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「訪問者がありました」

新章突入です。やっぱり登場人物が一人だと話をを展開させるのが難しいので(ぶっちゃけ)


「」を使った会話のやり取りも解禁です。登場人物が一人の短編じゃないと難しいので。今回は諦めます。



 そんなある日のこと。


 失礼、森の中でのスローライフにも慣れ、日がな一日寝ていたり、何もしなかったり、ぼーっと過ごしていた。そんなある日。

 草木も眠る丑みっつ。ドアをノックする音に、私は目を覚ました。

 正確には、中型~大型の動物が、警戒速度で近付き、まっすぐにドアに向かって来たのが気になって目が覚めた。目が覚めた、と言っても、ベッドの中で半覚醒してごろごろと、起きるかどうかとぐだぐだしていただけで、寝惚け(まなこ)というわけではない。


 高さは大型、体積は中型。接近速度……訝しみながらも、出入り口を正確に把握している。間違いない。知的生命体である。

 丸太小屋が人類の住まいとわかる程度の文明はあるらしい。これが、余りに下だったり、上過ぎても、居住区だとは認識されなかっただろう。洞穴を見ても、現代人は『家』だと認識しないように。

 ノックをする辺り、文明の形態も私が知っているものと似通っているのだろう。勿論、違う可能性も否定は出来ない。叩いて確かめるのは、ある程度知能があれば当然思い付く対処用法だろうし、もしかしたら、反響音で内部の様子を探れる生命体かもわからない。


 少し考えたが、居留守を使って、万一ドアの一つも破壊されたら、私は怒髪天を衝く自信がある。ここは、相手が自分と同程度の文明人であると仮定して、ドアを開けて応対する、という対処を選択する。安全のためにドア越しに問答をする、という手段も考えられるが、私はそこまで不誠実ではない。顔を合わせた方が、色々と情報も手に入るしな。

 顔を見ずにお話しして、仲良くなった相手が化け物だったというお話もあることだしな。あったよな? まあ最悪伏せって顔の見えない(ばば)ぁが狼だったのと繋げよう。


 ドアを内側に開けると、そこに立っていたのは、私の知っている人間の姿をしたものだった。別に肌が緑色だったり、爬虫類面をしていたり、服の代わりに毛で覆われていたりはしない。

 至極普通の、貧しい村の村娘が纏うような衣服(ボロ)。何処にでもいるような、栗毛茶眼でそばかすのある、純朴そうな顔立ち。

 年の頃は15、6……ああいや、ベビーフェイスの日本人からするとそう見えるが、欧米では12、3くらいだろう。この辺りの発育状況はわからないし、遺伝的なものがあるから一概には言えないが。

 ただ、12、3歳にしてはけしからんというか、出るところは出て、くびれるところはきゅっとしてる、所謂(いわゆる)スレンダーな体型をしている。スレンダーとはモデル体型のことを指す言葉であって、決して寸胴微乳をオブラートに包む(馬鹿にした)言葉ではないと明言しておく。

 『スレンダー(すれんだー)(笑)(かっこわらい)』という、日本語の一単語であるなら認めないこともないがね。個人的には。


 その、少女、と呼んで差し支えない物体は、森の中を行軍した弊害か、衣服(ボロ)はぼろぼろの泥汚れ、頬は痩け、疲労困憊といった有り様だった。身体の汚れは川で落としたのだろう。

 色々と思うところはあるが、先ずは話を聞こう。こんな夜更けに戸を叩いたのだ、向こうには言い分があるだろうが、しかし。


 ……。


 言語が……、言語が通じてない!

 私の顔を見て、必死に何かを訴えているであろう少女(仮)。しかしその口から流れる言葉の羅列は、私が聞いたどの言語とも合致しない。


 異世界だ。こういうこともある。寧ろ、当然ですらある。いや、私の知っている人間と同じ特徴を持つ知的生命体がいるということは、前世である世界から見てそう遠くないルーツを持っていて然るべきだろう。生命の進化というのは、そう外れたことは起こらない。然るべき必然が起こるのみ。僅かなボタンの押し間違い、その差が徐々に拡がっていくものだ。

 で、あるならば、人類の扱う言語形態にも、そうズレが生じる筈がないのである。猿から生じた猿人類ではなく、魔法でやり取りをする魔人類であるとかなら、もうお手上げだが。


 最初からスプーンをぶん投げるわけにもいかない。暗号解読は得手ではないが、言語の解読をする必要がある。人類が公用で扱っているということは、そこまで複雑怪奇な文法はしていないだろう。日本語じゃあるまいに。


 暫く少女(仮)の話すに任せて聴きに回る。頻繁に出て来る単語と言い回し、現状を加味してチョイスされる意味を鑑みて、ある程度は直感で当たりを付ける。間違っていたらそれはそれ、最低限意思の疎通が出来てからでいい。

 どうした? 早く喋れ。ああ、ゆっくりな。咽? そこに川があるだろう。


 こちらからは一切口を開く様子のないことから、少女は既に涙目だが、自分の立場が弱く、こちらに訴えかける側という自覚があるのか、私に喋り続けることを選択したようだ。私にとっては有り難いことだね。

 無視されていると思っているのか、自分が困窮しているとアピールして懇願しながら、言葉が通じないと気付いたのか、ジェスチャーをしながら訴えたり。少女は私に様々な情報を与えてくれる。

 どうでもいいが、困窮して懇願がやたらと扇情的だな、12、3にしては。しかも無自覚に嗜虐心を煽って来るタイプ。森に住むきこりのおじさんとかなら迷わず連れ込むだろう。ちょっと心配になって来た。近くに私以外が住んでいる様子はないが。


 聴いていると、段々と断片的に言葉が理解出来るようになって来た。訴えを信じるなら、案の定『森で迷った』『もう水しか飲んでいない』『食料があれば分けて欲しい』『小屋の中で休ませて欲しい』……という旨の要望をしているようだ。

 勿論本来は、謙虚に、下手に出て、懇願しているのだろう。私に理解出来るのはカタコトで、何度も同じ訴えをして雑になっているのは仕方ない。


 なんかこんな話を聞いたことがあるな。鶴の恩返しか。あれって最終的に鶴がハゲになる話だったな。ばれて良かったろう。

 しかし私は動物に優しくした思い出はない。これっぽっちも。精々がうさぎを殴ったり、ハクチョウをハゲにしただけである。それ以外は大抵サーチ&デス。来るとするなら怨反(おんがえ)し……。などと言ってる場合ではなく。


 大体わかった。正確に伝わるかはわからないが、こちらもリアクションを返すべきだろう。

 私が一つ頷くと、要望が通ったと思ったのか、それとも単に、人の形をした置物ではないことに安堵したのか、少女の表情が弛んだ。



「貴様に食わせられるものなど何も無いぞ。人間喰いの人妖(バケモノ)め」



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