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「長かった旅もようやく終わり、ついに冒険者登録が出来ました」

 開始10万文字を経て、ついに本邦初公開。

 主人公の名前、乞うご期待。



 玄関口から大きな通路を渡り、冒険者ギルドに向かう。

 正確には、ギルド会館、買い取り所、冒険者ギルド、商人ギルドは併設された複数の建物で、相互に往き来出来るようになっている。依頼者が会館に持ち込み、冒険者が狩り、買い取り所で解体し、商人が売る。

 冒険者ギルド、商人ギルドにも直接入ることが出来、商人ギルドの玄関は小売り店、冒険者ギルドはお酒も出す軽食屋になっている。

 いわゆる酒場だ。常に新鮮卸したてで、若者応援価格で腹一杯食えるので、冒険者のみならず、一般の住人や商人も食べに来るということもあり、世間話や情報収集が頻繁になされている。

 会館側の通路を通れば、その賑やかな場所は避けられる。人気店でも、人が賑わってる所には行きたくない。それが人見知りクオリティ。


 一部の職員、冒険者らしき人と何度かすれ違ったが、威圧-のお陰で気にされることはない。

 まあ、さっきまで会館でのやり取りを見ていた者たちは、私のことは無視出来なくなっているだろう。やだなぁ。


 冒険者ギルドに入ると、いくつかカウンターがあり、誰もいない窓口に、『初心者登録案内受付』と書かれたポップスが置かれていたので、そこの前に立ってパンフレットを眺める。

 紙の質は悪いが、あるんだなぁ、こういうの。

 すると、中にいた冒険者らしき人たちの視線が徐々にこちらに向いて来た。気配を消していても、新入りの品定めは無視出来ない問題らしい。まあ、あんまり無視されると受付すらやって貰えないので、所詮この程度だ。

 別のカウンターから手空きの者がこちらの窓口までやって来て、椅子を出して私に座るよう薦める。

 暇な時間帯はこうして、忙しくなったらポップスを片付けて応対するのだろう。


「はじめまして、ようこそ冒険者ギルドへ!」

「「「ようこそ冒険者ギルドへ!」」」


 それ定例句なの? 恥ずかしがってる受付嬢もいるんだからやめたげなよ。

 新規のご登録とか聞かれたので、イエスと答えて、書類に必要項目を埋める。


 名前……。どうしようか。


 生前は長いこと生きて来たが、私に名前は無い。みんな私を好き勝手に呼ぶ。マスターとか、お姉さまだとか。最期の方は『現代の吸血鬼』『現存する最後の吸血鬼』だとか呼ばれていたらしい。

 ああ、最後に会った異能狩りの連中は私をラストと呼んだな。ラスト・ヴァンパイア。ちょっと人名っぽいが、私はクソオカマのような色魔じゃない。戦闘嬢砦のようにラースでもない。強いて言うならスロウスだ。

 大罪戦隊の内、あと四人は不在である。他に知り合いは居なかったので。私は人見知りなんだ。それは私たち相手にも適用される。

 

 私が死んだことで、吸血鬼は絶滅したんだろうか。それとも、私が知らないだけで、今もどこかで吸血鬼は発生し続けているのだろうか。旧きものが淘汰されただけで。それこそ、人間にバレないように。人間に擬態して、人間に紛れるように進化して。

 私が考えても詮なきことか。どうせ前いた世界には戻れない。

 私は私に名前を付けなかった。私より古いものは私に名前を付けたかも知れないが、生憎とそんなやつの記憶は私にはない。

 名前を記入しろと言われても困る。だから適当につける。


「エノレフさまですね。お手数ですが、出身地と年齢、職種もご記入ください」


 由来は言うまでもない。私のネーミングセンスは息してない。拾った赤子にも私が人間の名前を与えてやったが、学校でいじめられてやしないかとちょっと心配である。まー最近の子はみんなキラキラしてるし、ちょっとくらい大丈夫だろう。

