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「野は越えてないけど山は越えました」



 霊峰っぽいものに興味はない。登っても雲が邪魔で景色とか見えん。まあ、今度機会があったら暇潰しに行ってみようかと思う程度。

 森林限界は環境によっても変わる。この辺りならば三千メートルは越えている気がする。いや、わからんけど。

 霊峰っぽい雪が積もった山は迂回するが、ここから先はどこも自然が無い。草が無ければ動物もいない。極地というんだったか。ん、ヒマラヤレベルでようやくだっけ。人間って凄いなぁ。

 登る前、私の活動限界は半永久的にと言ったが、それは食えるものがあってこそだ。人間だもの。栄養を補給出来なければ動けなくなる。備蓄も無い。幸い水はいくらでもあるが、生物のいない不毛の地は駆け抜ける必要があるだろう。

 念のため、戻って腹を満たしてお弁当を持って行くべきだろうか。いいか、お腹が空いてから戻ろう。


 駆け足で山を登り、峠を越えて次の山へ。ふと、迂回した霊峰っぽいところに視線を向ける。……雪の所為か、こう温度が低いと匂いは殆ど感じられない。気のせいか、視線を感じた気がする。

 もし動物なら、何を食って生きているのだろう。霞でも食っているのか。私には真似出来ん。もし、そんな進化を出来るなら、引きこもりが捗りそうだ。死ぬ前まで他人と関わり合いにならなければ生きられない程の業を抱えていたのに、急なランクアップは高望みというものだろう。


 十日程で高山地帯を過ぎ、枯れ木のように葉を付けていないみすぼらしい木が疎らに生える、渓谷に差し掛かる。

 春だというのに寂しいものだ。足下を見ると、岩場の隙間から小さな花が芽吹き、小動物や虫も這い回っているので、これでも活発な方なんだろう。

 改めて、最初にいた森の付近は肥沃な土地だった。

 まだお腹が減っているという程ではないが、食べれる時に食べておくべきだ。しかし、私が食べるに値する獲物はいるだろうか。チーターはネズミを捕らない。労力に見合わないからだ。動物には相応の獲物のサイズというものがある。

 何が言いたいかと言うと、虫や小動物は食べたくないなぁ。この後に及んで贅沢である。カエルやトカゲは旨いと聞くが、どうにも小粒だ。食べた気がしないだろう。


 ふと、渓谷の岩場に鳥が佇んでいるのが見えた。というか、こっちを見ている。

 鳥。トリだな。まごうことなき鳥だ。下の激流には魚がいるだろうし、鳥が狙うのは当然だろう。問題なのは、その鳥が私にはペンギンに見えるということだ。

 岩場にいるのでイワトビペンギンだろうか。しかし、私にはコウテイペンギンに見える。眉毛がない。黒い、顔の毛と同じ円らな瞳でこっちを見ている。

 一体この鳥はどうやって渓谷の魚を捕らえているのだろう。より正確にいうと、どうやってこの崖上まで戻って来たのだろう。やはり跳ぶのか。僅かな出っ張りを足場に。その図体で?

 今は身体を乾かしているのだろうが、アタックの際にはこの高さからダイブするのか。興味は尽きない。


 迂回する理由もないのでそのまま近付くと、ペンギン(仮)はじっと動かず、目だけこっちを捉えている。手が届く距離になってもそれは変わらない。

 この風格、やはりコウテイペンギンに近いのだろうか。や、コウテイペンギンがふてぶてしいとか勝手な想像だけど。

 近付いてみて驚いたが、生前のペンギンより臭みが少ない。清流の魚を食べているからか?

 いや、そもそもそれが勝手な思い込みで、こんなナリで主食は木の実かも知れない。それか虫。岩場に居るし。


 生前の彼らはどうにも匂いが耐えられなかった。私は魚を好まない。赤い血はあるが、なんかあんまり。生臭いし。

 それを主食にしているペンギンの匂いも好きではなかったが、この世界のペンギン(仮)なら問題ない。

 友好を示す一つの手段として、手を差し出してみる。


 ペンギン(仮)は、視線を私の顔から手へと移し、また私の顔を見てから、そっとヒレを手のひらに合わせて来た。


 ……握手の文化があるのか。普通、匂いを嗅いだり嘴で確かめてみないか?

