「私を仲間にしたそうにこちらを見ている」
のんびりと街を見て回る。人通りはあるが、威圧-のお陰で私を気にするものはいない。路傍の石ころになった気分だ。誰にも見られないって素晴らしい。大分ダメージが嵩んでいる。
以前の私なら、人混みの中にいるというだけで辟易していただろうが、荒療治はするものだね。こうやって慣らしていけば、いずれ人見知りも治るやも知れん。
現代と違って人口密度が少ないというのもあるだろうが。なんで人類は、夜中にも関わらず、ギンギラ明かりを点けてごった返しているんだ。夜は星明かりで我慢して寝なさい。私たちが襲い難いだろうが。だからか。
武器屋に入って、得物を見繕う。素手だと訝しまれると私は学んだ。私は学べば次に活かせる子だ。
なるべくかさ張らず、自然に身に付けられるものがいい。ナイフかな。スカートにでも仕込めるし。
剣はダメ。槍もダメ。斧もなし。弓も背負いたくない。根は槍と変わらないし、杖も剣みたいなものだろう。支えにして歩ける分、剣よりはいいか?
手甲は日常生活に向かない。盾(武器)も同じ理由で。ずっと身に付けている気か? と思うが、一々着け替えるのは面倒臭い。
レギンスも武器屋に置いてあるとは通だね。こっちは仕込みブーツか。流石に鉛玉は飛び出さないが、刃物や杭が出る。
ん、この武器はどうやって持つんだ? 翼に付けるウィングブレード? こっちは尻尾に付ける突起か。ジェネレーションギャップを感じるね。
剣のようなサイズの棒。尻に取っ手、先に円い刃が付いた武器。
ポールウェポンのような大鎌。それと、似ているが刃が寝かせてある武器。
チェーンソー。丸太。
この辺りの武器は農耕民から戦いを志した者の武器らしい。其々、スコップ、草刈り鎌、クワから派生している。
どうでもいいが私は大きいのはスコップで、子供が使う小さいのがスコップだ。ショベル? 重機かな。
私は狩猟民なので担ぐ気はない。
他にも鎖付き鎌だの、蛇腹剣だの、汎用性の低そうなものが色々と並んでいるが、これは売れているのか? 戦士を志すものが色物武器に目を輝かせて意気揚々と出て行って、残念なことになる未来が見える。
見ると、色物武器は扱い易そうな一般武器より値段が高い。客寄せか、ある程度実力がついて普通の武器では満足が出来なかったもの用だろうか。いるかわからんが。剣を使っていた大男が、腕力を活かすために鈍器に転向するとかはありそうだ。
そんな、少し値が張る変わり種の中に、私のお眼鏡に適うものを見付けた。
鉄の爪だ。腕に着けるタイプで、手首の辺りから爪を出したり引っ込めたり出来る。
武器の爪って手の甲に着けるものじゃないのか? と武器屋の店主に訊いたら、甲に着けるタイプは、引っ掛かった時に手首がぐきってなるので、廃れて今は数が少ないらしい。
手袋タイプで指先にクローが付いてるやつは、指先だけの力で切り裂かなければならないので人気がない。獣人なら自前のがある。
結果、手首を支点にするものが主流だ。クロー自体マイナーだが。
私が選んだ収納式は、固定式よりも値が張り、更に耐久性に難があるそうだ。道理だな。
でもこれにする。元々、武器を持ってるポーズで身に付けることを決めただけだ。それに、爪が出るギミックが格好いい。爪を収納している時もお洒落だ。私に似合うかは別として。
武器は買った。店主に鉄が手に入る場所を教えて貰うと、鍛冶場を紹介してくれたので、そこへ行って屑鉄を安く譲って貰った。一応言っておくが、ずく鉄や鋼よりは安いというだけで、適正価格だ。私は何のコネもない余所者だからね。しっかりギルドカードは使わせて貰ったが。
屑鉄は物質創造できゅっとして小袋に入れておく。そろそろ底が抜けそうで心配になる。材質は絹だ。破けても物質創造で作り直すだけだが、中身をぶちまけるのはよろしくない。
いっそ、シカ革の中袋辺りを、物質創造で身に付け易いように作り替えるか。シカ一頭が入る大袋なら兎も角、中袋は使い途が難しそうだし。
絹で思い出したが、服飾屋に行って綿や麻も見ておきたい。流石に絹オンリーでは不味いだろう。自身が身に付けるものなら自由が利くが、少女に作ってやる場合などは困った。
訊くと、服の材料となる植物までは知らないと言われた。惰弱な。服屋というなら植物採集から始めるものではないのか。