 異世界でまさかの片仮名由来だ。適当に付けたと怪しまれることはあるまい。フラグ。

 いやだって、今までスルーして来たが、この異世界に来た現代人が私だけだと思うには無理がある。天ぷら然り、くま然り。なんでベアじゃないんだ。そこじゃないか。

 そういうわけで、釣りだ。エルフに擬態した私の名前が、エノレフということに、おかしな反応を見せたらドボン。こちらの情報が一方的に伝わるリスクはあるが、ある程度負わなければな。

 何もないならそれでいい。私は名前に頓着していない。好きに呼べばいいというのが本音だ。だから人の名前が覚えらんないんだよ。


 更に適当感を増して必須項目を埋めて、案内に返すと、そのまま受理されずに二度見される。


「あの、この出身地ですが……」

「森の奥にある集落だよ。知らんでも無理はない」

「……確認ですが、お名前は?」

「ヴァチソビランスユーロッパイツンドグレートユナイテッドオーバーロード」

「えっ」

「ヴァチソビランスユーロッパイツンドグレートユナイテッドオーバーロード」

「……もう一度お願いします」

「ヴァチソビランスユーロッパイツンドグレートユナイテッドオーバーロード」

「わんもあせっ」

「ヴァチソビランスユーロッパイツンドグレートユナイテッドオーバーロード……何度言わされても間違えんよ。噛むかも知れんが」

「あの、本当にこんな名前なんですか?」

「数世帯しかない小さな集落でな。年寄り連中が箔を付けたいっていう、まあ遊びみたいなもんだよ。今はもう、私が旅立って暫くしているし、また名前が変わっているやも知れん」


 嘘八百である。世帯は私一世帯しかないし、私が適当につけた。唯一正しいのは、どこにも存在しない地名ということだけだ。


「この集落がどこにあるかは……」

「すまんな」

「あ、いえ。無理にとは。エルフの方は警戒心が強く、仲間を守るために明かさないと聞きます。きちんと登録は出来ますので、安心してください」

「いや。集落を出て暫く当てもなくふらふらしていたので、地図を見てもどの辺りにあるかさっぱりわからんのだ。

 帰巣本能があるので同じルートで帰ることは出来るが、流石に地図とにらめっこしながら、数十年も彷徨いたくはない」

「そ、そうですか……」


 案内係、どん引きである。全てのエルフが私みたいに適当だとは思わないで欲しい。私エルフじゃないし。

 しかし、出身地って記入する必要があるんだな? と訊くと、一時期冒険者に扮したスパイが流行った名残りらしい。

 今は形骸化されて、遠い所から来た優秀さの証明や、同郷で話の切欠にするなど。腰を落ち着けた場所には登録し直すことも出来るんだとか。


「あの、年齢が3000才とありますが……本当に?」

「ああ……。四千年前になると記憶が曖昧だし、五千年も前になると、もう殆ど覚えてはおらん。だから三千年で間違いないよ」

「……そ、そうですか」


 何故だろう。諦めが見えるね?

 最後に職種だが……、これは自身が何を使って戦うのかを書くのかな? それとも副業なんかを? 元パン屋の冒険者とか。

 戦闘スタイルね。指名依頼とか、パーティを組むのに役立つのか。どうでもいいっちゃどうでもいいな。


「武闘家……って、なんです?」

「拳や蹴り、爪なんかで戦う人。いないのか?」

「普通は武器を使いますが……。獣人の方ならわかりますが、その場合は『素手』『徒手空拳』『カラーテ』『獣人』と書きますね」


 真ん中待て。空手、つまり無手、素手と同じ意味らしい。ほんまかいな。そー(かいな)

 種族が獣人で職業が獣人なのか……深いな、獣人。


 この世界にはエルフの他に、動物の身体的特徴を持った人類、獣人がいる。

 エルフと対というか、メジャーな種族といえばドワーフだが、調べた限り私の知っているものではなかった。

 ドワーフは森の奥に住んでいる。人里には下りて来ない。

 大層身体が大きく、逆三角形の肉体に2~3メートルの身長がある。

 森の奥に近付くと現れ、番人のように人や魔物を追い返す。

 言葉は話さず、マッスルポーズで肉体言語を行う。

 よく日光浴をしている。マッスルポーズで。


 ……いや、それウッドゴーレムじゃね?