 まあ普通に考えて、何かしら生態的に意味がある行動なのだろう。普通に考えなければ、人間の文化に一定の造脂が得られるほど賢いか。異世界だしな。可能性は否定出来ない。

 手とヒレを離し、軽く頭を下げると、ペンギン(仮)もゆっくりと(こうべ)を垂れる。

 そのまますれ違ってその場を後にした。

 いやー良い経験が出来た。鳥は模倣が得意だし、単に私の動きを真似ただけかも知れない。

 それでも私が満足したから十分だ。


 ああ、そうだ。サイズ的にも、私にぴったりだな。匂いも無いし、食べるのも十分に有りだろう。

 そう思って振り返ると、私の背中をじっと見ていたペンギン(仮)は、びくんと身体を震わせて、先程までの不動の構えはなんだったのかという機敏な動きで崖下にダイブした。

 やはりこの高さから落ちれるんだな。そして、相当頭は良さそうだ。

 私はそこまで食欲駄々漏れだとは思いたくないね。


 ◆


 しばらく歩く。私の足で二月程。高山地帯を抜け、段々と、緑豊かな里山っぽくなって来た。いくつかの峠を越せば、下り一辺倒で平野部が望めるかも知れない。

 山間部にもなんだかんだで鳥や獣も居たが、身の芳醇さは豊かな土地のものが圧倒的だ。久方振りに鱈腹喰おう。


 山脈越えに二月と言ったが、私は歩く時は歩くが休む時は休む。食糧の目処が立った辺りで、二十日程眠りに就いた。

 遮蔽物の問題は、穴を掘って地面に潜ることで解決。生前は、逃げ場が無くなり、万一昼間にでも掘り起こされたら命に関わるので、やる者はいなかっただろう。今生の私は日に晒されても即死しないので、精神的にも安眠出来た。

 地面の中は意外と快適だった。幼虫の気持ちが少しわかった。ネズミやうさぎも掘るけどね、穴。

 改めて言うことではないが、着ている服は物質創造したもので、脱ぐ度消えるのでいつでも新品。

 身体を洗うボディソープも、身体を離れれば消えるが、洗い終えたら流すので同じこと。

 高山と言えど雨が降る雪も積もる。即ち地面の中には水が流れているので、そこから水分を取れば飲み水は勿論、水浴びも出来る。

 私の身体はいつでも清潔だ。人間になって、新陳代謝が不便に感じることもあるが、山越えなんてすればどの道汚れる。身綺麗にする手間は同じだろう。


 そんな訳で、いつでも人里に下りることは出来る。出来るのだが……どうしようか。

 盆地というのか、山の中に窪んだ森があり、人のものと思しき小規模な集落が見える。流石にゴブリンやオークのものではないだろう。いや、サブカルで得たあっさいファンタジー知識ではわからんけど。いままで見たことないしな、魔物。

 少女が言うには、そして街の図書館で調べた限りは、間違いなく魔物と呼ばれる存在はいる。だが、詳しい生態などはわからない。

 こんな風に集落を作る可能性も、なきにしもあらずだ。


 考えてたってしょうがない。近くまで寄れば匂いで判別出来る。もし人里なら、別の場所に行くためのルートが期待出来るだろう。完全に自給自足の僻地の可能性も……あるというか、高いだろうか。盆地だしな。

 集落に下りず、このまま迂回して、向かいの峠を越えた方が平野部への早道やも知れん。

 そこまで考えて、旅の醍醐味は効率より寄り道だろうと思い直す。少なくとも、私はそうだ。

 生来引きこもり体質の私たち。元から旅自体無駄でしかないのだから、積極的に無駄に首を突っ込まないとな。


 集落に凸する決意を(みなぎ)らせて、こっそりと気配を殺して近付く。住人と接触するつもりはない。人見知りだもの。

 匂いは人間のものだ。文明の匂いがする。少なくとも、腰ミノで肌に泥を塗りたくった系の部族ではない。

 動物的な匂いも少なく、農耕民族であると予想出来る。なら、作物の交易が期待出来るだろう。先に繋がる匂いだ。悪くない。


 となると、普通に対角の山を越えるだけでも平野が見えそうだ。この村の探索をする必要性は無い。

 そんな中、村から出ていく一団の姿を視認した。


 子供だ。やんちゃ盛りが四人組。


 必要性は無いのだが、面白いことには積極的に首を突っ込んでいきたい。

 後をつけよう。地元民の秘密の場所でも見付かれば儲けもんである。



「こういう展開だと、子供が魔物に襲われるのがお約束だな。

 わかっていて後を追う! 体のいい撒き餌だな子供は」


 ま さ に 外 道

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