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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
第1章 黒猫、悪役令嬢に拾われる

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8/58

第8話 黒猫式・悪役令嬢改造計画、始動

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 シルビア・グランベルを悪役令嬢にしないためには、何が必要か。


 私は一晩かけて考えた。

 場所は、シルビアの部屋の隅に置かれた専用クッションの上である。

 大変ふかふかで、思考がよくまとまる。

 いや、快適すぎて眠くなる。


 だが、私は寝ていない。

 目を閉じていた時間はあったが、それは思考を深めるための瞑想である。

 断じて熟睡ではない。

 現状、シルビアには大きな問題がいくつもある。


 言葉選び、表情、視力、兄の教育、周囲の誤解。

 問題は山ほどある。

 そして何より、高笑いの練習をする。

 なんだか問題が増えているが、最後が非常に深刻である。


 高笑いは悪役令嬢の必須科目なので、シルビアには禁忌。

 あれを放置すると、十年後の断罪イベントで、本人に悪意がなくても「やはり昔から高慢だった」と言われかねない。


 それだけではない。

 灰色のスカートの侍女。

 彼女はシルビアの言動を常に見ていて、おそらく噂のそばにいる。

 シルビアが何かをすれば、悪く切り取られる。

 シルビアが何もしていなくても、怖い顔をしていれば悪意があったことにされる。

 つまり、シルビア本人の改善と、周囲への誤解対策を同時に進めなければならない。


 猫には難易度が高い。

 普通なら、家庭教師や家族、信頼できる使用人がやるべきことだ。

 だが、現実はどうか。

 父は娘に甘い。

 母は微笑ましく見守っている。

 兄は善意でややこしくしている。

 使用人は恐れて指摘できない。

 結果、黒猫の私に仕事が回ってきている。

 職務分担がおかしい。


 しかし、文句を言っても始まらない。

 私は猫である。

 猫にできることは少ない。

 だが、ゼロではない。


 そこで私は、計画を立てた。

 名づけて、黒猫式・悪役令嬢改造計画。


 目的、シルビア・グランベルの悪役令嬢ポイントを減らし、断罪エンドを回避する。

 第一目標、「ありがとう」を言わせる。

 第二目標、「ごめんなさい」を言わせる。

 第三目標、命令形を減らす。

 第四目標、高笑いを完全封印する。

 第五目標、可能なら視力問題に着手する。


 最後の難易度が高いが。

 猫に何をやらせようとするのだ。


 よし、まずは日常会話からだな。

 私は朝、シルビアが起きる前にクッションから出た。

 窓の外には朝日が差し込んでいる。

 屋敷の中はまだ静かだ。

 やがて侍女が部屋に入り、カーテンを開けた。


「おはようございます、お嬢様」

 ベッドの上で、シルビアがゆっくり目を開ける。

 寝起きのシルビアは、いつもの圧が少し弱い。

 髪も少し乱れていて、表情もぼんやりしている。

 年相応である。

 この状態、かなり可愛い。

 もう、天使である。

 だが、数秒後には公爵令嬢モード起動で背筋が伸びる。


「おはよう」

 お、普通だ。

 朝の挨拶は、意外にもできているのだ。

 侍女が身支度を整え始め、髪をとかし、リボンを選び、ドレスを用意する。

 問題はその後だった。


 侍女が青いリボンを手に取った。

「本日は、こちらのリボンでよろしいでしょうか」

 シルビアは鏡越しにそれを見た。

 目を細め、眉間にしわ。

 侍女がわずかに身構える。


「……その色は、昨日も使いましたわ」

 声が硬い。

 侍女の顔が青ざめる。

「も、申し訳ございません。すぐに別のものを」

 待て。

 ここだ!

 ここで言い方を直すのだ。

 シルビアはたぶん「別の色がいい」と言いたいのだろう。

 しかし、このままだと「昨日と同じリボンを選ぶなんて無能」と聞こえる。

 私は床を蹴った。


 侍女が持つリボンの箱へ飛び乗る。

 色とりどりのリボンが揺れた。

「にゃ」

 私は淡い白色のリボンに前足を置いた。

 これだ。

 今日はこれにしよう。

 選択肢を示せば、命令形を減らせるかもしれない。

 シルビアが私を見る。


「ノワール、それがよいの?」

「にゃ」

 よい。

 シルビアは少し考えたあと、侍女へ言った。

「では、それにしなさい」

 命令形。


 悪役令嬢ポイント、加算。

 私は即座にシルビアに背を向けた。

 すたすたと、窓辺へ歩く。

「ノワール?」

 シルビアが戸惑った声を出す。

 思わず振り向きたくなるが、私は振り返らない。

 これは教育である。


 悪役っぽい言い方をした場合、黒猫は背を向ける。

 シルビアには、言葉選びと猫の反応を結びつけてもらうことにした。


「どうしましたの。こちらを向きなさい」

 向かない。

「ノワール」

 向きません。

「……そのリボンを、お願いできるかしら」

 私は振り返った。


 よし!