 他にもドワーフはオスしかおらず、ドワーフの住む森では羽の生えた小さな種族、妖精を見掛けるため、(つがい)ではないかと伝わっている。

 いや、それ妖精が召喚してるんじゃね?

 基本、この二種族は人間との交流が無く、研究があまり進んでいないようだ。

 ちなみに妖精も喋らないとされているが、くすくすと笑い声が聴こえたり、気に入った相手の耳元で何かを囁くという伝承がある。

 妖精をいじめるとウッド……いや、ドワーフがわんさかと湧いて来るので、この世界の妖精は平和に暮らしているようだ。

 妖精の目を塞ごうと口を塞ごうと拘束しようと魔力を封じようと、地面から腕組みをしたドワーフが大量に生えて来る。倒すと地面に沈むように消えるが、次から次へとひっきりなしに筋肉が湧いて来るので、敵対者の気力を根こそぎ奪うこと請け合いだ。恐るべし、ウッドさま。


 話が逸れた。エルフで素手はないでしょうと、案内は懐疑的だ。

 とは言ってもな。私は弓が専門でもなければ魔法なんて使えない。……いや、生前は使えなかったが、この世界に来て若干の変化が起こっている嫌いがあるが、それでも素人には変わりがない。

 しかし、エルフに擬態しているのに魔法が使えないと言うわけにもいかない。エルフは魔法が得意らしい。

 得意な武器と聞かれるが、特に持ってないと正直に答える。私は手ぶらだ。


「……お手数ですが、簡単な魔法を見せていただいても?」


 疑われているね。では、ここは手品といこう。この世界に来て身に付いた、種も仕掛けもないマジックだよ。

 空気中は危険。材木が乾燥し過ぎると劣化の原因。だが人里なら、水分はいくらでもある。濾過された地下水脈でもいいし、井戸でもタル水でも。流石に人家にある水は窃盗になるので、地下から水分を奪い取り、手のひらに集める。

 ビー玉、テニスボール、ボウリングの玉と、段々と大きくなる水球に、案内役は何度も頷く。


「結構です。十分です。職種には魔法使いと書きましょう」

「こんなのでいいのか?」


 案内は勿論です、と、何やらテンションが高い。なにか……やらかしたか? 今ので何がわかったのだろう。聞いた方がいいのかな。

 まごついている間に、案内役の若い女性に、ベテランと思しき女性が何やら耳打ちをする。すぐにいなくなったが、案内の鼻息が益々荒くなった気がする。タイミングを見失った……。


「これで登録項目は以上です。ギルドカード発行の前に、冒険者ランクを制定します。ご説明しますね」


 冒険者には階級があり、当然上に行く程優秀だし、役に立つので待遇も上がる。


 A、伝説の冒険者。そして伝説へ。

 B、国家が遇するほどの冒険者。戦争に対する抑止力にもなるので、騎士団長に招かれたり近衛にスカウトされたり忙しい。

 C、ベテラン冒険者。ギルドのご意見番。若手の指導はきっちりね。

 D、いっぱし冒険者。一目置かれる実力者。アニキ!

