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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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57/58

第57話 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 最初に彼女を見たとき、私は思った。


 終わった、と。

 目の前にいたのは、乙女ゲームの悪役令嬢。

 シルビア・グランベル。


 公爵家の長女。

 王太子の婚約者。

 ヒロインをいじめ、最後には断罪される少女。

 ゲーム本編では、ルートによって国外追放、修道院送り、最悪の場合は処刑。

 そんな未来が待っていた。


 私は黒猫だった。

 できることは少なかった。


 人間の言葉は分かる。

 文字も読める。

 けれど、話せない。

 書けない。

 魔法も使えない。


 できることといえば、鳴く。

 噛む。

 引っかく。

 落とす。

 乗る。

 邪魔する。

 寝る。

 靴ひもをほどく。


 かなり猫である。


 それでも、やるしかなかった。

 だって、最初に見たシルビアは、極悪非道の悪役令嬢ではなく、ただのポンコツお嬢様だったから。


 紅茶が熱すぎると怒ったのは、侍女の舌を心配していたから。

 焼き菓子を処分しなさいと言ったのは、食べてほしかったから。

 強い言葉で人を止めたのは、怪我をさせたくなかったから。


 善意の出力先を間違えている。

 言語変換機能が壊れている。

 教育方針の被害者。

 不器用で、素直すぎて、優しさの伝え方を知らない子ども。

 それが、シルビアだった。


 だから私は決めた。

 この子を悪役令嬢にはしない。

 断罪エンドまで、あと十年。

 猫の手しかない。

 だが、やるしかない。


 それから、いろいろあった。

 名前をつけられそうになった。

 漆黒の支配者。

 闇夜の皇帝。

 黒き雷光。

 クロマル一世。

 ブラック・デス・キャット。


 危なかった。

 本当に危なかった。

 ノワールという名前に落ち着いてよかった。


 悪役顔の正体が、近視と表情筋だったこともあった。

 この世界、メガネどうした。

 庭師を泣かせかけた事件を止めた。

 兄レオンハルトがポンコツ教育の製造ライン責任者だと知った。

 紅茶事件を体当たりで防いだ。

 シルビアの善行が悪行に見える問題に頭を抱えた。


 ありがとう、ごめんなさい、お願い。

 それらを覚えさせるため、何度鳴いたか分からない。


 王太子の靴ひもを狙った。

 かなり狙った。

 アレクシスは最初、観察力がなかった。

 顔はいい。

 身分もいい。

 周囲の評価も高い。

 だが、観察力がない。

 将来の国王としてやや不安。

 そう思っていた。

 けれど、彼も変わった。


 シルビアの言葉の奥を見るようになった。

 噂をそのまま信じなくなった。

 彼女を守ると決めた。

 そして、最後には直球で好きだと言った。

 かなり成長した。

 靴ひも教育の成果である。


 リーナとも出会った。

 本来のヒロイン。

 聖女候補。

 シルビアにいじめられ、王太子に守られるはずだった少女。

 だが、彼女もシナリオ通りにはならなかった。


 最初はシルビアを怖がった。

 でも、見てくれた。

 シルビアの言葉の奥を。

 行動の意味を。

 怖さの裏にある優しさを。


 そして、シルビア語の通訳になった。

 人類の進歩である。


 クラリスもいた。

 優しい従姉妹の顔をした、嫉妬と野心の塊。

 彼女は悪かった。

 間違いなく悪かった。

 けれど、ただの悪役ではなかった。


 欲しかった。

 届かなかった。

 認められたかった。

 どうしてシルビアばかり、と思い続けた。

 その感情を、毒にしてしまった。

 許せるかどうかは別として、彼女もまた、物語に歪められた一人だったのかもしれない。


 馬車事故もあった。

 私は死んだ。

 いや、死にかけたと言うべきか。

 いや、正確には二つ目の命を失った。


 猫には九つ命がある。

 一つ目は前世で失った。

 二つ目はシルビアを庇って失った。

 三つ目で、今ここにいる。

 残り七つ。


 でも、もう軽く数えるつもりはない。

 命が複数あるから大丈夫、ではない。

 死ぬのは痛い。

 あと、主が泣く。

 それが一番痛い。


 グランベル公爵家も動いた。

 父は静かに激怒した。

 母は優しく、恐ろしく、社交と内側を洗った。