遡っていくと、商人ギルドが加工部門を抱き込み、更に遡ると猟師や女子供が採って来るらしい。
ギルドに行くのは色々と面倒だったので、街の図書館で調べる。もこもこした綿のような植物や、麻みたいな布や紙、ロープにもなる繊維質の植物が一般的に服に使われると書いてあった。後は虫の繭や、魔物をそのまま素材に。
桑の葉っぽい植物もあったし、他の植物も同じようなものなのだろう。
つくづくこの世界は地球っぽい。猿から進化したと思しき生物が跋扈する地球型惑星という時点で今更か。
確かなことは言えないが、球体なのは間違いないと思う。地平線が見えるし。それも、私の常識と照らし合わせた狭い認識でしかないけれど。
人間は所詮、自分の知るとこしか知ることは出来ない。この世界を知っていく上で、何があっても驚かないよう心構えだけはしておこう。自分の頭の中にしかない常識のみを信じる者ほど、愚かしいものはない。
常識と言えば、私のようなものが冒険者になる際、むくつけき者どもに難癖をつけられるものだとサブカルチャーで見知っていたものだが、意外とそんなことはなかった。ギルド内にたむろしていた者たちには、むしろ肩を叩かれ歓迎されたものだ。
そのことを案内に伝えると、見た目で侮って絡みに行くような人は、年中FGで実力が無い者だけらしい。自分に自信がないから誇示したい。そんなやつは大成出来ないし、数多くいるDEランクに叩きのめされる。新人、大事。
いつまでも実力が伸びない癌細胞より、未来ある若者を育てていくのは当然のことだ。なんというか、余裕がある。
前世でも、先輩なだけで威張り散らして新人をいびる老害など、居て当たり前の存在だ。それを許さない風潮が出来ているというのは、見た目は剣と弓の原始的なものだが、人間強度は現代より上なのだろうか。
まあ現代人は剣を持って巨人に挑んだりはしないし、人が強いのは間違いない。
ただ、私はシカを狩れる実績がある。パーティに加入したがる人はいるかも知れないとのこと。
シカってそんなに凄いのだろうか。Bランクなら苦もなく狩れるらしいが、Bランクはそんなこといちいちやらない。
Cランクなら策を弄すればいけるレベル。それでも拘束時間を考えると、普通に討伐依頼をした方が稼げる。お祝い事とか、美味しいものを食べたい時にたまに狩るんだとか。
Dランク以外で狩れるのは珍しい。食いっぱぐれがない。肉を供給しすぎると価格が安定する可能性もあるが、角は常に需要がある。
何よりシカを狩れるということは、感知に優れ、状況がよく見え、不意を突き、逃げる敵を囲える能力がある可能性が高い。パーティの生存力を高めるために、得難い能力を持っていることになる。
実際にはただの脳筋だとは思うまい。シカより速く走って首を切っているだけである。
あと、私の見た目。
「えっ、ロリコンなのか?」
「自覚はあるんですね。少女趣味の方じゃなくてもぐっと来るようなお美しさですし、今は仲良くなって将来的に……とか」
「生まれてこの方、まんじりたりともしてないのだ。人間の寿命が過ぎた程度で、成長するとはとても思えん」
「ですね……。えーと、エルフの方は人間から見ると、いつまで経っても若く美しいままですので……」
「幼く、と言わなかったのは優しさかな?」
「絡まれる心配はないかも知れませんけど、売られないように気をつけてくださいね?」
「胆に免じておくよ」
生前の私の扱われ方を鑑みると、欲しいとか、手元に置きたいというのは新鮮だね。凄いな、エルフ。擬態したのには後悔しているけれど。
さて、この街で欲しいものは得た。ただ、思ったより時間がかかって、日が落ちはじめている。
私は暗さが気にならないし、認識阻害をするので門兵に止められる心配もない。
面倒にならない内に立ってしまうべきだろうか。ただ、くまーとの戦いが思ったより堪えたのか、少し、眠い。
私も人間になって軟弱になった。身体の衰えを感じる。日光の元でも活動出来ることを考えると、破格の待遇なのだけれど。
休むならむしろ、街の外に出て一人で静かに寝るべきだろうが、人間の生息エリアを離れて、かつ、ベッドで寝るのは少し骨だ。
地面を掘って地中で眠る手もあるが、あまりこの世界の人類を侮りたくはない。