 思わずガッツポーズをしたが、ただ前足が持ち上がっただけだった。

 ……。

 かなり良い。

 命令形ではない、ちゃんとお願いになっている。

 私はすぐにシルビアの足元へ戻り、すりっと体を寄せた。

「にゃ」

 正解である。


 しなさい、ではない。

 お願いできるかしら。

 そう、それだ。

  人類の進歩である。


 シルビアは目を丸くした。

「まあ……」

 侍女も驚いている。

 シルビアは少し不思議そうに私を見下ろした。


「あなた、もしかして、今の言い方がよかったの?」

「にゃ」

 そうだ。

 その調子だ。

 シルビアは首をかしげた。


「変な猫ですこと」

 否定はしない。

 しかし、最初の一歩としては成功である。


 身支度が終わると、次は朝食だった。

 食堂には、公爵夫妻と兄レオンハルトがいた。

 私はシルビアの足元に控える。

 公爵家の食堂は広い。もちろんテーブルも大きい。そして料理も豪華だ。


 だが、猫に出されるものは別である。

 私には小さな皿に入った鶏肉が用意されていた。

 美味しい。

 大変美味しい。


 私は断罪エンド回避担当であると同時に、猫である。

 食事は大事だ、健康のためにも、楽しみのためにも。


 シルビアはスープを口にして、少しだけ眉を寄せた。

 近くに控えていた料理係が緊張する。

「お口に合いませんでしたでしょうか」

 シルビアは言う。

「少し塩が強いですわ」

 料理係の顔が青くなる。

 まただ。

 言っている内容はただの感想かもしれない。

 しかしシルビアの言い方が強いせいで、いや顔が強すぎるのもあるが、料理係には叱責に聞こえている。

 シルビアは続けようとした。


「こんな味では――」

 まずい、その先は危険だ。

 私は即座に椅子の下から飛び出し、シルビアの靴に前足を置いた。


「にゃ」

 言葉を選べ。

 シルビアは少しだけ口を閉じた。

 そして、言い直す。


「……けれど、野菜の甘みはよく出ていますわ。次は、もう少しだけ塩を控えなさい」

 料理係が目を丸くした。

 公爵夫人が、ほんの少し微笑む。

 レオンハルトも意外そうにシルビアを見た。

 お、かなり良い。命令形だが。


 最初に改善点を言ったが、良い点も言えた。

 命令形だったが、現時点では合格である。

 私はシルビアの足にすり寄った。

「にゃ」

 シルビアは足元の私を見下ろし、少し得意げな顔をした。


「ふふん。分かりましたわ。あなた、わたくしがうまく言えると喜ぶのね」

 そうだ。

 かなり理解が早い。

 やはりシルビアは賢い。

 方向は劇的に間違えるが。

 公爵が不思議そうに言った。


「ノワールは、ずいぶんシルビアに懐いているな」

 レオンハルトがうなずく。

「懐いているというより、何かを教えているようにも見えます」

 お、レオニーよ、良いところに気づいたね。

 シルビアは胸を張った。


「当然ですわ。ノワールは賢い猫ですもの」

 私は鶏肉を食べながら、静かにうなずいた。

 元人間なので。


 朝食後、計画第二段階に入った。

 目標、「ありがとう」を言わせる。

 これは難関である。


 シルビアはお礼を言われるのは苦手だが、自分から言うのはもっと苦手らしい。

 なぜか分からないが、「ありがとう」と言おうとすると、代わりに「当然ですわ」が出てくる。

 自動変換機能がバグっている。


 その機会はすぐに訪れた。

 侍女エマが、シルビアの机に新しいインクを用意した。

「お嬢様、こちらのインクが届きました」

 シルビアはそれを見て、少しだけ目を輝かせた。

 どうやら欲しかったものらしい。


 深い青のインク。

 光に当たると、わずかに銀色が混ざって見える。

「まあ……」

 シルビアは小さく声を漏らした。

 今だ!