 E、一般冒険者。ようやく一人前です。

 F、ひよっこ冒険者。たまごの殻は取れたかな。

 G、なりたて冒険者。わんさか湧いて来る。


 Gランクは、三ヶ月以内にFランクまで上がらなければ資格は剥奪。主に年齢一桁や、素行不良のものが扱われる。

 Fランクはひよっこといいつつ、単身でイッカクと呼ばれる、鋭い角を持った獣を狩れるレベルでなければならない。

 Eランクは、オーガーという3~5mの大鬼をパーティ討伐。オーガーは大量の小鬼を従え、武器を持っていて弓や魔法も飛んで来る。

 それからランクが上がる毎に要求は加速度的に上がっていく。Aランクは魔王討伐が出来るレベルらしい。魔王ってなんやねん。

 総じて、この世界の人間は身体能力が高いようだ。使っているのは剣や弓だが、銃を持った小隊並の戦闘能力を持ったやつならごろごろいそうだ。


「エノレフさまは最低でもFランクからのスタートとなります。また、昇段審査を受けることが可能です」


 なんでさ。と思ったが、シカを持ち込んだことが伝わったらしい。

 どうやって討伐したかまでは不明だが、もしも逃げるシカを無策に追って首を切れるレベルの身体能力なら、Bランクは堅いらしい。

 凄いなあ、シカって。人より感覚が鋭敏な私よりも、感知範囲が広いものな。私はシカは見えないが、シカが逃げ出した瞬間の森のざわつきで、何かがいると判別出来る。突然高速移動をはじめれば、周りはびっくりするものだ。シカに忍び足をする知恵があれば、私には狩れないね。

