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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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55/58

第55話 婚約者たちは、少しずつ近づく

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 アレクシスが変わった。


 いや、正確には、遠慮をやめ始めた。

 これまでも彼は、シルビアを気にかけていた。

 幼い頃の誤解を反省し、彼女の言葉の奥を見ようとし、噂をそのまま信じず、星祝祭では婚約継続を公の場で宣言した。


 かなり成長した。

 靴ひもを狙い続けた甲斐がある。

 だが、直球告白のあと、彼はさらに一段階変わった。


 何が変わったか。

 好意を隠さなくなった。

 これは大きい。

 非常に大きい。

 そして、シルビアへの負荷も大きい。


「シルビア」

 学院の廊下で、アレクシスが自然にそう呼ぶ。

 シルビアは固まる。

「……殿下」

「今日は顔色がいいね」

「そ、そうでしょうか」

「うん。少し安心した」

 顔が赤くなる。

 シルビアの顔が。

 このやり取りを近くで見るリーナは、いつも微笑んでいる。

 私はシルビアの足元で、しっぽを揺らす。


 よい。

 非常によい。

 ただし、アレクシスがあまりにも自然に距離を詰めると、シルビアが処理落ちする。

 監督が必要だ。


 ある日の放課後。

 学院の中庭で、アレクシスはシルビアへ小さな包みを渡した。

「これを」

 シルビアは少し警戒したように包みを見る。

「何ですの?」

「本」

「本?」

「前に君が探していた魔法理論書の写本。王宮の書庫にあったから、許可を取って写させてもらった」


 シルビアの目がわずかに輝いた。

 魔法理論書への反応が早い。

 恋愛には鈍いのに、本には非常に素直である。


「よろしいのですか?」

「君に読んでほしいと思って」

 アレクシスは少し笑った。

「それに、読んだら感想を聞かせてほしい」

 上手い。

 贈り物であり、次に会う理由でもある。

 王太子、かなり攻め方を覚えてきた。

 シルビアは本を大切そうに受け取った。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 アレクシスの声が柔らかい。

