係ないよ。こうして会えたのも何かの縁ってやつだ。話を聞いて気になって、面と向かって見て確信した。お前と冒険すれば、何か楽しいことが待っているってな」


 格好いいじゃないか。ときめいてしまうよ。

 少年に引き続いて、黒猫と白猫も私ににゃあにゃあ訴える。


「いっしょにいこうよ。きっとたのしいよ」

「こわくない、こわくないよ。ちょっとだけだから。さきっちょだけだから」


 また黒猫が少年にどつかれている。


「俺も異論はないぞ」

「ふふふ。またいっそう賑やかになりますね」


 見守り組も乗り気だ。これで私が断ったら、空気読めない子になってしまうな。

 私は口の端を歪めて嘆息する。笑顔には見えなかったのだろう。一瞬不安そうな表情を浮かべる一同に、私は穏やかな口調で告げた。


「仕方が無い。年長者の私が同行してやろう。よろしくなハーレム野郎」

「ハーレムってなにさ!?」

「貴様のように複数の女を(はべ)らせている爆発物のことを指す敬称だよ。褒めているのだから喜べ」

「絶対そんなイントネーションじゃなかった!」

「ん、複数?」

「あのね、アリッサはね」


 猫どもが声を潜ませる。

 少女の方に目を向けると、頬を染めた少女は、横目でチラチラと中年の方を窺い、中年は腕を組んで瞼を閉じ、何かを諦めたように天を仰いでいる。絶対視線を感じているな。

 思い返してみれば、少女は自己主張こそしなかったが、中年と二人で合流し、中年の後ろを半歩引いて歩き、中年の隣の席に着いて、椅子をちょっと寄せている。

 私は一つ頷いた。


「年齢を聞こうか」

「俺は18。こいつらは2つ下で16だ」

「私は今年で14になります」

「おっさんは?」

「おっさんじゃない」

「歳」

「……32だ」

「おっさん犯罪だぞ」

「言いにくいことをずばっと言った!」


 ちなみに仕事は10から雇って貰える。成人とかいう概念はないので、実質それ以降のことは当人同士の問題だ。当然結婚も自由。

 流石に若すぎると無理があるので、その場合は両親が許可を出せば子作りOKという風潮らしい。

 まあ前世でも10才の妻とラブラブな大佐とかいたし、とやかく言うことじゃない。恋愛は自由だ。好きにやってくれ。

 しかしおっさんは年の差に負い目があるらしい。


「なんだ、おっさんは少女が嫌いか?」

「いや、そういう事ではなく……」

「へたれ」

「きをもたせといてめいげんしない。アリッサかわいそう」

「フランツさま、気になさらないでください。フランツさまの気持ちが私に向くまで、私は何年だってお慕い続けます」

「ああいや、その頃には俺はもっとおっさんだし、君にはもっと相応しい相手というか、もっと色んなものを見るべきだとーー」

「あー、矛先が自分に向かないっていいわー」

「カイゼンんんんんーーーッ!!」


 そんなこんなで、なあなあでリア充パーティーに加入した私。引きこもり&人見知り。

 自分だけ独り身だと嘆くような年齢でもないので、田舎のおばちゃん根性丸出しで、積極的に煽っていきたいと思う。

 もしもくっついて、身重になったりでもしたら冒険者は引退、パーティは解散かな。

 これが本当のサークルクラッシャー。いや、なんでもない。


 ちなみに、私の年齢を三千歳と言ったら、みんなリアクションに困っていた。



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