 兄は自分の教育を反省し、正しく守ると決めた。

 この家は怖い。

 王家より怖い。

 しかし、その怖さはシルビアを守るためにあった。


 シルビアは一人ではなかった。

 ずっと愛されていた。

 ただ、それを受け取り方を知らなかっただけだ。


 そして星祝祭。

 ゲーム本編なら、断罪の舞台。

 悪役令嬢シルビア・グランベルが、王太子に婚約破棄を告げられるはずだった夜。


 だが、そうはならなかった。

 リーナは自分の意思で証言した。

 アレクシスはシルビアを選んだ。

 公爵家は証拠を並べた。

 シルビアは、自分の言葉で立った。


 わたくしを噂だけで見ないでください。

 わたくしも、皆様を噂だけで見ないようにします。


 その言葉を聞いたとき、私は思った。

 ああ。

 この子はもう、悪役令嬢ではない。


 今日。

 学院の庭で、シルビアはリーナと花を見ている。

 アレクシスも隣にいる。

 私は白い花のそばで丸くなっている。


「シルビア様、この花、去年も見ましたね」

「ええ」

「また一緒に見られて嬉しいです」

 シルビアは少し赤くなる。


「……わたくしも、悪くありません」

「嬉しいんですね」

「リーナ嬢」

 リーナが笑う。

 アレクシスも笑う。

「私も一緒に見られて嬉しいよ」

 シルビアの顔がさらに赤くなる。


「殿下は、最近すぐそういうことをおっしゃいますわね」

「言わないと伝わらないと学んだから」

 正しい。

 非常に正しい。

 私はしっぽを揺らした。

 シルビアは、少しむくれた顔で私を見る。


「ノワールまで納得した顔をしないでください」

「にゃ」

 納得しています。

 シルビアはため息をつく。

 それから、ふと笑った。

 自然な笑顔。

 柔らかくて、年相応で、少し照れくさそうな顔。


 最初に見た悪役顔とは全然違う。

 いや、顔そのものは同じだ。


 目つきはまだ鋭い。

 緊張すれば表情も固い。

 言葉選びも時々おかしい。

 でも、もう誰もそれだけで彼女を悪役とは決めつけない。


 リーナが訳す。

 アレクシスが見る。

 家族が支える。

 私が鳴く。


 そして何より、シルビア自身が伝えようとする。

 私は花壇の縁に前足を置いた。


 この世界に来た理由は、今でも分からない。

 前世の私がなぜ黒猫になったのか。

 なぜシルビアの庭にいたのか。

 なぜ九つの命を持っているのか。

 分からないことは多い。

 でも、一つだけ分かる。


 私は、この子に出会えてよかった。


 シルビアが私を抱き上げる。

「ノワール」

「にゃ」


「あなたがいてくれて、よかったです」


 その言葉に、胸の奥が温かくなる。

 私は喉を鳴らした。


 私もだ。

 私も、あなたのそばにいられてよかった。


 言葉にはできない。

 猫なので。


 でも、シルビアには少し伝わったらしい。

 彼女は私を抱きしめ、白い花の前で目を細めた。


 怖い顔ではない。

 柔らかい顔だ。

 アレクシスが隣に立ち、リーナが笑う。

 風が吹き、花が揺れる。


 断罪エンドまで、あと十年。

 そう思った日から、ずいぶん遠くまで来た。


 猫の手しかなかった。

 だが、その猫の手で、できることはあった。


 噛んだ。

 鳴いた。

 靴ひもをほどいた。

 証拠を落とした。

 裾を引いた。

 そして、そばにいた。

 それだけで、未来は変わった。


 私は黒猫ノワール。

 元Webプログラマー。

 元社畜。

 乙女ゲーム好き。


 現、シルビア・グランベルの黒猫。

 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した。

 ただし、まだ完全ではない。


 これからも、必要なら鳴く。

 たまに噛む。

 たまに靴ひもをほどく。


 でも、できればもう死なない。

 この三つ目の命で、できるだけ長く。

 この子の幸せを見届けるために。

 私はシルビアの腕の中で、ゆっくり目を閉じた。


 白い花の香りがする。

 シルビアの手が優しく背を撫でる。


 穏やかな午後。

 断罪エンドは、もうどこにもない。


 あるのは、不器用な少女と、彼女を愛する人たちと、一匹の黒猫の、続いていく日々だけだ。


 これは一匹の黒猫と悪役令嬢の物語。

 今日も私は、あの子のすぐそばで鳴いている。

「にゃ。」



 --- 完 ---

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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