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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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56/58

第56話 悪役令嬢は、もう一人で立たない

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 学院の季節は、穏やかに進んでいった。


 星祝祭の騒動は、まだ完全には終わっていない。

 ローヴェル伯爵家の処分。

 神殿派閥の調査。

 マリナを含む関係者の証言。

 社交界に残った噂の整理。

 大人たちの世界では、まだ多くのことが動いている。


 グランベル公爵家は相変わらず怖い。

 父公爵は静かに書類を積み上げ、母は優雅なお茶会で情報を整え、兄レオンハルトは若い貴族社会の空気を読み続けている。

 王家も動いている。

 アレクシスは以前より忙しくなった。

 それでも、学院でシルビアに会う時間は作る。


 しかも、かなり自然に。

 私は思う。

 王太子、時間管理がうまい。

 前世の私の会社に欲しかった。


 ただし、納期前に恋愛イベントを挟まれると困る。

 話がそれた。


 シルビアの生活も変わった。

 まず、勉強会が定期開催になった。

 参加者は少しずつ増えている。

 シルビアの説明は相変わらず厳しいが、以前より分かりやすい。

 こちらも進歩である。


 ノワール監督の出番は減った。

 少し寂しい。

 だが、必要なときは鳴く。


「その程度で間違えるなど――」

「にゃ」

「……そこは間違えやすいところです」

 出番あり。


 完全卒業はまだ先らしい。

 よかった。

 いや、よかったと言うべきかは難しい。


 次に、リーナとの関係。

 二人は本当に友達になった。

 最初は、リーナが一方的に近づき、シルビアが戸惑っていた。

 今は、シルビアからも誘う。


「リーナ嬢、放課後に少し時間はありますか」

「はい。あります」

「では、図書室へ」

「勉強ですか?」

「それもありますが」

 シルビアは少し視線をそらす。

「……新しく入った詩集を見たいと言っていたでしょう」

 リーナの顔が明るくなる。


「覚えていてくださったんですか?」

「たまたまです」

 嘘である。

 絶対に覚えていた。

 私は足元でしっぽを揺らす。

 リーナは笑った。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 自然に言えた。

 すごい。

 以前は「ありがとう」一つで一大イベントだったのに、今では日常になっている。


 成長とは、こういうことかもしれない。

 そして、アレクシスとの関係。

 これは、見ていて少し面白い。


 アレクシスは直球を覚えた。

 シルビアは直球を受ける練習中。

 ある日、アレクシスが言った。


「今日の髪飾り、よく似合っている」

 シルビアは固まった。

「……ありがとうございます」

 言えた。

 しかし、その後すぐ。


「これは、お母様が選んでくださったものですので」

 逃げた。

 アレクシスは笑った。


「君に似合うと思って選ばれたんだろうね」

 追撃。

 シルビア赤面。

 私は鳴いた。

「にゃ」


 王太子、加減。

 アレクシスは小さく笑って、少し引いた。

 よろしい。

 監督は必要だが、関係は順調である。

 そんなある日。

 学院の中庭で、小さな事件が起きた。

 シルビアにとっては大事な出来事だった。


 下級貴族の令嬢が、数人の生徒に囲まれて泣きそうになっていた。

 理由は、提出課題の失敗。

 魔法陣の一部を間違え、実技準備の道具を焦がしてしまったらしい。

 周囲の生徒たちは責めているわけではない。

 だが、本人はひどく落ち込んでいた。


「わたくし、また失敗してしまって」

「大丈夫ですわ」

「先生に謝れば」

 そんな声が聞こえる。

 シルビアは足を止めた。

 私は彼女の足元から見上げる。

 行くのか。

 昔なら、ここで「その程度のことで泣くなど」と言いかけただろう。

 そして相手をさらに泣かせる。

 悪役令嬢ポイント加算。


 だが、今は。

 シルビアは少し考えた。

 その顔には、緊張があった。

 人を助けたい。

 だが、言い方を間違えたくない。

 そういう緊張。

 私は鳴かなかった。


 今は、見守る。

 シルビアはゆっくり近づいた。

 周囲の生徒たちが気づき、少し緊張する。

 だが、以前ほど怯えてはいない。


「何があったのです」

 声は少し硬い。

 令嬢は驚いて顔を上げた。


「シルビア様……」

 シルビアは焦げた道具を見る。

 魔法陣の線も確認する。

 目を細める。

 怖い顔になりかけた。

 私は鳴こうか迷った。

 だが、シルビアは先に口を開いた。


「怪我はありませんか」

 お。

 最初にそれ。

 素晴らしい。

 令嬢は目を丸くした。


「は、はい。ありません」

「なら、よかったです」

 周囲が少し静かになる。

 シルビアは焦げた道具を見た。

「道具は替えがあるはずです。魔法陣の線は、ここが少しずれています。失敗の原因は、おそらくそこです」

 令嬢が肩を落とす。

「やはり、わたくしが」


「失敗はしました」

 言い切った。

 少し強い。

 だが、シルビアは続けた。

「ですが、直せます」

 令嬢が顔を上げる。

 シルビアはハンカチを取り出し、焦げた粉を少し拭った。

「ここを確認してから、もう一度書き直しましょう。必要なら、わたくしも見ます」

 令嬢の目に涙が浮かぶ。


「よろしいのですか?」

「ええ」

 シルビアは少しだけ視線をそらした。

「わたくしも、何度も間違えましたから」

 え。

 私は驚いた。

 シルビアが、自分の失敗を話した。

 周囲の生徒たちも驚いている。

 シルビアは少し顔を赤くしながら続けた。


「魔法陣は、間違えた場所を確認すれば、次は直せます。泣く前に、原因を見ましょう」

 言い方はシルビアらしい。

 でも、責めていない。

 令嬢は涙を拭いた。

「はい」

 その場に、柔らかい空気が流れた。


 リーナが少し離れたところで、嬉しそうに見ている。

 アレクシスも隣に来て、小さく言った。


「今のシルビア、とてもよかった」

 シルビアは振り返り、顔を赤くした。

「見ていらしたのですか」

「うん」

「……そうですか」

 照れている。

 だが、逃げない。

 私はシルビアの足元にすり寄った。

 よくできました。

 シルビアは私を見下ろす。


「ノワールまで、褒めているつもりですの?」

「にゃ」

 そう。


 シルビアは少し笑った。

 その笑みは、以前よりずっと自然だった。

 悪役令嬢は、もう一人で立たない。


 誰かを助けるときも。

 自分が怖いときも。

 恋をするときも。

 間違えたときも。

 周りに誰かがいる。


 リーナがいる。

 アレクシスがいる。

 家族がいる。

 私がいる。


 そして何より、シルビア自身が、自分の弱さを少しずつ受け入れ始めている。

 それは、誰かに守られるだけの弱さではない。

 誰かと一緒に立つための強さだ。


 私は黒猫ノワール。

 シルビア幸せ監視担当。


 今日の成果。

 シルビア、泣きそうな令嬢を泣かせずに助ける。

 自分の失敗を話す。


 アレクシス、褒める。

 シルビア、逃げずに受け取る。


 かなり良い。


 断罪エンドの先にも、成長イベントは続いている。

 どうやらこの物語は、エンドロールのあとが本番らしい。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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