 ここで「ありがとう」だ!


 エマは少し緊張しながらも、微笑んでいる。

 シルビアは口を開いた。

「当然の――」

 私は噛んだ。

 足首に、かぷりと。

「いたっ」

 シルビアが小さく声を上げる。

 エマが驚く。

「お嬢様!」

 シルビアは私を見下ろした。


「ノワール! あなた、噛みましたわね!」

 必要措置である。

 私はシルビアを見上げる。

 今のは危険だった。「当然の働きですわ」と言うところだった。


 せっかくエマが嬉しそうにインクを持ってきたのに、それでは台無しである。

 シルビアは私とエマを交互に見た。

 そして、少しだけ唇を引き結ぶ。


「……ありがとう、エマ」

 部屋が静かになった。

 エマが目を丸くする。

 私も一瞬、息を止めた。

 言えた……。

 今、言えた。

 シルビアが、自分から「ありがとう」と言った!

 エマの顔がぱっと明るくなる。

「はい、お嬢様!」

 シルビアは真っ赤になった。


「そ、そんな大げさに喜ぶことではありませんわ! ただの礼です!」

 悪役令嬢ポイント、少し加算。

 だが、ありがとう成功により大幅減点!

 私は満足して、シルビアの足元にすり寄った。


「にゃ」

 よくできました。

 シルビアはまだ赤い顔で、私を抱き上げた。

「あなた、わたくしにだけ厳しすぎませんこと?」

 そうかもしれない。

 だが、厳しく導くのが公爵家の務めらしいので。


 昼過ぎには、第二の難関が訪れた。

 目標、「ごめんなさい」を言う。

 これは「ありがとう」以上に難しい。


 きっかけは、シルビアが廊下で小さな花瓶にぶつかったことだった。

 花瓶は倒れなかったが、中の水が少しこぼれ床に広がった。

 近くにいた小間使いの少女が慌てて駆け寄る。

「あっ、お嬢様、お怪我はございませんか」

「怪我などしていませんわ。そんなことより、床を拭きなさい」


 はい、悪役令嬢ポイント、加算。

 いや、床が濡れているのは危ない、拭くのは正しい。

 だが、ぶつかったのはシルビアである。

 ここは謝罪だ。

 私はシルビアの前に回り込み、じっと見上げた。


「にゃ」

「何ですの」

「にゃっ」

 ごめんなさい。

 シルビアは目をそらした。

「花瓶がそこにあったのが悪いのですわ」

 違う。

 花瓶は昨日もそこにあったし、おそらく明日もそこにある。悪いのは距離感を見誤ったシルビアである。

 視力問題も絡んでいる可能性が高いが。


 私はじっと見た。

 シルビアも私を見る。

 数秒のにらみ合い。

 いや、シルビアは目を細めているだけかもしれないが、見た目は完全ににらみ合いである。


 小間使いの少女が困ったように二人を見ている。

 私は動かなかった。

 ここは譲れない。

 シルビアはやがて、少しだけ肩を落とした。


「……わたくしが、少しぶつかったのも事実ですわ」

 お、前進。

「その……」

 言え。

 あと少しだ。

 頑張れ!

「……ごめんなさい」


 言えた。

 言えたーーーっ!!!

 私は今度は心の中で拳を高く振り上げた。


 小間使いの少女は目を見開いた。

「い、いえ! とんでもございません!」

 シルビアは顔を赤くし、ぷいっとそっぽを向く。


「床が濡れていると危ないので、早く拭きなさい」

 最後が命令形。

 だが今はよい。

 謝罪成功である。


 私はシルビアの足元で喉を鳴らした。

 順調だ。

 非常に順調だ。

 少なくとも、今日一日だけで「お願い」「ありがとう」「ごめんなさい」のトリプルコンボが出た。

 これは大きい。

 この調子なら、断罪エンド回避も夢ではない。


 そう思った、その日の夕方。

 シルビアは庭の東屋に立っていた。

 嫌な予感がした。

 彼女は片手を口元に添える。


「おほほ――」

 私は飛んだ。

 迷いはなかった。

 シルビアのドレスの裾へ飛びつき、前足で押さえる。

「にゃあ!」

 禁止!

 高笑いは絶対禁止!