 私は純粋な身体能力でシカを追ってるわけじゃないので、それ以下だな。というか、国家がほっとかないレベルなんて頼まれても御免被る。

 私たちは国に仕えるより、国を興す側だ。例外なく亡んだがね。

 私? 私はそんな面倒なことしていないよ。周りに大量の他人を置いて、他人に見られ、他人に思われ、他人を動かしながら生活するなんて、考えただけでもぞっとするね。


「Fランクって、何か不都合はあるか?」

「……えっと、Gランクと違い、活動がなければ資格剥奪などのペナルティーはありませんが……。受けられる依頼も限られますし、恩恵も少ないですよ?」

「買い取りはやって貰えるんだろう? それで十分だよ」


 身分証明に必要かと思って取るだけだ。ペーパー冒険者でも私は困らない。Gからなら上がる手間が必要だが、それすらないなら楽な方へ流れよう。

 困ったように書類と私を見比べる案内ではなく、私は奥のドアに目線を向けて声をかける。


「不満そうだな。おっちゃん」


 おや、焦りを押し隠したね。何故わかったのかって? 匂いで。さっき嗅いだばかりだし、忘れんよ。中年の男脂臭は鼻につくしね。

 ドアを開けて出て来た買い取り所の親父は、頭を掻いて弱った表情だ。


「いやぁバレていたとは。知ってたのか?」

「なんのことやら。私は扉の後ろで女性同士の会話に聞き耳を立てていた中年に、声をかけただけだよ」

「嬢ちゃんには敵わねぇな」


 大人の余裕で軽口を躱すおっちゃんだが、そこでギルド内にたむろして、こちらの様子を窺っていた冒険者らしき者たちからの追撃が入る。


「なんだギルマス、お次はこんな嬢ちゃんを口八丁で騙くらかそうとしてたのかい?」

「いつもの手口だ。人畜無害を装って近付くんだよ」

「いくらギルマスが若いのが好きだからって、こんな子にまで粉をかけるとか……」


「誤解を招く言い方をするんじゃねぇーーー!!!」


 総合すると、冒険者ギルドのギルドマスターの親父は、買い取り所で仕事をしつつ、見所のある若者に目をかけているらしい。

 探りを入れられている感があったが、ギルドマスターか。その発想はなかった。別に気にするような相手ではなかったな。

 あ、これで全部終わりですか? じゃあギルドカードください。帰ります。


 戸惑う案内係にさっさと話を進めさせると、冒険者相手に腕を振り回していたギルマス親父が私の肩を掴む。


「いや、話を聞いて貰えるか? 折角出てきたんだが」

「七面倒臭い」

「……実力よりもランクを低く申告するやつってのは、極稀にいるんだ。目立つのが嫌だとか、面倒を嫌ってな」

「理解が得られて嬉しいよ。実力があるというのは買い被りだけどね。私はイッカクと戦ったことはないのだし」

「なあ嬢ちゃん。悪いんだが昇段審査、受けちゃくんねえか。どうせ持ち込む獲物によっちゃあ、否が応でもそういう話になるんだ」

「面倒だな……。持ち込まなければバレないだろう? ランクが高くなって、面倒事を持ち込まれても困る」

「冒険者としての恩恵を受けたくて登録するんだろう? なら、こっちが困ってる時にも助けちゃくんねえか。地域の安全を守るために、厄介な魔物を討伐出来るやつは、いてくれるだけで安心感が違うんだ」


 ぐうの音も出ない程の正論を貰った。そうだな、ギルドって寄り合い所だからな。私が困って来たんだから、向こうも助けないとな……。

 ……面倒臭い。冒険者辞めようかな。これはまだなってないので、なるのをやめようかな、になる。


「何があってもBにはならない。というのを約束して貰えるなら」

「それでいい。Bランク以上は国家の承認が必要だからな。Cランクまでなら、自信があるのか?」

「わからんよ。初めてなんだ。だが、私は人より長く生きる。いつかそんなことが無いとも言い切れないだろう?」


 実際の所、私は然程強くはない。前世に魔物は居なかったし、私は人間を怖れて戦おうとはしなかった。案の定、私たちは人間によって滅ぼされている。私たちはそれほど強くはない。


「それから、この街は立ち寄っただけだ。すぐにいなくなるが、それでも?」

「構わない。魔物の被害に遭ってない場所なんてないんだからな。立ち寄った街でも村でも、お前さんが勝てそうな相手なら、安心させてやって欲しい」

「勝てそうになかったら?」

「名前も付けずにそっと立ち去ればいい。生きていれば、その街の窮地が伝わるだろう」


 最高に格好悪くて格好良いな。クールだぜおっちゃん、気に入った。


「受けよう。昇段審査って何をするんだ?」

「魔物の素材を持ち込むか、試験官との模擬戦だな。何か、シカ以外に持ってるものはあるか?」


 模擬戦……面倒だな。素材を持って来た方が楽そうだ。オーガーの首でも持ってくればEランクってことで済まないかな。ダメ?

 私は小袋の中の、圧縮してある牙を物質創造で復元し、カウンターに乗せてみる。


「大きいヘビだが、これって魔物か?」


 案内係とギルドマスター、それから他の受付嬢も集まって来て、ああでもないこうでもないと言い合う。何か特定出来ないようだ。まあ、ただのでかいヘビだったしな。魔物で考えても、わからないのかも知れない。無駄な時間を取らせてしまったか。


