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「先輩による後輩いびり」



 土を窪ませ、その回りを石と粘土で囲む。上に熱を逃がす構造の竈とは違い、こちらには空気を送る穴以外を密封し、内部に熱が篭るように作る。

 掘った土の粘土質の部分を物質創造し、大きめの石の中心部を長方形にくり貫いて、そこに粘土を詰めて、空気を抜いて木ベラで均して形を整えたら、水分を奪って乾燥させる。


「粘土詰める。取り出す。焼く。レンガ出来る」


「……はい」


「レンガ積む。暖炉出来る。暖かい」


「はい」


 何故か片言だった。伝わっていれば問題ない。特段急ぐ必要はないのだが、少女の言うところによれば、もうすぐ実りの秋がやって来るとのこと。この辺りは四季が結構激しいらしい。

 秋が来れば次は冬だ。そして、なんということだろう、冬は寒い。私は兎も角、少女には辛かろう。無論、秋も底冷えするし、作っておくに越したことはない。というか、森の中の小屋で暖房器具も無しでは普通に死にかねない。何故少女はこんな場所に逃げ込んだのか。軽い自殺だな。

 しかし……。すると、最近は夏だったのか。通りで干された時、陽射しがキツかったわけだ。


「あのぅ、レンガをどうやって石から取り出すんですか?」


 いい質問だ。粘土を詰めた石を真っ二つに割り、中を取り出したら、物質創造で元に繋ぎ直す。いや、そんな泣きそうな顔しなくとも、流石にこれをやれとは言わないから。無理なことくらいわかっとる。まあ、粘土は乾くと縮むので、崩さなければ普通に取り出しても構わないのだが。

 材料、燃料を集め、組み立てるのは私だ。少女には火の番をして貰う。レンガを積むためにはモルタルも必要だが、材料は同じなので物質創造してしまおう。

 ……レンガも物質創造出来るんじゃないかって? そこはほら、やっぱり手作り感を出したい。そんな理由で少女に労働させていると考えると、賽の河原で石を積む光景を連想してしまうので、私は考えるのを止めた。


 少女にレンガを焼かせている間に、私は食材調達に赴く。三食一々狩りに出ないといけないのは面倒だな。保存を利かせるにも、塩がないので難しい。強いて言うなら、スモークなら干物よりはマシだろうか。こちらも塩漬けには出来ないが、生や焼肉よりは保たれるだろう。

 皮算用をしながら狸を捕まえて戻ると、少女の姿は窯の前にはなかった。というか、小屋の前に転がり、うさぎに踏まれていた。真っ白な毛並みに血のように赤い瞳。アルビノ草兎である。

 何を遊んでいるんだ、お前たちは。もう仲良くなったのか。


「うぅ……、たすけてくださぃ……」


 助けてと言われても……うさぎだぞ? 小動物より弱いとか、本気で大丈夫かお前。

 私がうさぎに視線を遣ると、うさぎはげしげしと小さな足でストンプして、少女に唾を吐いて上から退く。ガラの悪いうさぎだ。元からか。殺気剥き出しだったし。

 うさぎは私の方をじっと見た後、小屋を見遣り、視線を追った私が小屋の前に添えられた草に気付くのを見届けて、森の中へ去って行った。あの草は前にも置かれていたな。すると、縄張りのマーキングの邪魔をされて、少女に対して迎撃行動を取ったといったところか。縄張りの主張が、草を置く、程度ならかわいいものだ。それぐらい許可してやろう。汚したら殺して食うが。

 いや……、それなりに愛着はあるし、半殺しに留めて、うさキマイラの実験に使うか。運が良ければ今より強くなるし、文句は言わんだろう。早死にしそうだが、即死よりは執行猶予が付く分、親切である。


 ぼろぼろになってしまった服を物質創造で作り直し、絹のハンカチを濡らして顔を拭いてやる。怪我は……、内出血と切り傷程度。唾でも付ければ治る。うさぎの……いや、なんでもない。

 被害者の言い分を鵜呑みにするのはあれだが、少女が言うには、小屋の近くをうさぎが彷徨いてるのに気付き、見たことが無い色だけど、うさぎくらいなら自分でも狩れると思い、ああなったとのこと。

 自分の食い扶持ぐらいは稼ぎたいという負い目、ある程度は自然に詳しいという侮り、見たことのない相手に対する無警戒。以上の三点が敗因の、一言で言うなら若さだろう。生きていく上で不必要に怯える必要はないが、臆病くらいが丁度いい。


「突然変異種かも知れません……うさぎがあんなに強いなんて、絶対おかしいですよ……」


 飽くまでうさぎより弱い人類であることを認めないんだな。まあ、少女にもプライドはあろう。コメントは控える。

 うさぎが置いて行った、前と同じ良い匂いのする草を回収すると、持ち直した少女が首を伸ばして手元を覗き込む。曰く、少女でも知っている草で、薬にもなるものらしい。ふむ、それを咥えていたうさぎの唾ならーーああいや、なんでもない。

 薬草は生のまま磨り潰して塗っても、乾燥させて粉にして飲んでも使えるらしい。他の薬の材料にも。じゃあ早速とこれを擂って少女に塗ろうとしたら、もの凄く恐縮した様子で強めに拒否された。かすり傷程度ではそんなものか。あのうさぎ由来のものだし、迂闊に使うと目を付けられると思ったのかも知れない。

 とりあえずこれも洗って保管しておくとして、食事にしようか。木材を使って簡単な燻製装置を作ろう。

 ん、また肉オンリーなのかって? 人間、肉を食ってればなんとかなるんだよ。狩猟生活が農耕に移行して、人類は病気に争いに余計な苦労が増えたと知らんのか。知らんか。そこは狩猟採集生活なので、野菜果物もしっかり採っていたと突っ込む場面だ。無論、農耕生活で圧倒的に野菜の割合が増えたので、必須栄養素を得るためには大量の食物が必要となり、肥満に便秘に栄養失調と、肉メインであった頃より確実に身体は壊れているんだ。わかったら肉を食え肉を。大体のファンタジー異世界には魔物が大量発生していて、必然的に魔物の肉で食生を保たれてるから、日本人と比べても身体でかいんだよあいつら。


 少女は森の中で食べられる植物にも詳しいらしいが、それは暖炉が出来てからだ。

 自分の強みでアピールしたい気持ちはわかるが、それは与えられた仕事を十全に熟せるようになってから。労働力なんてものは大抵誰にでも出来るものだ。それを期待されて置いているのだから、余計な欲目を出して焦らないこと。わかったな?



 現状、少女は施されている側だ。私としては子育てでもしているノリなので問題ないが、少女の立場では辛かろう。私を主と仰いでいる以上、常に路頭に迷う恐れがある訳だから。

 その懸念は正しいが、甘ったれたことを言われても困る。少女には精々多くのことを学び、ここでのことを糧にして貰いたいものである。理不尽な主の()なしかた、とかな。



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