 シルビアは驚いて私を見下ろした。


「ノワール! まだ何もしていませんわ!」

 今からするところだったでしょうが。

「わたくしはただ、優雅な笑い方を練習しようと」

 それは優雅とは言わない!悪役である。

 私は断固としてドレスの裾を離さなかった。

 シルビアは困ったように眉を寄せる。


「そんなにだめですの?」

「にゃ」

 だめです。

「……では、どう笑えばよいのです」

 私は固まった。

 どう笑えばよいのか。


 猫に聞くな。

 しかし、ここで答えなければ高笑いが復活する。

 私は少し考えたあと、シルビアの足元でころんと転がった。

 腹を見せる。

 いわゆる、猫の信頼ポーズである。

 そして、小さく喉を鳴らした。

「ごろごろ」

 シルビアが目を丸くする。

「……それが、笑い方?」


 違う。

 いや、違うが、力を抜けという意味では合っている。

 シルビアはしばらく私を見ていた。

 そして、ふっと小さく笑った。

 口元がゆるみ、目元が柔らかくなる。

 ほんの一瞬だけの自然な笑み。

 私は固まった。


 破壊力。

 やはり高い。

 これは確実に変な虫が寄る、非常に危険。

 だが、高笑いよりはいい、ずっといい。

 シルビアはすぐに表情を引き締めた。


「……今のように笑えばよいの?」

「にゃ」

 そう。

 それだ。

 今のだ。

 ただし外で乱発するな。

 シルビアは少しだけ照れたように顔をそむける。


「変な猫ですこと。笑い方まで教えようとするなんて」

 教育である。

 悪役令嬢改造計画は、順調に進んでいる。


 だが、順調な時間は長く続かなかった。

 夜。

 シルビアが部屋で本を読んでいると、扉がノックされた。

 入ってきたのは私の名付け親でもある、執事のセバスチャンだった。


 シルビアは本から顔を上げる。

「何かしら?グロース」

ん?

グロース?

セバスチャンじゃないの?


「お嬢様。旦那様よりお伝えするよう申しつかっております」

執事の名前に動揺して、話の内容が頭に入らない。

まあ、勝手にセバスチャン呼びしてたのは私だけど。

でも、執事って言ったらセバスチャンじゃない?


「三日後、王太子殿下がこちらへお越しになります。お嬢様とのお茶会が予定されております」

 私はここで耳を立てた。

 王太子。

 アレクシス王太子。

 シルビアの婚約者であり、ゲーム本編では彼女を断罪する中心人物。

 そして、幼い頃のシルビアを誤解し、彼女の心に傷を残す相手。


 来る。

 ついに来る。

 シルビアは一瞬、固まった。

 それから、すぐに背筋を伸ばす。

「分かりましたわ。婚約者として、失礼のないようにいたします」

 声は落ち着いている。


 だが私は見逃さなかった。

 シルビアの指先が、ほんの少し震えているのを。

 緊張している。

 いや、たぶんそれだけではない。

 王太子に会えることを、楽しみにしているのかもしれない。

 しかし、その気持ちをどう出せばいいか分からない。


 そして、アレクシスはおそらく、それを読み違える。


 まずい。

 非常にまずい。

 今日までの相手は、使用人や家族だった。

 多少の失敗は、まだ取り返せる。

 だが、王太子は違う。

 ここで誤解を積み重ねれば、十年後に大きく響く。

 私はシルビアの足元で、静かにしっぽを揺らした。


 黒猫式・悪役令嬢改造計画。

 大きな試練が来た。


 目標。

 王太子アレクシスに、シルビアを誤解させないこと。

 難易度は非常に高い。


 相手は王太子。

 シルビアは緊張すると悪役令嬢化するし、私は猫なので話せない。

 だが、やるしかない。


 私はシルビアを見上げた。

 その横顔は、すでに少し悪役令嬢に見えた。

 違う。

 この子は、悪役ではない。

 ただ、不器用で、緊張していて、恋にもまだ名前をつけられないだけ。


 ならば私が止める。

 悪役台詞も、誤解も、断罪イベントへつながる小さなひびも。

 必要なら、王太子であっても噛んでやる。

 私は決意を込めて鳴いた。


「にゃ」

 シルビアが私を見下ろす。

「ノワール?」

 私は彼女の足元にすり寄った。

 大丈夫。

 いや、保証はできないけれど、全力は尽くす。


 断罪エンドまで、あと十年。

 まずは三日後のお茶会を、何としても乗り切らなければならない。

「賢いとポンコツは同居可能なのか。シルビアを見ていると、賢いの?ポンコツなの?と混乱すること多数。早期の仕様書送付を望む。by ノワール」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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