一度、宿屋での睡眠も経験したいと思っていたところだ。
この際だから人里に泊まろう。寝過ぎると料金がかさむので、私の怠惰も惰眠を貪るようなことはするまい。フラグ。
軍資金はある。出来れば防音がいいのだが、流石にそこまでは望めないので、それなりに良い宿屋を選ぶ。
食事は無し。明日の昼には出ていく。今は食欲より睡眠欲だ。おやすみ。
◆
私は目を覚ました。
人里だったからか、あまりよく眠れたとは言えない。ベッドもそれなりだ。棺桶で寝ていた頃が懐かしい。
あれは光が少しも入らないようにと、私たちの間で流行っていたお洒落ベッドだ。防音効果も期待出来るので、世界から切り離されたようで安眠出来た。
閑話休題。本来は夜と朝に食事が出るらしいが、眠かったので夜は食べない。昼まで寝るので朝もいらない。
少し負けて貰った。良い宿屋は余裕もあるね。
日は頂点にあるが、さっさと街を出ようか。
時計の針で、私が来た森が九時方向にあるとして、六時方向の街道をずっと下って行けば、私が前に居た隣国。
十一時方向に出れば山沿いを進み、二時方向で王都、そして海だ。
どこもすぐ近くではないが、方向性として参考にはなる。
前に居た国に戻るのは論外として、人の多い所に興味はない。海には興味があるが、日差しを遮るものが何もないイメージがある。
ここは山で徐々に慣らして行きたい。田舎しかないらしいが、問題ないだろう。あっちにも国境があるだろうし、いつまでも山じゃない。
じゃあ行くか。でも、この視線はどうしようか。
威圧-をしているので、私を気にするものはいない。しかし、私に誤魔化せるのは私を認識していないものに限られる。つまり、私を見ているものは、私を知っていて見ているようだ。
しかし……なんだろうか。変な視線だ。感じたことがない。
まず、気配が捉え難いし、位置もおかしい。人間っぽくないというか、動物に近い。
ん、動物?
私がフラグに気付いた時、私の目の前に降り立つ黒い人……影?
人影というにはシルエットが多い。端的に言うと、その黒い少女には黒い猫耳と尻尾が付いていた。
「黄金みたいな金の髪、眠そうな金の半眼をしたエルフのおじょうさま。見付けた」
眠そうなのは余計だ。しかしお嬢様? ……ああ、この服装のことか。生前では普通のファッションだったが、この世界から見ると仕立てが良く、貴族くらいしか着ていないのだろう。
あの侍従に毒されて、私のお洒落が少女趣味になっているわけではないと信じたい。
「わたしといっしょにきてもらおうか。なに、わるいよーにはしない。てんじょうのしみでもかぞえてるうちにおわるぜ。へっへっへ」
何故棒読み。そして人を眠そうな半眼と言ったが、お前も表情一つ変えない半眼じゃないか。
どうにも妙だが、表情と声音は兎も角、言動は敵対的だ。遊びに付き合うつもりはないし、適当に始末するか。
と、私の後ろから駆けて来た何者かが、私を素通りして黒猫少女の額を勢い良く小突く。
小気味良い音を響かせ、少女は頭からつんのめって、たたらを踏む。仰け反って体勢を崩した隙に、額を小突いた少年は、顔面を掴んで締め上げた。
「いたいいたいいたい」
「なに誤解を招く言い回しをしてんだてめえ。おかげで警戒心もバリバリじゃねーか!」
「うちのノリがわかった方が、あとあと面倒にならない」
「内輪のネタに巻き込んでも引かれるだけだっての。言っていい冗談と悪い冗談がある! てめーは後者だ!」
「取り込み中のところ申し訳ないのだが、私はもう行っていいかな」
アイアンクローをかましていた少年が、あーと唸って私に注意を向ける。その一瞬の隙に黒猫少女が自ら倒れ込み、くるりと一回転して拘束を抜けた。
少年は「このっ」と毒づくが、黒猫少女はもう手の届かないギリギリに逃げてる。少年は諦めて、私に向き直った。
「色々と悪いな。なんて言ったらわかんねーが、お詫びにお昼でも一緒にどうだ? 奢るぜ」
「ナンパ?」
「お前は黙ってろ」
「ふむ、ナンパかね」
「お前も黙ってーーいや、悪い。ナンパじゃないんだ」
「さっそくからかわれてる」
「うるせーよ」
「これはからかうだろう」
「ねー?」
「ねー」
「ノリが合っている……!?」
少年は驚愕している。
ふむ、これはあれか。
噂に聞く、パーティのお誘い、というやつだね。