「この牙の大きさ……タイタンボアでは?」

「牙の穴を見ろ。噛み付いた相手に毒を注ぐ形状をしている」

「ミツリンコブラでもこんなに大きくないですよ」

「形状だけなら、ブラッディメアリーに酷似している気がするのですが……」

「メアリーって、あの細くてうじゃうじゃいるの?」

「ああ、血のように赤かったな。目から鱗から」


 私が補足をすると、牙を見ていた一同がぎょっとした目でこっちを見る。怖い。そんな注目しないで欲しい。

 鑑定していた一人が牙に視線を落とし、ぽつりと呟く。


「……アカカガチ」

「なっ、アカカガチだと!?」

「知っているのかランカ!」

「目撃例の少ない変異種です。巨大な体躯に猛毒の血液を持った、Cランク討伐モンスター。厄介さではコカドリーユを遥かに凌ぎます」


 ちなみに、アカカガチは天ぷらとは違い、そのまま発音はしていない。この世界の言葉で『赤く輝く血』と呼んでいるので、私がエキサイト翻訳した。


「この魔物を倒したのか……。何人で? 犠牲者は?」

「お嬢ちゃん、牙以外の死体はどうしたんだ?」


 骨と革、鱗なら持っている。どこに持ってたんだと言われたくないので黙っているが。


「大きさよりも、厄介なのは毒だ。討伐はしたが、返り血を浴びたものが翌日まで持たなかったらしい」

「武器で突けば鋼すら浸食されて、使い物にならなくなるとか」

「倒せたとしても、血の染み込んだ土壌は汚染されて、草一つ生えない不毛の地になるそうだ」


 美味しくいただきました。毒とか感じなかったけどなあ。

 でも、一緒にいた子供ズが返り血を浴びていたが、後で死んでいるやも知れん。まあ、私にはどうしようもない。御愁傷様。

 一応、血液は全て私が頂いておいた。一滴たりとも落ちてはいないだろう。種族柄。お残しは許されない。


「なんか言えよ……」


 失敬な頭の中では色々考えている。表には出ないので、ぼーっとしているようにしか見られないのが欠点だ。

 ギルマス親父が腕を組んで思案し、ややあって、私の目をしっかり見ながら力強く口を開く。


「Cランクまでなら受けてくれるんだよな?」

「ギルマス!?」


 周りの反応は当然だ。私が倒したかどうかもわからない。何人で倒したかもわからない。これが本当にアカカガチのものかもわからない。強さより、毒の方が厄介な相手だ。倒せないというより、倒したくない相手。

 事後の被害が悲惨なら、討伐とはとても言えないだろう。


「Eだ。分不相応に見られて、過度な期待をされて困るのはこちらだ」

「Cだ。長年冒険者ギルドで、色んな奴らを眺めていた直感だ。

 あんたは強い。この程度の相手なら、顔色一つ変えずに倒しちまうんだろう?」

「Eだ。この牙だけで何がわかる」

「Cだ」

「E」

「C」

「E!」

「C!」

「E!」

「いいって?」

「よくない!」


 埒が明かない。馬鹿なやり取りをしていると、注目していなかった奴らの視線まで集まって来る。困るのは私だが、ギルマス親父も疲れたように妥協案を出す。


「間を取って、Dランクでどうだ。どうせすぐに上がるさ」

「仕方ないな。それで手を打とう。思い通りになるとは思わないことだ」


 意見がすり合い、何となく固い握手をする二人。何故? 何となく。

 これで冒険者ランクはDに決まった。後は登録だけらしい。

 ギルマスは後ろの方で控えているが、他の受付は疲れたように散っていく。最初から案内をしてくれた者は、疲れてはいるが最後まで付き合ってくれるようだ。


「最後にこの魔鉱石に手を置いてください。魔力紋が記録されて、本人確認が出来るようになります」


 私は魔法が使えないんだが……魔力って誰にでもあるの? そうですか。

 手を置くと、何かが吸いとられるような虚脱感があり、無事に登録が完了され、ギルドカードが発行される。あー、なんか採血で血を抜かれたもやっとする感じ。このカード、私の血で出来てるのかね。魔力か。


 名前はエノレフ。職業魔法使い。冒険者ランクD。誰やねんお前。


 しかし、これがこの世界の私での身分となる。

 ふむ……ロールプレイングと思うと、少しは楽になるね。演じるのは慣れている。名前を付けたのは、思った以上に良い方向性だったようだ。

 さて、無事冒険者登録も済んだし、街に繰り出してぱーっと買い物をして、さっさとこんな街からはおさらばするかぁ。

 もう私の対人ポイントは枯渇寸前よ。



 名前は出落ちでした。

 適当に「名前を名乗った」で誤魔化しても良かったんですが、それだと発展性が何もないので。

 「私」さんの本当の名前はいずれ出て来るので、気長に待っていてください。

 引っ張ったわりに大したことないのはお約束です(ネタバレをするゲスの(ry

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