 シルビアは本を見て、それからアレクシスを見た。

「殿下は……」

「うん?」

「以前から、こういうことをお考えになる方でしたか?」


 アレクシスは少し驚いたように目を瞬いた。

 シルビアは言葉を探している。

「いえ、その。わたくしのために、何かを探してくださるような」

 アレクシスは少しだけ目を伏せた。

「昔の私は、考えられなかったと思う」

 正直。


「君が何を好きか、何に興味があるか、きちんと見ていなかったから」

 シルビアの手が、本の表紙をそっと撫でる。

「でも、今は見たい」

 直球。

 シルビアの顔が赤くなる。

 アレクシスは続けた。


「君が何を好きで、何に困っていて、何を大切にしているのか。ちゃんと知りたい」

 これは効いた。

 シルビアが完全に固まった。

 私は足元から見上げる。

 受け取れ。

 これは政略でも義務でもない。

 好意だ。

 シルビアは長い沈黙のあと、小さく言った。


「……努力家ですのね」

 違う。

 いや、違わないが。

 そこではない。

 私は思わず短く鳴いた。


「にゃ」

 シルビアが私を見る。

「何ですの」

「ノワールは、今の返事は少し違うと思ったんじゃないかな」

 アレクシスが笑った。

 分かっている。

 さすが、最近シルビア語とノワール語の両方を学びつつある王太子だ。

 シルビアは少しむっとした。


「では、どう返せばよろしいのです」

 アレクシスは少し考えた。

「ありがとう、嬉しい、でいいと思う」

 シルビアの顔がさらに赤くなる。

「……ありがとう、ございます」

「うん」

「……嬉しい、です」

 言った。

 言えた。

 アレクシスの目が柔らかくなる。


「よかった」

 リーナが少し離れたところで、両手を口元に当てている。

 完全に見守り体勢だ。

 リーナはシルビア見守り隊の副隊長である。

 隊長はもちろん私。

 私はしっぽを揺らした。

 恋愛方面、進捗良好。


 その後、三人と一匹で中庭の白い花を見に行った。

 以前、リーナとシルビアが初めて「また一緒に見に来る」約束をした花壇の近くだ。

 花は季節ごとに少し変わっていたが、風に揺れる白い花の雰囲気は同じだった。

 リーナが言った。


「ここに来ると、初めてシルビア様とゆっくりお話しした日のことを思い出します」

 シルビアは少し視線をそらす。


「あの日のわたくしは、相当ぎこちなかったと思います」

「今も少しぎこちないです」

「リーナ嬢」

「でも、そこがシルビア様らしいです」

 リーナは笑う。

 シルビアは赤くなりながらも、怒らなかった。

 アレクシスが花を見ながら言った。


「私は、その日ここに来なかったのを少し後悔している」

 シルビアが彼を見る。

「殿下は、邪魔しない方がよいとおっしゃいましたわ」

「うん。二人の時間を邪魔したくなかった」

「お気遣いはありがたいですが」

 シルビアは少し考え、言った。

「今なら、殿下が一緒でも、悪くありません」

 悪くありません。


 シルビア語で、かなり良い、である。

 アレクシスはちゃんと分かったらしい。

 嬉しそうに笑った。

「では、次は一緒に」

「……好きになさい」

 出た。

 照れ隠し。

 リーナが笑う。


「シルビア様、それは楽しみにしています、という意味ですね」

「違います」

「違うんですか?」

「……違ってはいません」

 いつものやり取り。

 だが、私はその光景を見て、胸が温かくなった。


 悪役令嬢とヒロインと王太子。

 この三人が、花壇の前で穏やかに話している。

 ゲーム本編では、あり得なかった光景だ。


 シルビアはリーナを傷つけなかった。

 リーナはシルビアを恐れるだけでは終わらなかった。

 アレクシスは誤解したまま断罪しなかった。


 誰か一人が変わったのではない。

 全員が少しずつ変わった。


 私は花壇の縁に座り、白い花を見た。

 風が吹く。

 花が揺れる。

 シルビアのドレスの裾も、少し揺れる。

 私はその裾に、そっと前足を置いた。


 もう、危険を知らせるためではない。

 ただ、ここにいるために。

 シルビアが私を見下ろす。


「ノワール?」

「にゃ」

 何でもない。

 シルビアは少し笑った。

 本当に少し。

 けれど、自然な笑みだった。

 アレクシスがそれを見て、言葉を失う。


 まただ。

 シルビアの自然な笑顔の破壊力。

 私は心の中でうなずいた。

 王太子よ。

 分かる。

 分かるが、見すぎるな。


 変な虫ではないが、婚約者でも見すぎはよくない。

 いや、婚約者だからいいのか。

 難しい。

 恋愛の仕様は複雑である。

 シルビアはアレクシスの視線に気づき、慌てて表情を引き締めた。


「何ですの」

「いや」

 アレクシスは少し赤くなった。

「やっぱり、君の笑顔は綺麗だと思って」

 直球。

 また直球。

 シルビアが完全に固まる。

 リーナが嬉しそうに笑う。


 私は額を押さえたい気分になった。

 猫なので押さえないが。

 王太子。

 加減。

 だが、悪くない。

 シルビアは真っ赤な顔で、私を抱き上げた。


「ノワール、帰りますわ」

「にゃ」

 逃げた。

「逃げていません」

 まだ何も言っていない。

 リーナが笑い、アレクシスも笑った。

 シルビアはますます赤くなる。

 それでも、彼女の足取りは軽かった。

 婚約者たちは、少しずつ近づいている。


 不器用に。

 照れながら。

 時々、猫の監督を受けながら。

 その歩みは遅い。

 だが、確かだった。


 私は黒猫ノワール。

 元悪役令嬢断罪エンド回避担当。

 現、シルビア幸せ監視担当。

 兼、シルビア見守り隊隊長。


 今日の進捗。

 アレクシス、贈り物成功。

 シルビア、「嬉しい」と言えた。

 リーナ、通訳継続。

 ノワール、監督継続。


 恋愛方面のバグは、まだ完全修正ではない。

 だが、少しずつ改善中である。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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